カエルタイムズ/生物

2025年11月18日 (火)

カエルタイムズ第4号[自然・総合](2005年10月25日発行)「東京のカエル」(浅井ミノル)

<100年カエル館と浅井ミノルさん>

2005年当時、井の頭自然文化園水生物館館長をされていた浅井ミノル氏にカエルタイムズにご寄稿いただきました。ここでは第4号の自然・総合面に書いていただいた「東京のカエル」を紹介いたします。カエルの生息地の減少は当時すでに言われていましたが、特に東京をはじめ都市部においては身近にカエルを見かけることがなくなったことについて書かれています。

あれから20年経ってカエルを取り巻く状況はあまり変わっていないようにも見えますが、カエルについて関心をもつ人や研究する人は確実に増えていると思います。都市部におけるヒキガエルの生態についても調査報告を読むことがあります。高層階のベランダのプランターなどに姿を見せるいわばアーバンフロッグは、新しい自然を歩み出しているのでしょうか。

特別寄稿「東京のカエル」浅井ミノル(井の頭自然文化園 水生物館館長)

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23区内にすむヒキガエル

いま東京都の23区内で見ることが出来るカエルの筆頭はアズマヒキガエル(以下ヒキガエル)でしょう。ほかのカエルの仲間がほとんど姿を消してしまった都心の近くにもまだすんでいるようです。東京都環境局がまとめた「東京都の保護上重要な野生生物種」(いわゆるレッドデータブックの東京版 1998年刊)によれば都内区部のヒキガエルの現状は「希少種」に相当するランクとされています。

私が見ている限りですが、23区内のヒキガエルの将来は決して明るくはありません。彼らがすむのに適した、庭のある昔の家はどんどん取り壊され、コンクリートで地表が固められたマンションに変わっています。一般の家屋も昔のような生垣や竹垣から、小動物が自由に通り抜けることができないブロック塀に変わっています。初春や秋には道路で自動車にひきつぶされたヒキガエルの姿を見かけ、心が痛みます。

カエルにとっての都会生活のきびしさ

ヒキガエルは通常は池などの水場がなくても生きていけますが、産卵とオタマジャクシの成長には水のある場所が必要です。都内には安定して水をたたえ、オタマジャクシを捕食する魚がやって来ない、浅い池が少なくなっています。最近都内の小学校では“ビオトープづくり”として学校に池をつくるところがありますが、私たちのビオトープ経験からいうと、ヒキガエルは産卵はできるのですがオタマジャクシになってからなかなか育ちません。一方で都会のビオトープ池にはトンボはたくさん飛んできて産卵しヤゴが育ち、いつの間にかアメリカザリガニがすみ着きます。オタマジャクシの捕食者が多すぎるのでしょうか。

そしてもうひとつの障害、つい最近も電話で相談を受けました。「うちの庭にもう何年もカエルがすみ着いて、気持ち悪くて困っているんだけど何とかなりませんか?」・・・カエルがすめる自然のあるすばらしい庭ではないですか、とお話しても理解してもらえそうもありません。都会の高層ビル化の動きはなかなか覆すのは難しいのでしょうが、人のカエルへの理解が少しでも高まってほしい、と思うのです。

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2025年11月16日 (日)

カエルタイムズ第4号[自然・総合](2005年10月25日発行)自然写真家前田憲男氏の「晩秋のカエルたち」

<100年カエル館と前田憲男さん>

100年カエル館は2024年に前田憲男氏の日本のカエルの写真と故柴田まさる氏の日本のカエルを基にしてキャラクター的に描いたスケッチ画を併設展示した「カエルアートマン展」を開催しました。日本の全種類のカエルを撮影されている前田さんには、カエルタイムズにもフォト・エッセイを書いていただきました。日本全国、カエルが棲息しているところに出向いて撮影するフットワークは、まるで日本列島各地のカエルたちとのネットワークがあるかのようで、それぞれのカエルと自然環境の関係まで映し出されています。カエルタイムズを編集していたときには、当時東京・池袋にあった弊社事務所まで「近くまで来たから」と軽快なフットワークで写真を届けてくださいました。

フォト・エッセイ「晩秋のカエルたち」自然写真家 前田憲男

広島県のダルマガエル救出作戦

本州の稲刈りが終わった、初秋の水田にはまだ暖かみを残した陽光が輝き、トンボたちが過ぎ行く何かを探すがごとく飛び交っている。わずかに伸びた雑草の中に足を運ぶと、思いも及ばぬほどの虫たちが飛び出してくる。わずかな地域にこんなにも多くの生命が生存していたのか息がつまる思いがする。田んぼに積み残された藁(わら)クズを踏むとカエルが飛び出してきた。厳しい冬にそなえ体力を貯えるための絶好のレストランに足を踏み入れたようだ。

一昨年の秋、広島県でダルマガエルの生息していた水田が商業地区開発により埋め立てられることになった。少数の識者と子供たちによる救出作戦が思い出される。藁クズや雑草をかき分け、冬眠の準備に入ったカエルを手にマメをつくりながらスコップで掘り起こし探す。体力のいる作業だが、救出できたカエルはわずかだった。救出したカエルたちの移転先をどこにするかも大きな問題だった。以前、同県で移転事業を行ったとき、近くだが少し環境が異なる場所に移転を試みたが定着できなかったからだ。

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ダルマガエル(上)トウキョウダルマガエル(下)

紅葉の天城山中のモリアオガエル

週末の伊豆箱根に向かう道路では、大変な車の渋滞に巻き込まれた。快適な季節に自然の大気を求め、紅葉狩りや温泉に向かうためコンクリートジャングルの首都圏から逃れてきた人たち。さずがに天城山中に入ると車も少なくなり、目的地の池に続く林道に入ると対向車は見られなくなった。池に至る登山道は、実をつけた雑草や秋花におおわれていた。小さな沢を渡り最後の登り坂を越すと池に至る森林に踏み込む。足元からは春先と異なり、早くも散りはじめた落ち葉を踏む柔らかな感触が伝わってくる。

樹林に届くかすかな光に照らされたツチアケビの赤い実が浮き上がる。池の近くにはホトトギスが秋光を受け紫色の可憐な花びらを広げている。9月初めにはあれほどいたモリアオガエルの子ガエルの姿は見られないが、まだ時折鳴き声が聞こえてくる。落ち葉や朽ち木をそっとめくってみると、太った子ガエルがうずくまっていた。厳しい生存競争に残ったわずかな子ガエルたちにはさらに過酷な冬が待っている。近くのコケの下には成体もひそんでいた。

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モリアオガエル

繁殖期を迎える沖縄の秋のカエルたち

北欧では上空に冷たい寒気が強くなり、日本列島に寒波が押し出す気配が強まってきた。沖縄北部の山岳部、山の沢を目指し森林の林床を小鳥のような鳴き声で鳴き交わしながら移動するカエルがいた。日本列島に到達する寒波にタイミングを合わせるかのように産卵するリュウキュウアカガエルたちである。沖縄の山間部ではこのカエルを筆頭に、ハナサキガエル、イシカワガエルがこれからの寒い時期に繁殖期を迎える。カエルたちの活動が活発になると、寒さにも関わらずヒメハブやハブの活動も活発になり生残りを賭けた生存競争がここでも繰り広げられる。

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リュウキュウアカガエル

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2025年11月13日 (木)

カエルタイムズ第4号[自然・総合](2005年10月25日発行)岩澤久彰先生のコラム A murmur of kaeru「冬眠前のカエルの呟き」

<100年カエル館と岩澤久彰先生>

大学で長く教鞭をとられた故岩澤久彰先生は、発生学がご専門でカエルの研究者でした。名誉教授になられてからは日本両生類研究会を創設されカエルに関わる後進を育てることにも尽力されました。100年カエル館と先生の出会いは、先生もカエルグッズの蒐集を趣味にされていたことで喜多方の骨董店に立ち寄られることがあり、父と共通のご友人がいらっしゃったことからわが家を訪ねてくださったことがあります。100年カエル館を創設する前のことです。

100年カエル館の創設やカエルタイムズの刊行は岩澤先生の激励があって実現したと言っても過言ではありません。当初カエルタイムズは100号をめざして刊行を始めました。先生も100号までがんばりたいと執筆を受けてくださいました。その手書きの原稿はファックスで届き、図版は郵送していただきました。ここではカエルタイムズ4号(蛙新聞壱百分之四號)に掲載した先生のコラム「冬眠前のカエルの呟き」を紹介します。

コラム A murmur of kaeru「冬眠前のカエルの呟き」新潟大学名誉教授 岩澤久彰

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秋も深まってきた。山野のカエルは夏の間、老いも若きも、起きては喰い、喰っては寝ての毎日を繰り返してきたが、同じ変温動物のヘビやトカゲのような鱗(うろこ)さえない丸裸の素肌に夜風の寒さを感じる頃になると、冬の厳しい寒さを経験したことのある1歳以上のカエルは前年の辛い経験を思い出すだろうが、この春に生まれた若ガエルは、何となく様変わりしてきた周囲の光景に気づき、戸惑っていることだろう。夜霧にぬれて体が冷えると、カエルは変温動物だから体温が下がり、体の諸々の働きが鈍ってくる。この秋口の冷気は0歳の若ガエルには強いストレスになっている筈(はず)である。カエルはとてもストレスに弱い。

私はカエルの言葉が判らないので、明言はできないが、ひと冬の経験を持つ1歳のカエルと初めての冬を迎える0歳のカエルを自然に近い状態で飼育してみれば、冬の入りに対する両者の振る舞いの違いが何となく判る筈である。自然に近い状態の飼育室で大切に飼育されてきた、2、3回の冬眠経験のある中年のカエルなどは、冬の到来を小学生の冬休み入りぐらいにしか思っていない点が感じられる。私はここ2、3年の思案で、発育のよいカエルにとって、冬眠は大したイベントではないようだと考えるようになった。

カエルは人間よりうんと短命だから、少し前のことも知らないだろうが、カエルの寿命にも関わることで、昨今、大きく変わったことといえば、地球の温暖化である。

私はカエルの多い越後の田舎町で生まれ育ったが、小・中学校の頃の冬の雪はとても大変で、気の小さい私は、文化の日を過ぎた頃から、もう冬の通学のことを心配していた。ところが今は、冬になっても雪らしい雪は積もらない。冬近くになって気になるのは、年賀状書きのことくらいである。

この温暖化のお陰で、近年は雪国でも冬眠中に凍死するカエルは稀ではなかろうか。凍死するのは、たぶん、充分な餌を捕れず、栄養不足で冬を迎えたか、病気の個体くらいのものであろう。

いくらひもじいといっても、秋枯れの地面には、もはや餌になる小動物は多くはない。変温動物のヘビは既に寒さで動きが鈍い。餌探しの時に気をつけるべきは、今が書き入れ時の元気一杯なモズである。モズに捕まると枯木の小枝に刺されて俳句のネタになるのが落ちつくところだ。

眼にふれて 日ごとからびぬ 鵙(もず)のにえ (杜夫)

新潟地方気象台の長期予報によれば、北陸地方の今冬は暖冬小雪の可能性が強いという。予報があたってもらいたいものである。

前述のように、私はカエルの言葉が判らず、その上老齢のためカエルの呟きがまったく聴きとれない。それで題名に外れた文面になってしまった。お許し下さい。(写真はアズマヒキガエル)

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