カエル白書

2020年5月27日 (水)

[カエル白書Vol.3」■カエルに見るもうひとつのジャポニスム

<カエルに見るもうひとつのジャポニスム>

セブン―イレブン記念財団『みどりの風』2019春号 「特集春の使者 カエル」掲載

高山ビッキ(100年カエル館副館長)

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 ■幼体から成体へ、カエルのように

 生れ育った福島県喜多方市の家の庭は阿賀川の下流の樒(しきみ)川に面していて、遊び場でもあった川原では、春になると雪どけ水の流れの煌めきに風はまだ冷たいものの、ネコヤナギと戯れては菜の花の黄色いそよぎにその到来を感じました。

 当然、夏の夜はカエルの合唱がかまびすしく聞こえましたが、カエルの〝姿形〟は家の中に。座椅子に座る祖父の背後にあり、祖父がひとつひとつ取り出しては磨く土や木や石などで造られたモノがわが家にとってのカエル。置物や小物のカエルの蒐集は祖父の趣味に始まりました。

 それが、現在100年カエル館を運営する私たち姉妹のいわば〝オタマジャクシ〟時代。成体になって水辺から上陸するカエルのように、故郷を離れてみると、活動範囲を広げれば広げるほどさまざまな〝カエル〟との出会いに恵まれました。

 

■カエル好きの仲間たちとの出会い

 東京で暮らすようになり、身近にカエルの鳴き声は聞こえなくなりましたが、買い物に出かければカエルの形をしたものは雑貨やアクセサリーから工芸品まで次から次へと。折しもバブル景気の頃、コレクションが充実していきました。

 同じようにカエルが好きで、カエルグッズを集めている人が意外に多いことを知ったのもその頃です。

 今では毎年「カエル展」や「カエルまつり」を開催する場所が全国にありますが、カエルファンの集いを最も早く始めたのは自らもカエル好きだった幕末・明治に活躍した絵師河鍋暁斎を記念する河鍋暁斎記念美術館(埼玉県蕨市)の運営による「かえる友の会」です。1987年の発足で、毎年、会員の蒐集品を紹介する「かえる展」とグッズなどの販売を中心とした「かえる秋まつり」を開催しています。

 一方でそうした動きに反比例するようにこの頃から、世界的な自然環境の悪化により、カエルの個体数は減少が懸念されるようになります。そして、そのことが私も含め生きもののカエルにそれほど関心がなかったカエルファンの視野をも自然環境まで広げることに繋がりました。

 

■100年カエル館とカエ~ル大学

 カエルが繁殖期に自分が産まれた水辺に帰る、帰巣本能に通じるものでしょうか、故郷を離れて長くなった姉と私は、2004年に喜多方の実家を活用してそれまで蒐集してきたモノのカエルを展示紹介する100年カエル館を立ち上げました。祖父同様、カエルに関する蒐集に情熱を注いだ両親がまだ健在だった頃。父が他界した後休館した時期がありましたが、2016年に再開。

 同時に、それまでWEBサイト上に開設していたカエ~ル大学をスタートさせました。学生(会員)の方は、カエルの御守も入手できるカエル縁(ゆかり)の社寺をはじめ全国の〝カエルスポット〟を巡る人、カエルが描かれた美術作品に興味のある人、カエルの観察をしている人など、カエルへの係わり方も多岐にわたっていることに驚かされます。 

 それにしてもなぜ今カエルやカエルの造形物に惹かれる人が多いのでしょうか。

 

■身近なのに知らないカエルのこと

 現在、日本のカエルは48種類(亜種を含む)が記載されていますが、南北に長い日本列島では、北海道であれば7種類、100年カエル館のある福島県では12種類、関東各県で1214種類、そして、沖縄県には約21種類生息しています。

 全国で平均的に知られているカエル(本州に分布するカエルとします)は、小さくて庭などで見つけるとついつい手にのせたくなるアマガエル、信楽焼など陶製のガマガエルのモデルでもあるヒキガエル、「鳥獣戯画」にも登場するトノサマガエル、水辺の樹の上で泡に包まれた卵から産まれるモリアオガエル、渓流の石の間で綺麗な鳴き声を響かせるカジカガエルなどが挙げられるでしょう。

 では、シュレーゲルアオガエルはご存じでしょうか。カエルグッズに負けない愛くるしい表情と、日本のカエルとは思えない名前。しかしれっきとした日本の固有種です。

 このカエルに生物学におけるジャポニスムを見ることがあります。

 

■カエルともうひとつのジャポニスム

 本来ジャポニスムとは、19世紀末に欧米で起こった美術ムーブメントで、幕末から明治にかけて日本から流出した江戸の絵師たちによるすぐれた絵画表現が当時の欧米のアーティストの作風に影響を与えました。

 最近、このジャポニスムにスポットが当てられ、日欧両方で大きな展覧会も開催されて話題になりました。

 その、海を渡った作品の数々を描いた絵師の代表に葛飾北斎が挙げられますが、他に伊藤若冲、歌川国芳、そして河鍋暁斎など数々います。影響を受けた欧米の画家には、ゴッホ、ドガ、モネ、工芸家ではエミール・ガレ他多数挙げられるでしょう。

 そのような江戸絵画には、北斎の「北斎漫画」に描かれたカエルや「朝顔に蛙」をはじめ、カエルが描かれた作品を見つけることは難しくありません。一方で、欧米のジャポニスムの作家の絵画や工芸品もしばしばカエルをモチーフに表現されています。

 日常的に使う調度品や食器にもカエルの意匠が見られることで、それまでグロテスクとさえ見ていたカエルに対する、欧米人の自然観を変えたという捉え方もされています。

 そして、当時、他にも海外に流出したものがありました。ドイツの博物学者シーボルト(1796―1866)が収集した動植物の標本です。その標本や資料をもとに研究執筆された本が『Fauna Japonica(日本動物誌)』で、その執筆者の一人に、シュレーゲルアオガエルにその名を残す、ドイツ人でオランダのライデン博物館の二代目館長を務めたヘルマン・シュレーゲル(1804―1884)がいます。

 48種類の日本のカエルの中にシュレーゲルアオガエル以外にも、外国人の名前のカエルがいるのは、日本の両生類に関する研究において、幕末・明治以降、最初にカエルに興味をもったのは欧米人だった名残でしょう。

 江戸時代以前にさかのぼれば、日本には千年ほど前に書かれた分類の和辞書『和名抄』に、動物を分類した巻があり、蛙は蛇や昆虫などとともに蟲豸類(ちゅうちるい)に入れられています。カエルが表現された遺物や絵画も縄文土器から江戸絵画まであり、カエルが日本の文化の中に豊かに息づいていたことを感じます。

 ところが、近代化とともに〝冬眠〟したかのように、日本においてあまり意識されなくなったカエル。再びカエルに興味をもつ人が増えた21世紀の今、人なつこい表情のシュレーゲルアオガエルは、その〝もうひとつのジャポニスム〟について語っているように思えます。

 

※「カエル白書」(A5版 モノクロ 68ページ)Vol.1とVol.2は1冊1000円(税込・送料込)で販売しております。100年カエル館HP http://kaeru-kan.com でお申し込みいただけます。

Vol.1内容/◎黙阿弥のひ孫、演劇研究家氏のコレクション展(福島県立博物館にて)報告 ◎明治生まれのカエルグッズコレクター、小澤一蛙のコレクションから見えてきたこと ◎自然とカエルの話題 ◎カエル文化的話題 ◎高山ビッキ連載カエルコラム 他

Vol.2内容/◎「カエルアートミュージアム~進化するカエルアート」展(京王プラザホテルロビーギャラリーにて)報告 ◎カエル先生、岩澤久彰コレクション展」から見えたこと ◎第20回記念両生類自然史フォーラム報告 ◎カエルグッズでめぐる世界の“カエル旅” 他

※ブログ「高山ビッキBlog」http://kaeru-kan.cocolog-nifty.com/vikkiも配信中です。

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2020年5月22日 (金)

[カエル白書Vol.3」■かえるモノ語り歳時記2019年12月

<降り積る雪の下からカエルのジングルベル>

高山ビッキ(100年カエル館副館長)

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 コロコロ、キュッキュッ、ピーピーピー……。そのカラダを揺らしたり、カラダの一部を押したりすると音の出るカエルがいろいろあります。特に20世紀後半以降に作られたぬいぐるみやビニール製のカエルグッズに多いのですが、古くから作られた日本の郷土玩具にも、土鈴をはじめ鳴物のカエルがあります。海外に目を向けても、ベトナム発祥といわれるギロのカエル(背中の部分を棒でこすると音が出る)やペルーの土笛のカエルなど、カエルが“鳴く動物”であることから発想されたと思われるカエルグッズは古今東西に。

 カエルは冬眠する生きもので、冬期に最低気温が5度を下回りホワイトクリスマスになるような地域では、落葉や倒木の下などでじっと動かず冬眠します。クリスマスとは縁がなさそうですね。ところが、なぜかカエルグッズには写真のような、クリスマスには欠かせない存在、サンタクロース姿のカエルが珍しくありません。しかもこの“カエルサンタ”、歌を歌います。おなかの辺りを押すと、「ジングルベール、ジングルベール」とビング・クロスビーばりの歌声を聞かせる“音の出るカエル”なのです。

 クリスマスに雪の積った地面の下に耳を傾ければカエルのクリスマスソングが聞こえてくるかもしれない。そんなロマンチックなイメージを抱かせてくれるのもカエルの魅力なのでしょう。

 カエルが登場する絵本にも、クリスマスシーンが描かれることがあります。100年カエル館で所蔵している絵本に『サンタさんだよ かえるくん』(塩田守男・絵、さくらともこ・文 PHP研究所)があり、子ガエルたちの冬眠とサンタクロースとの出会いが愛らしい絵とストーリーで表現されています。

 絵本を読む子どもたちに春夏秋冬の自然や暮らしの変化を伝えるのにカエルは最も適した生きものと言っていいかもしれません。だから、冬眠中も絵本の中ではなかなか眠っていられない⁈特に冬眠に入って間もないクリスマスの頃はサンタさんと同様に大忙しなのかも。

 今では宗教を超えて世界に広がった冬の風物詩と言えるクリスマスは、キリストの降誕祭を祝う宗教行事です。そしてカエルは、キリスト教的には好意的なシボルとは限らないのですが「冬に姿を消しふたたび春に出現する姿はキリストの復活になぞらえられる」(荒俣宏著『世界大博物図鑑』より)こともあります。

 雪の下でジングルベルを歌っているかもしれない冬眠中のカエルは、ただひたすらに春の訪れを夢見ているのでしょう。

※「カエル白書」(A5版 モノクロ 68ページ)Vol.1とVol.2は1冊1000円(税込・送料込)で販売しております。100年カエル館HP http://kaeru-kan.com でお申し込みいただけます。

Vol.1内容/◎黙阿弥のひ孫、演劇研究家氏のコレクション展(福島県立博物館にて)報告 ◎明治生まれのカエルグッズコレクター、小澤一蛙のコレクションから見えてきたこと ◎自然とカエルの話題 ◎カエル文化的話題 ◎高山ビッキ連載カエルコラム 他

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2020年5月21日 (木)

[カエル白書Vol.3」■かえるモノ語り歳時記2019年11月

 <「アート・ぶらり~」ファッションで、装う楽しさがヨミガエル>

 高山ビッキ(100年カエル館副館長)

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 台風の影響を心配しながらの開催となった今年(2019年)の「蔵のまちアート・ぶらり~」(福島県喜多方市)。100年カエル館は参加して3年目になりました。

 19世紀末から20世紀初めにイギリスを中心に起こったムーブメントにアーツ&クラフツ運動がありますが、21世紀のここ喜多方で行われるこのイベントは、その再燃のようにも思えて毎回心ときめきます。

 「アート・ぶらり~」では、第19回となった2019年の今年も初日に各出店者が顔を合わせるオープニングレセプションがあり、会長挨拶に立つ前後喜平氏によれば「このイベントでのアートの捉え方は自由。自分自身の生き方がアートと考える人も」。

 出店者の方々の作品には、生活の中に活かされるアートも多く、喜多方に古くから伝わる伝統技術から新しいファッションも生れています。作る人がいて、その作品を着る人がいる。その流れ自体がアートなのではないかと思えました。

 喜多方からは今「アート・ぶらり~ファッション」とも呼べる地産地消のファッションが生れているのではないか、と。

 イベント会期中「織りと染め」による洋服やファッション小物を展示販売していた齋藤潤子さんを訪ねました。店内にはこの日を待ちわびていたかのように押し寄せた喜多方のご婦人たちが、自らの今年のモードに取り入れたいアイテムは何か、熱心にご覧になっていました。

 私自身は、喜多方に「会津型」という江戸時代から昭和初期にかけて使われていた染型紙(県重要有形民俗文化財)があることを知ったのも「アート・ぶらり~」に参加してからのこと。齋藤さんはこの「会津型」に魅了され染色・織物作家になってこの道30年で、会津喜多方に生まれた染め織りの技術を現代のファッションの中で息づかせる伝道師のような方です。

 昨今、一般のファッション市場において洋服の売れゆきが芳しくなく、これまでの「ファッション」という概念そのものが転換期に至っているなか、「アート・ぶらり~ファッション」は、地域に伝わる伝統の技が本来の装う楽しさに気づかせてくれます。

 写真は、100年カエル館に展示しているアメリカ製のカエルのブローチを齋藤さんの「裂き織りジャケット」の胸元に合わせてみました。「裂き織り」とは、昔から貴重品とされた会津木綿を裂いて作り直す、江戸中期に東北で生まれたリサイクル発想。常に新しくヨミガエルファッションといえそうです。

※「カエル白書」(A5版 モノクロ 68ページ)Vol.1とVol.2は1冊1000円(税込・送料込)で販売しております。100年カエル館HP http://kaeru-kan.com でお申し込みいただけます。

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2020年5月20日 (水)

[カエル白書Vol.3」■かえるモノ語り歳時記2019年10月

 <縄文土器から現代アートまで、創作意欲を刺激するカエル>

高山ビッキ(100年カエル館副館長)

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柴田まさる作品「マルメタピオカガエル」

 福島県立博物館のエントランスで同館と共催で行った「100年カエル館のときめくカエルアート図鑑」展は、2019年1027日をもって終了しました。ご来場くださった方をはじめ、多くの皆様にご関心をいただいたことに心から感謝申し上げます。

 同展は福島県立博物館で同年1117日まで開催された「あにまるず どうぶつの考古学」と動物つながりのテーマで同時開催しました。

 「どうぶつの考古学」では、イノシシやシカをはじめいろいろな動物の考古資料が展示されるなか、「カエル」もいました。

 縄文中期の抽象文の深鉢(東京都三鷹市遺跡)には、口縁部に「カエルもしくは昆虫のようにも見える」と解説された装飾がありました。今回の展示にはありませんでしたが、長野県の曽利遺跡出土の深鉢にカエルの文様が施されているものがあるので、カエルが見られる縄文土器がどれくらいの広がりをもって作られていたのか知りたくなりました。

 また、縄文後期に岩手県一関市で作られていたと考えられるのは、「カエル形角製品」。カエルの造形の首のあたりを貫通する孔(あな)があることからアクセサリーとして使われた可能性があるそうです。当時どんな人がどんな意図をもって身につけていたのかを想像すると、今もペンダントトップや指輪などにカエルをデザインしたものは人気があることから、縄文時代と現代が一気につながる感じがしました。

 私たちが展示した柴田まさるさんのカエルの絵は、20世紀から21世紀を生きた画家による現代アートですが、20世紀に活躍した“美の巨人”たち、たとえばピカソがアフリカのプリミティブアートの、岡本太郎が縄文文化の影響を受けていたように、柴田作品のカエルアートの背景にもさまざまな時代の文化が見え隠れする気がしました。

 カエルアートの場合、自然に棲息するカエル本来の姿に芸術性を見出すアーティストもいます。ポップアートの巨匠、アンディ・ウォーホルが描いたのは「絶滅危惧種アマガエル」。中南米に分布するアカメアマガエルの輪郭や顔の造作を線画で浮かび上がらせることで、カエルそのものがポップアートであることを示しているかのようです。

 柴田さんもアカメアマガエルを描いていますが、柴田さんの場合、最も創作意欲をかき立てられたカエルは、南米のマルメタピオカガエルのようです。両目がくっついていて、口がやたらと大きい特徴的な形態そのものが、ポップアートだったのかもしれません。

※「カエル白書」(A5版 モノクロ 68ページ)Vol.1とVol.2は1冊1000円(税込・送料込)で販売しております。100年カエル館HP http://kaeru-kan.com でお申し込みいただけます。

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2020年5月18日 (月)

[カエル白書Vol.3」■かえるモノ語り歳時記2019年9月

<柴田作品の中で愉しく進化して、カエルは仏様に>

 高山ビッキ(100年カエル館副館長)

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 前回に引き続き、今月(2019年)18日から1027日まで福島県立博物館で開催される「100年カエル館のときめくカエルアート図鑑」展から柴田まさる作品の「仏画」をご覧いただいています。

 カエルがなんとお釈迦様のように坐禅して印(仏像に詳しくないのですが、智(ち)拳印(けんいん)というのでしょうか)を結んでいます。カエルが仏陀へと擬人化しているようで、100年カエル館制作の座標軸上では「戯画」のジャンルで捉えています。

 戯画といえば、漫画大国日本で最も親しまれている絵が、漫画のルーツともいわれる「鳥獣戯画」。

この絵巻は京都栂尾山高山寺に伝わる宝物です。因みに私の名字は高山で、その名でうれしかったのは高山寺を訪ねたときでした。

 100年カエル館ができる前のことですが、2002年に当時東京アークヒルズにオープンした、京都の観光と物産のアンテナショップ「京都館」でカエルのイベントを企画し、「京都の美術史に登場したカエルたち」展を開催しました。

 カエルもたくさん登場する「鳥獣戯画」は、“カエル美術史”を語る上でも欠かせない名品なので、その中のいくつかのシーンをパネル展示。その展示許可をいただきに高山寺に伺ったのですが、「高山」と「カエル」で勝手にご縁を感じている高山寺に「高山と申します」と名乗れただけでただただ誇り高い気持ちになりました。

 この「鳥獣戯画」で、カエルは御本尊の姿にも描かれます。そして、柴田作品にもここに掲載した作品以外にカエルで仏画を描いたのではないかと思われる作品が数点あります。カエルが菩薩像や如来像として描かれる飛躍も、「鳥獣戯画」にさかのぼれば不思議はないのかもしれません。

 柴田さんのカエルの仏画には、森の中で坐禅する仏様のカエルの絵もあり、その作品を見ると、高山寺を開いた明恵上人が松林の中で小鳥やリスなど小動物とともに描かれた肖像画「明恵上人樹上坐禅像」に通じるものを感じます。

 柴田まさるが仏画に込めた思いを推し測ると、自然の中に仏の姿を見出すその仏教観が伝わるようです。

 間もなく始まる県立博物館でのイベントでは、リアルなカエルから仏画のカエルまで、柴田まさるの創作人生の中で、愉しく進化を遂げたカエルたちをご覧いただけます。

※「カエル白書」(A5版 モノクロ 68ページ)Vol.1とVol.2は1冊1000円(税込・送料込)で販売しております。100年カエル館HP http://kaeru-kan.com でお申し込みいただけます。

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2020年5月17日 (日)

[カエル白書Vol.3」■かえるモノ語り歳時記2019年8月

 人はカエルも含めた動物とかかわることで表現力を育んできた>

高山ビッキ(100年カエル館副館長)

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 最近、動物をテーマにした美術展が人気を集めています。遠く海外では、今年の下半期、ワシントンD.C.のナショナル・ギャラリー・オブ・アートと、ロサンゼルス・カウンティ美術館で「日本美術に見る動物の姿」展が開催されています。

 「日本美術に見る動物の姿」展では、日本の古墳時代の埴輪から現代アートまでのさまざまなジャンルの芸術の中から動物が表現された作品を紹介しています。日本の表現文化に見られる「動物」は、近しい友達のような存在だったり、超自然的な崇高さを放ったりと、その多彩さは日本ならではのものがあるようです。

 動物がテーマの展示イベント。この秋は会津若松の福島県立博物館で「あにまるずー―どうぶつの考古学」(2019年9月7日~1117日まで)が行われます。動物を表現した縄文土器など昔の日本人の思いがこもる考古学的遺物を見ることができます。

 その開催期間中、エントランスでは918日から1027日まで「100年カエル館のときめくカエルアート図鑑」展もご覧いただけます。

 昨年、愛知県碧南市から喜多方に引っ越してきた(途中、東京・新宿で展覧会を開催)、2015年に世を去るまで43年間、カエルの絵を描き続けた柴田まさるさんの作品のカエルたちを展示します。

 この“カエルの画家”が、大好きなカエルをまさにその多種を多様に描いた作品の数々をいくつかのカテゴリーに分けて紹介します。

 柴田さんは何種ものカエルの後ろ姿を「背中シリーズ」として描きました。その一方で、カエルの正面を描いた作品もたくさん遺しています。

 日本には、現在外来種や亜種も含めて48種のカエルが記載されていますが、柴田さんは40種以上のカエルの顔を描き分けています。

 柴田さんの作品群全体を見渡してみると、種が特定できるリアルなカエルの顔が、人間味のある顔に移行したのではないかと思われる作品も見られます。この“移行”は、自然を客観的に描写する「花鳥画」と、描き手の主観性が強まってその思い入れが投影された「文人画」との違いを浮かび上がらせているようでもあります。秋の展示イベントは、その違いを感じていただく場になればと思います。

 さらにそのカエルの表現は抽象性を高めてポップアートに。人はカエルも含めた動物と身近にかかわる生活をすることで、多彩な表現力を育む可能性を、柴田さんの作品を通してお伝えできればと思っています。

※「カエル白書」(A5版 モノクロ 68ページ)Vol.1とVol.2は1冊1000円(税込・送料込)で販売しております。100年カエル館HP http://kaeru-kan.com でお申し込みいただけます。

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2020年5月15日 (金)

[カエル白書Vol.3」■かえるモノ語り歳時記2019年7月

<36人のガマ仙人が集まった松本かえるまつり>

高山ビッキ(100年カエル館副館長)

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北野天満宮(京都)の蟇股の蝦蟇仙人

 本連載で「蝦蟇仙人に会いたい」をテーマに100年カエル館に展示している「ガマ仙人」の置物を紹介したのが一昨年の秋。その後も私はガマ仙人を探しに山へ修業に……。と、いうわけではありませんが、この6月、幾人かのガマ仙人と会うことができた(⁈)ので報告いたします。

 長野県松本市の女鳥羽川沿いの「ナワテ通り」では、毎年6月に「松本かえるまつり」を開催し、今年で18回になります。

全国からカエル好きの皆さんが集まるお祭り。6月22日、私たちは四柱神社の斎館でカエ~ル大学2019の第1回講座を行いました。

 その講座のテーマが「日本各地でガマ仙人に会いたい!」でした。

 中国由来の蝦蟇仙人の存在は、それを画題に描いた顔輝(がんき)という中国の絵師の絵を通じて日本にも入って来ました。江戸期の絵師もそれをモチーフにする人が少なくなかったことは以前も紹介しました。

 さらにそのガマ仙人が、日本各地で寺社建築やお祭りの山車(だし)の装飾に潜むように存在していることを知って、この仙人が日本文化の伝統の中にしっかり息づいていることを感じました。

 写真の蝦蟇仙人は、京都の北野天満宮の本殿の蟇股(かえるまた)の意匠として彫り込まれた蝦蟇仙人です。蟇股という伝統建築の梁や桁で重荷を支える部材自体、蛙が股を開いて座している様子から付けられた名称ですが、その彫刻の意匠が「蝦蟇仙人」という、カエル好きを楽しませるポイントを二つ併せ持つ遺物。この本殿は桃山時代につくられ、この蟇股の装飾も当時からのものとされていることで、江戸時代以前すでに日本人は蝦蟇仙人を縁起のいいシンボルとして信仰の中に取り入れていたと想像できます。

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長尾天満宮(京都)の蟇股の蝦蟇仙人

 今回の講座では、他にも京都の長尾天満宮のガマ仙人、長野県の神社やお祭りのお船(山車)などに見られる「諏訪(すわ)立川流(たてかわりゅう)」の棟梁の手になるガマ仙人5人、愛知県半田市で春に行われる山車祭りのガマ仙人3人、富山県の「おわら風の盆」で知られる越中(えっちゅう)八尾(やつお)の曳山祭の絢爛豪華な山車に施されたガマ仙人など全部で36人のガマ仙人に登場いただきました。

 その昔、日本にやってきたガマ仙人がこの国の文化の中で人々にどんな影響をもたらし、どのように各地に広がっていったのか、さらに興味が湧いてきてカエ~ル大学の研究テーマとして調べていきたいと思っています。

 

※「カエル白書」(A5版 モノクロ 68ページ)Vol.1とVol.2は1冊1000円(税込・送料込)で販売しております。100年カエル館HP http://kaeru-kan.com でお申し込みいただけます。

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Vol.2内容/◎「カエルアートミュージアム~進化するカエルアート」展(京王プラザホテルロビーギャラリーにて)報告 ◎カエル先生、岩澤久彰コレクション展」から見えたこと ◎第20回記念両生類自然史フォーラム報告 ◎カエルグッズでめぐる世界の“カエル旅” 他

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2020年5月14日 (木)

[カエル白書Vol.3」■かえるモノ語り歳時記2019年6月

<カエルで巡る六月の京都、東京>

 高山ビッキ(100年カエル館副館長)

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 毎年、六月の初旬に仕事で京都を訪ねます。カエルを探す旅ではないけれど、何かカエルとの出会いがあると旅のサプライズのようで感激します。

 京都という土地柄、神社仏閣の狛犬や蟇(かえる)股(また)にカエルの意匠が見られるのはもちろん、6月6日は「カエルの日」、六月の京都では、店舗のショーウインドーなどで愉快なポーズをとる〝カエルさん〟たちを見る楽しみもあります。

 こんな意外な発見もありました。お香の老舗松栄堂が昨年オープンした「薫習館(くんじゅうかん)」で開催されていた「京都・ボストン姉妹都市締結60周年記念エミリ・ディキンスンの世界展」でのこと。19世紀のアメリカ東部、ボストンに近い町アマストで、人知れず詩作を続けた女性詩人を紹介する展示でした。

 昨今、本国アメリカを中心に再評価され、映画化もされたエミリ・ディキンスン。この詩人に関連するグッズの展示コーナーもあり、そこで彼女の詩の一節とともにカエルが描かれたタグに目が留まりました。

 その詩の一節とは「I’m nobody! Who are you?」直訳すれば「私は誰でもない。あなたは誰。」この言葉に始まる詩の中になぜかカエルが潜んでいました。そのカエルはエミリが共感するnobody(誰でもない人)ではなく、六月に沼地で盛んに自分の名を告げるSomebody(ひとかどの誰か)として登場します。

 20世紀の日本には、「第百階級」であるカエルの視点で詩作をした福島県出身の詩人草野心平がいます。エミリも心平も共に自らをnobodyに位置づけながら、カエルの捉え方は背景となる国や時代の影響もあるのか、反転するほど違うことを改めて興味深く感じました。

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 五月には、ウエブサイト「東京お寺めぐり通信」(東京都仏教連合会サイト内)の取材のために、足立区の寺町を歩き回りました。竹ノ塚のあたりの路上にカエルの絵柄のマンホールやタイルをいくつか見かけました。

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ここには「やせ蛙負けるな一茶是にあり」の句で知られる江戸後期の俳人小林一茶ゆかりのお寺炎天寺があります。「足立」の地名は「蛙(あ)多地(たち)」から来ているという説もあり、縄文期より湿地帯に生活の場をつくってきたこの地には、さぞカエルがたくさんいたことでしょう。

国を超え、時代を超え、詩人の心に何かをもたらしてきたカエル。会津、東京、そして京都。そのつながりの歴史を感じながら巡る〝カエル旅〟には、いつも思いがけない発見があります。

 

※「カエル白書」(A5版 モノクロ 68ページ)Vol.1とVol.2は1冊1000円(税込・送料込)で販売しております。100年カエル館HP http://kaeru-kan.com でお申し込みいただけます。

Vol.1内容/◎黙阿弥のひ孫、演劇研究家氏のコレクション展(福島県立博物館にて)報告 ◎明治生まれのカエルグッズコレクター、小澤一蛙のコレクションから見えてきたこと ◎自然とカエルの話題 ◎カエル文化的話題 ◎高山ビッキ連載カエルコラム 他

Vol.2内容/◎「カエルアートミュージアム~進化するカエルアート」展(京王プラザホテルロビーギャラリーにて)報告 ◎カエル先生、岩澤久彰コレクション展」から見えたこと ◎第20回記念両生類自然史フォーラム報告 ◎カエルグッズでめぐる世界の“カエル旅” 他

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2020年5月12日 (火)

[カエル白書Vol.3」■かえるモノ語り歳時記2019年5月

 <桜の季節に考えた木とキジとカエルの三すくみ>

 高山ビッキ(100年カエル館副館長)

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 100年カエル館では、カエルの生体展示はしていませんが、ゴールデンウィーク期間中、庭では二ホンアマガエルの鳴き声が聞こえ、たぶん、ちょうど写真の陶製のカエルのように鳴のう(鳴き袋)を膨らませて発声していたと考えられます。

 このカエルの置物は御浜焼(みはまやき)と思われる全長20㎝ほどの陶器で、姿形はトノサマガエルに似ていますが、同種の場合、鳴のうはあごの両脇にあり、鳴くときは左右の(ほほ)が風船みたいに膨らんで見えるのでちょっと違います。大きさからすると、ウシガエル並み。自然を正しく反映しているわけではありません。

 今年(2019年)の「GW開館」は喜多方の枝垂れ桜に間に合い、平成から令和にかけて本館の庭でも、ソメイヨシノに八重桜、そして道路を隔てて少し遠くに枝垂れ桜が見え、「喜多方さくらまつり」を満喫することができました。花も蛙の声も楽しむことができる、この身近な自然を眺めているだけでも、生態系の成り立ちに気づかされました。

 私たちの目の前で血相を変えて(⁈)横切って行ったのは、ツガイのキジ。鳥としては飛ぶのが苦手な分、捕獲されないようにスピーディに走る様子は、ホレボレするほど。アマガエルたちがこのキジファミリーに食べられている可能性を思うと複雑ですが、それも生態系を維持する自然の掟であるなら、キジに由来する諺(ことわざ)を借りて、キジの前を通るカエルに「鳴かずば食われまい」とアドバイスしてあげるのが精一杯。

 アマガエルは、英語でtree frog(ツリーフロッグ)。吸盤のある指を使って木に登るのが得意です。

大昔、地球に小惑星がぶつかって、ほとんどの生命が絶滅したかに見えたとき、最初に息を吹き返したかのように鳴き始めた動物がアマガエル。木に登ったことで繁栄したカエルだといわれています。今も主な棲息場所は樹上です。

 ところが、そんなアマガエルも棲む100年カエル館の庭の樹々に、鳥たちに運ばれた種が育ったのか、野生の藤(ふじ)蔓(づる)が絡みついていました。その生命力には圧倒されるのですが、他の樹々を枯らす原因でもあり、今回はその藤蔓を樹々からはずしてやる作業を行いました。

 カエルは、ヘビとナメクジ(もしくはムカデ)と、三すくみの関係をつくりますが。アマガエルとキジと木にも、豊かな生態系を維持するための「三すくみ」があることを感じました。

※「カエル白書」(A5版 モノクロ 68ページ)Vol.1とVol.2は1冊1000円(税込・送料込)で販売しております。100年カエル館HP http://kaeru-kan.com でお申し込みいただけます。

Vol.1内容/◎黙阿弥のひ孫、演劇研究家氏のコレクション展(福島県立博物館にて)報告 ◎明治生まれのカエルグッズコレクター、小澤一蛙のコレクションから見えてきたこと ◎自然とカエルの話題 ◎カエル文化的話題 ◎高山ビッキ連載カエルコラム 他

Vol.2内容/◎「カエルアートミュージアム~進化するカエルアート」展(京王プラザホテルロビーギャラリーにて)報告 ◎カエル先生、岩澤久彰コレクション展」から見えたこと ◎第20回記念両生類自然史フォーラム報告 ◎カエルグッズでめぐる世界の“カエル旅” 他

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2020年5月11日 (月)

[カエル白書Vol.3」■かえるモノ語り歳時記2019年4月

<新元号「令和」と縁起のいいカエル>

 高山ビッキ100年カエル館副館長)

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 新元号が「令和」と決まってから、その典拠となった万葉集への関心が高まりました。昨年(2018年)のこの連載では、万葉集でヒキガエルはタニグクと呼ばれ、「谷蟆(たにぐく)のさ渡る極み」と国土を知り尽くした存在として登場することを紹介しました。

 また、やはり昨年、磐梯山噴火記念館に常設されている、世界最初の地震計の模型に8匹のカエルの造形が施されていることも書きました。同館によりますと、今、この地震計に熱い視線が集まっているそうです。

 考案した中国後漢時代の張衡(ちょうこう)は、万葉集以前に『後漢書』の中で、「令」と「和」の文字も確認できる詩文『帰田賦(きでんのふ)』を遺しているからです。張衡は役人であり科学者、詩人とさまざまな才能を発揮し、後の世に菅原道真にも影響を与えたと考えられます。「田に帰る」という題の『帰田賦』もカエルの帰巣本能と結びつけたくなり、この詩文をつくった張衡のカエルの地震計は、「かんがえる」ことの大切さを伝える学業成就のシンボルにもなりそうです。

 カエルはよく「縁起がいい」と言われます。「無事かえる」「福かえる」など語呂合わせがしやすいからだと思いますが、その理由をもっと深めてみたいと思い、カエ~ル大学では「カエルの縁起」座標軸をつくったことがあります。「カエルの縁起」という言葉をx軸とy軸で斬ってその意味を構成する要素を分解してみると、中国神話で「すべからく蛙から生じた」とされる「この世をつくる源である木火土鉄水」のうちのいくつかとの関係が見えてきました。

 そこに日本における、カエルと縁があると思われる神社仏閣、神様や伝説の人物を配置してみると、「カエルは縁起がいい」ことの背景につながった気がしました。

 さらに、昨年は同講座で喜多方、そして会津にあるカエル縁(ゆかり)のスポットを紹介する回があったのですが、その「カエルの縁起」座標軸に照らし合わせても、会津、喜多方には“カエルの神様”がいろいろ集まっている、縁起がいい土地なのではないかと確信さえ思えました。

 100年カエル館では、そのような視点に基づき、会津、喜多方のカエルと関わるスポットを紹介しながら、本館について案内するリーフレット(写真)を作成しました。

※「かえるモノ語り歳時記」は、福島県喜多方市のおもはん社発行のフリーペーパー「ほっと・ねっと」に100年カエル館の高山ビッキが連載しているエッセイ「かえるモノ語り―自然と文化をつなぐカエル」を歳時記として加筆修正して再掲載しています。

※「カエル白書」(A5版 モノクロ 68ページ)Vol.1とVol.2は1冊1000円(税込・送料込)で販売しております。100年カエル館HP http://kaeru-kan.com でお申し込みいただけます。

Vol.1内容/◎黙阿弥のひ孫、演劇研究家氏のコレクション展(福島県立博物館にて)報告 ◎明治生まれのカエルグッズコレクター、小澤一蛙のコレクションから見えてきたこと ◎自然とカエルの話題 ◎カエル文化的話題 ◎高山ビッキ連載カエルコラム 他

Vol.2内容/◎「カエルアートミュージアム~進化するカエルアート」展(京王プラザホテルロビーギャラリーにて)報告 ◎カエル先生、岩澤久彰コレクション展」から見えたこと ◎第20回記念両生類自然史フォーラム報告 ◎カエルグッズでめぐる世界の“カエル旅” 他

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