2021年Amphibian-Ark両生類保全活動助成者の紹介(AArk Newsletter54より)
100年カエル館のHPでもリンクを貼らせていただいているAmphibian-Arkは両生類に関する世界的な保全活動を継続して行っています。サイトhttps://www.amphibianark.org/ では季刊でNewsletter.が発行され、AArkや世界各地でカエルを含む両生類の保全活動に取り組んでいる人々の活動が紹介されています。Blogカエルタイムズではその中からAArkの記事掲載の許可をいただき紹介いたしております。今回は2021年に発行されたAArk Newsletter.よりケビン・ジョンソン博士による記事を紹介いたします。
2021年AArk両生類保全活動助成者の紹介
AArk Newsletter 54:8~9
ケビン・ジョンソン、Kevin Johnson, Amphibian Ark
両生類の箱舟(AArk)の両生類保全活動助成プログラム(www.amphibianark.org/conservation-grants/)では、現在、野外で生き残れない両生類種のために、生息地での研究活動との適切な連携のもとに域外保全活動(生息地から離れた場所や施設での救出・増殖や保全教育などの保全活動)をする保全プロジェクトの立ち上げをサポートしています。助成は、域外(生息地外)への救出や域外での研究の必要があると判断された種、もしくは国際的な保全評価リストに掲載されている種Conservation Needs Assessment (www.conservationneeds.org)やそれに類する国の評価からの推薦を受けた種を優先して与えられます。2009年よりAArkでは22ヶ国43の団体に総額203,970USドルを助成しました。
今年は、イランとペルーで計画されている新しいプログラムに助成を決めました。どちらも域外での繁殖保全に注力しています。
ペルシアヤマサンショウウオ(Paradactylodon persicus gorganensis)の域外保全戦略の確立
Establishing an ex situ conservation strategy for Paradactylodon persicus gorganensis in Iran
Dr. Seyyed Saeed Hosseinian Yousefkhani; Institute of Biological studies, School of Biology, Damghan University,
Damghan, Iran
絶滅危惧種と見なされているペルシアヤマサンショウウオ(Paradactylodon persicus gorganensis)は、イランの渓谷に棲む固有種で、イラン北部のゴレスタン州のヒルカニアンフォレストで見られます。とても狭い分布域に棲息しています。この亜種は、以前は同じ種と見られていましたが、2つの分類学的調査((Stock et al., 2019; Ahmadzadeh et al., 2020)により亜種(subspecies)と判明しました。これまで観光による生息地破壊がこの種にとって最も大きな脅威でしたが、これからはこの種の個体群とBd(ツボカビ)病原体の関わりを調査することも重視されるようになるでしょう。地域の収入源である観光は多くの環境問題を引き起こします。旅行者は環境をきれいにすることをせず、訪問期間中のゴミをそのままにしていきます。そして森の中の水場で水泳をする旅行者は、さまざまな真菌(ツボカビなど)の原因をこの地にもたらし、それはサンショウウオだけでなく他の両生類にとっても危険です。
絶滅危惧種とされているペルシアヤマサンショウウオ(Paradactylodon persicus gorganensis) 撮影Dr. Haji Gholi Kami.
このプロジェクトは、ペルシアヤマサンショウウオの個体群を2つの方法で緊急救済するもので、一つはヒルカニアンフォレスト内の自然管理池での飼育育成と、もう一つはダンファン大学の生物学研究所での実験室内の水槽での飼育下繁殖を行います。
1年目の目標は以下の通りです。
- ヒルカニアン地域内に、サンショウウオを生存させるための最適な池(自然管理池)を決定する。
- ヒルカニアンフォレストの中で新しく設定した生息地に繁殖用の個体群を移動させる。
- 自然に近い条件で管理された池(自然管理池と大学の水槽)での域外繁殖プログラムを開始する。
- 地域の人々の理解や教育のために印刷物や動画を作成し域内保全プログラムを進める。
1年後にこのプロジェクトの結果が明らかになります。IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストが更新され、その新しい池は分布地図に加えられるでしょう。この保全プログラムについてのビデオやパンフレットはこの問題への公の関心を高める役割を果たすでしょう。
このプロジェクトは3年間行われ、私たちはその間観察を続けます。プロジェクトの完了後すべての池と放された生きものの観察は続けられ、池の周辺がさまざまな脅威から守られることでこのプロジェクトは成功したと評価されるでしょう。
旅行者が水泳をする森の中の水場はこの地にさまざまな真菌をもたらしている。撮影 Seyyed Saeed Hosseinian Yousefkhani
フニン両生類保護センター
The Junin Amphibian Conservation Center
Roberto Elias, NGO Grupo RANA, Peru
Lake Junin Frogレイクフニンガエル(Telmatobius macrostomus)はペルーの固有種です。IUCNと国の登録によるとこの種は絶滅に瀕していて、この10年でその個体群は劇的に減って来ていますが(個人的な調査によれば1950年から95%も減っている)、その理由は違法な捕獲や外来種のニジマス(Oncorhynchus mykiss)の存在、生息地の減少、そして繁殖のためのテクニカルセンターがないことです。そこで域外保全の観点から個体群を安全な自然環境に移動させ、その生息数を増やす必要があると考えられています。私たちはフニン国立保護区にあるニナカカ地区に必要な基盤(脱出防止溝、廃棄物管理施設、繁殖池、実験のための場所)がある繁殖調査センターをつくることを提案します。すでにこのプロジェクトの実行を可能にする場所の住人であるジーザス・エスピノーザの同意を取っています。
レイクフニンガエル(Telmatobius macrostomus)はペルーの固有種。域外保全を図ることは安全な自然環境でその個体群を再生させ、個体群を増やすために必要である。(撮影Oscar Damian)
その初期個体数は自然環境から採集した12匹のオタマジャクシと6匹の成体で、それはペルー政府によって違法飼育場や狩猟行為から取り上げられた個体群です。私たちはこの比較的少ない数の個体を対象にして、不必要に現状の個体数にダメージを与えることなく、それらを育てる方法や繁殖に導く方法を知るために活動します。この保護センターの目的は、これらの初期のペアが繁殖に成功することにより個体数を増やし、かつ健全な遺伝的変異を確保することです。
すべての個体が検疫や完璧なツボカビ症の検査を受けなければならないでしょう。この新設されるセンターは、米国のデンバー動物園とNGOグループRANA(Rana属のカエルを守るNGO)の指導のもとに活動している地域の市民科学プロジェクト「チンチャイコッチャガエル保護の会」に生息地の特性を研究するための機会や飼育に必要な餌の生産方法や住民の保全教育のための資料などを提供するでしょう。収容される個体は必要とする水化学の理論値に合う自然の水場で飼育され、できれば50%以上のオタマジャクシや没収した個体が通常の生育ができることを目指しています。この繁殖プログラムを継続することで、飼育されている半数の個体がゴスナーによる成長段階36に達したときに、市民の観察プログラムが実施される地域の観察地や自然破壊の脅威のない再生可能な場所で、かつ、国の保護地でもあるような場所に放されます。また、一部のカエルはこのプロジェクトを着実に継続させるために飼育施設内に残されます。この域外保全施設は地域コミュニティ、デンバー動物園、フニン国立保護区、両生類生存同盟、地域の自治体、ペルーのカエタノ・ヘレディア大学、ニナカカ地区によって活用されます。
私たちは、現在、「チンチャイコッチャガエルの保護の会」と呼ばれるデンバー動物園基金の会とともに、地域住民によるフニンガエルの生息状況調査活動を発足させています。このプロジェクトの目的は域外保全活動を通してレイクフニンガエルの個体群を保護することです。私たちは、飼育施設を起動させることによって、今行っている地域個体群の保全プログラムを強化し保全能力を高めたいと思っている人達とともに、本種の地理的分布域内に飼育下繁殖技術を持った保護センターがあることの必要性を強く訴えます。
このプロジェクトから予測される結果
- レイクフニンガエルを繁殖させるために必要な施設の設置及び強化
- この種の生態系内における必要性の評価
- 飼育下繁殖プログラムの発展
- 両生類の飼育、生きたエサの生産、バイオセキュリティや飼育下繁殖に対する地域住民の教育
- 小規模の生息地をつくり、保全への共感を求めるなど地域を変えてゆくことによるプログラムの強化
レイクフニンガエルを撮影するロベルト・エリアス(Roberto Elias,)(撮影Jhusely Navarro)
(翻訳高山ビッキ 監修桑原一司)
<関連サイト>
「100年カエル館」 http://kaeru-kan.com
「カエ~ル大学」http://kaeru-kan.com/kayale-u
「コトバデフリカエル」http://kaeru-kan.cocolog-nifty.com/kotobadefurikaeru
※現在、「コトバデフリカエル」では「カエル白書」Vol.3を配信中です。
http://kaeru-kan.cocolog-nifty.com/froggy_museum/
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