『カエル水泳きょうしつ』(岡野薫子 作・画 あかね書房刊)
夏、水辺が近くにあればカエルたちが元気に鳴く声も聞こえる季節。映画や絵本の中で、水に親しむカエルを見るだけでもとてもうれしくなります。
映画シリーズ2作目を前に『ピーターラビット』(ウィル・グラック監督作品、2018年)がテレビで放映されていましたが、「ピーターラビット」のカエルといえば、かえるのジェレミー・フィッシャーどん。映画でもイギリスの湖水地方の水辺で釣り糸を垂れるその姿が見られました。
原作者のビアトリクス・ポター(1866-1943)は、生きものの観察や自然保護活動にも熱心だった人で、うさぎのピーターやかえるのジェレミーが人間と同じようにものを考え、話したりできても、その姿や行動はそれぞれの生きものの特徴を細やかに映し出しています。
そして、今回のブログでは夏らしいカエルの絵本を読みたいなと思っていたところ、手にしたのが『カエル水泳きょうしつ』。童話作家の岡野薫子さんが1977年に出版した本です。岡野さんの童話の数々にもポター作品同様にいろいろな動物たちが描かれています。その1冊に登場したのが、主人公の女の子エミちゃんに水泳をおしえるカエルたち。表紙画に見えるような水着姿のカエルたちが、家族の中で唯一まだ泳げない小学2年生のエミちゃんのために水泳教室を開いてくれるのです。
そんな日常にはあまりない設定もエミちゃんが電信柱に貼ってあった小さな、小さな案内を見つけることで、絵本の中で実現していきます。その案内の「やじるし」を追って進んでいくと「やじるし」は少しずつ大きくなり、「カエル水泳きょうしつ」の受け付けに、エミちゃんの背丈よりも大きい、帽子をかぶったカエルが待っていました。どうも「やじるし」を追うごとにエミちゃんの体のほうが小さくなっていったようでした。
そして、エミちゃんが数日かよった「カエル水泳きょうしつ」でのカエルたちとのやり取りの楽しさは、クレヨンや鉛筆で描かれた夏休みの絵日記のような挿絵とともに水しぶきまでいきいきと伝わってきます。
エミちゃんはカエルの先生たちから体に力をいれなければ水に浮くことができることやカエルおよぎまでいろいろ教えてもらいます。読み手がなるほどと思わせられたのは、カエルは手(=前あし)で水をかかなくても水面から常に目や鼻を出せるからかスイスイ泳いでいけること、それができないエミちゃんはカエルたちのように目と鼻を水の上に出すために背泳ぎをしようと思いつきます。これにはカエルの先生たちも驚いてエミちゃんにその泳ぎ方を教えてもらうのですが、カエルの場合背中を下にして水に浮いたとたんバネ仕掛けのおもちゃのようにひっくり返ってしまったという、まさにカエルと人間の体のつくりの違いがわかるエピソードもありました。
科学映画の脚本家を経て児童文学の作家になった岡野さんの作品には、ポターに通じる、自然観察者の目とファンタジーを生み出す創造力を併せもった表現力を感じました。
「カエル水泳きょうしつ」が開かれていた池は、エミちゃんの家の近くの「こうしんさま」のお堂のところにあったと書かれています。庚申さまとは猿田彦大神のことでもあり、道ひらきの神様ともいわれるこの神様の使い神がカエルだと考えると、エミちゃんに泳げる道をひらいてくれたのもこの神様だったかもしれないと民俗学的な想像をふくらますこともできました。
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<関連サイト>
「100年カエル館」 http://kaeru-kan.com
「カエ~ル大学」http://kaeru-kan.com/kayale-u
「コトバデフリカエル」http://kaeru-kan.cocolog-nifty.com/kotobadefurikaeru
※現在、「コトバデフリカエル」では「カエル白書」Vol.3を配信中です。
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