生活トレンド分析 

2012年7月27日 (金)

2008年 ワークライフバランス消費(生活トレンド分析)

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脳内で“”バリと“ユル”を使い分ける

ワークライフバランス消費。

高山ビッキ・文

「脳」や「脳力」をめぐるマーケットの動きは、特に21世紀に入ってからとどまることがない。

テレビ番組「脳内エステ IQサプリ」(フジテレビ系列)をはじめとするクイズ番組が増え、ゲームソフトも「大人の計算ドリル」をヒットさせた医学博士・川島隆太による「脳を鍛える大人のDSトレーニング」(ニンテンドー)がゲームの新市場を開拓し、脳科学者の茂木健一郎の唱える「脳を活かす勉強法」は、受験生から中高年にまで支持され、就職試験やビジネスの現場では「地頭力(じあたまりょく)」が求められているのだとか。

生活に根付いた「脳論」

脳に対する関心は、90年代以後着実に広がったが、このところの動きは、決して理論上のものではなく、実際の生活に根ざしたものとなっているのが大きな特徴だ。

脳への関心の高まりが脳科学そのものの発達の賜物であることはまちがいないが、それがなぜ、個人の消費生活にまで影響を及ぼしているのか考えてみたい。

バリバリとユルユル

それはひとつには「葡萄図(グレープアナリシス)」に示したように、「ワーク」と「ライフ」のバランスを個人の脳で管理していく時代になったからかもしれない。

21世紀に入ってIT社会が定着した結果、仕事をしようと思えば地球の時差を超えて24時間〝オール・タイム・ジョブ〟も可能だ。格差社会が問題になるなか、脳の使い方ひとつで収入に差が出るのもIT時代がもたらしたひとつの側面と捉えられる。

仕事と生活

最近「ワークライフバランス」という考え方が提唱されている。24時間高収入を得るだけが人生ではないし、これからの仕事は、もっと「ライフ」を通して人とのコミニュケーションを深めることが、さらなるステップアップに必要と思っているビジネスの成功者が増えているのだ。

そこで「葡萄図」では「ユル」と「バリ」を相対する位置に置いた。ちなみに「バリ」はバリバリ仕事をする方向に対して、「ユル」はゆる~い気分である。

生身の脳

脳の専門家によれば、脳はたえずバリバリ全開にしておくより、睡眠やボーっとする時間を上手に活用する方が〝ひらめき脳〟として良い効果が得られるという。飲まず食わずで24時間仕事をしても、生身の人間が健康を維持できるわけではないのだ。

「ユル」をうま~く活かした脳の使い方がこれからは大切になる。IT社会のなかで浮上してきた人対人のコミニュケーションの問題を解消し、より豊かなワークライフバランスを営むためにも、あらためてアナログ的な脳の使い方が、いま、真剣に見直されつつある。

(2008年夏)

※この文章は高山ビッキが2008年に企業のPR誌に執筆した原稿をほぼそのまま掲載しております。無断転載を固く禁じいたします。 ※本サイトへのお問い合わせはカーアンドケーまで03(3981)6985

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2012年7月24日 (火)

2009年 ネイチャー・ネットワーク消費(生活トレンド分析)

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便利さを優先せず、ゆっくり育む

ネイチャー・ネットワーク消費

高山ビッキ・文

21世紀に浮上する「自然」とのつながり

100年に1度の大不況といわれるなか、その背景のひとつに20世紀に人間がめざしてきたものの行き詰まりがあるだろう。その証拠に、不景気といわれながらも人々に求められ確かに動いている市場は、20世紀にむしろ退けられていたものだからである。その最たるものに、自然とのつながりがある。

エコロジーという言葉が企業活動のテーマになって久しいが、それが生産のしくみや流通システムとは真逆の価値観だっただけに、大きな方向転換を実現するには至らなかった。その結果の行き詰まりのようである。

そうこうしているうちに、消費者は自らの生活環境やネットワークを活かして、失いかけた自然とのつながりを回復させているようである。それを今回の分析では、ネイチャー・ネットワーク消費として、関連する消費動向や時代のキーワードを位置づけてみた。

身近な自然とのネットワーク

現在は、インターネットが社会基盤化するネットワーク時代である。ネットワーク社会というと、ともすると個人と個人をつなぐバーチャルな世界をイメージしてしまうが、21世紀に入り消費者が求めているのものは、自然につながるためのネットワークである。

これは大きくは、身近な自然につながる方向と地球規模に広がる遠くの自然につながろうとする方向があるようだ。身近な自然の取り組みでは、自宅の小さな庭で栽培した野菜を食卓にのせるキッチン・ガーデンや、生物が生息する場所、ビオトープを広げようという地域ぐるみの運動を、さらに自宅の庭づくりにも活かしていこうというビオトープ・ガーデンなどが挙げられる。こうした試みは、自冶体がヒートアイランド対策も見据えた住まいの屋上・壁面緑化という切り口で助成するなどして推進しているところも多い。

ものが売れないといわれるときに賑わっている売り場といえば、ファーマーズ・マーケットである。その形式は、農協や道の駅の大規模直売所から野菜の自販機までさまざまだが、地域の自然や顔の見える農家とのつながり感じられる「地産地消」「身土不二(しんどふじ)」にもとづく、いま最も熱く語られるアグリ・マーケティングの最前線といえるだろう。

地球全体の自然環境と関われる時代

最近は、レストランでも家庭でも、食材選びにはトレーサビリティ(生産者をたどれること)を意識することが、安全・安心な食を守るために不可欠になっている。

インターネットを通じて家庭と農家も直接につながるので、自分の故郷の食材や旅先で味わって気に入った食材などをお取り寄せする消費行動も定着した。インターネットと食べ物を介して国内の遠くの自然とつながる方法といえる。

また、日常的に世界の自然とつながる方法もある。発展途上国の食品や工芸品などを公正な価格で購入するフェアトレードや、商品を購入するだけで自然破壊が進んでいる地域の保護活動に協力できる、自然保護基金付き商品などがある。特定の地域の自然保護に役立っていることが付加価値となり、手軽に参加できる社会貢献として参加する人が増えているという。

生活のなかで身近な自然や地球規模の自然と交流していこうという消費者の意識は、旅先で地産地消し地元の食を楽しみ、ありのままの自然を見に行くエコ・ツーリズムの人気にもつながっている。観光と生活が結びついた21世紀ならではの豊かさが感じられるプランだ。

そして観光客を迎え入れる地元では、その地域が長い時間をかけて育んできた自然や風土、そこから生まれる生活文化、伝統工芸などをそのままひとつのミュージアムとして見せるエコ・ミュージアムに力を注いでいるところが増えた。人と自然のネットワーク消費とは、生活の便利さを追求する20世紀的価値観とはまるで正反対で、ときには不便さも承知でゆっくり時間をかけて育む生活スタイルといえるだろう。

2009年冬)

※この文章は高山ビッキが2009年に企業のPR誌に執筆したものをほぼそのまま掲載しております。無断転載を固く禁じいたします。 ※本サイトへのお問い合わせはケーアンドケーまで03(3981)6985

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2012年7月11日 (水)

2007年パパライフをエンジョイする世代の父と子のマーケット

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<生活トレンド分析>

「パパライフをエンジョイする世代の父と子のマーケット」

高山ビッキ・文

「パパ」を楽しむニュータイプの消費者

最近の消費行動を語る上で注目されているのが、子育てに関わっている「パパ」の存在である。

世代的には、30代から40代の男性とされる。「新人類」としてトレンドをリードした層を中心とする40代男性と、団塊ジュニアをメインとしてティーンのときからその消費スタイルに多くの関心が集まっていた30代男性。ただし、独身時代の両者の消費生活には明らかな違いがあった。

分岐点はバブル経済の崩壊。社会に出ても数年はバブルの恩恵を受けた40代は、同世代の女性たち(いわゆるhanakoさんと呼ばれた世代)ほどではないにせよ、ファッション、レストラン、クルマ、旅行と、浪費する快楽も味わった。ところが、30代の場合、社会に出てみれば、そこは「祭り」の後。就職も超氷河期に入り、浮かれた消費生活はできなくなっていた。

そんな10年ほどの世代差はあるが、彼らは子供の頃に高度経済成長とともに育ち、その行き着く果てにバブル経済も目の当たりにした。けれども、大人になり結婚をし、自らが子供の成長を見守る立場になった現在、日本経済や社会状況は子供の将来を託すには不安要素が多すぎる。そんななかで彼らは積極的に「パパ」を楽しむニュータイプの消費者として浮上してきている。

「ウルトラマン世代」のノスタルジー

彼らは「ウルトラマン世代」(30代は「ガンダム世代」ともいえるのだろうか)と語られることもある。40代後半であれば、高度経済成長真っ只中の小学校低学年のときに初めてTV番組の「ウルトラマン」と出会っている。

この秋、『怪獣と美術』という企画展が開催された(三鷹市美術ギャラリー)。これは『ウルトラマン』や『ウルトラセブン』の怪獣デザインを担当した故・成田 亨氏の作品で、会場にはまさに「ウルトラマン世代」のパパも子供を連れて見に来ていた。

その展示作品のなかにジャミラという怪獣のデザイン画があった。ジャミラは、元宇宙飛行士の人間だったという悲しい設定の怪獣。その回ばかりは、ウルトラマンを素直に応援できなかった記憶をもつパパも多いはずである。3040代は、喜怒哀楽といった情緒的な部分をテレビのヒーローものやアニメで培った最初の世代である。バーチャル(仮想的)な世界の中にこそなつかしいと思えるものが多いと感じている。

最近、子供たちに人気の高いゲームやアニメは、「ケロロ軍曹」(原作・吉崎観音)、「甲虫王者ムシキング」(セガ)など、パパを巻き込んで盛り上がっているものが多い。つまり、現代のパパたちは充分にネオテニー化(幼児化)したまま「父親業」を楽しむことができるのだ。

子供たちをクリエイティブに育てたい

しかし、そんなパパたちも21世紀に入り、ITはインフラ(社会基盤)化し、終身雇用は崩壊、家庭における男女間の役割意識にも変化が見られるようになった今、自分の子供たちの未来を考えたとき、これまでの父親にはない動きを見せるようになった。

料理や手芸といった、家庭においてこれまで女性の領域に属していた分野に興味を示し子供たちとともに楽しみ、自然観察や化学実験、体験型旅行などで子供たちに実体験する喜びを教え、ファッション、インテリア、アート、クルマなど、自分がこだわってきた生活スタイルを伝える。

彼らは子供たちに、現実を生き抜いていけるクリエイティブな人間に育ってほしいと思っている。それに対して子供への教育というより、自らも楽しんで関わろうとするところに、豊かな時代に育ったネオパパならではの消費スタイルが窺える。

2007年冬)

※この文章は高山ビッキが2007年に企業のPR誌に執筆したものをほぼそのまま掲載しております。無断転載を固く禁じいたします。本サイトへのお問い合わせはケーアンドケーまで03(3981)6985

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2008年Hanakoさんの再デビューと人生いろいろプレミアム消費

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<生活トレンド分析>

Hanakoさんの再デビューと人生いろいろプレミアム消費」

高山ビッキ・文

「プレミアム」という言葉をよく耳にするようになった。商品広告などではビールからクルマまで、単価の規模を問わず使われる。それは「高級」「ラグジュアリー」「リッチ」といった言葉の意味や語感とどうちがうのだろうか。

その言葉の消費市場における可能性を分析した『プレミアム戦略』(遠藤 功著・東洋経済新報社)では「バブル消費が〝他人のものさし〟に依存した高級志向だったのに対し、

現在の消費傾向には自分らしさという〝自分のものさし〟で高級や本物を求めようとする特徴がある」とする。同書では、市場が成熟することで消費者の欲望の質が高まり、日本人の多くが自分の〝こだわるもの〟〝こだわらないもの〟を選別して消費するようになったと説く。

欲望の質の高さでは人後に落ちないHanakoさん世代の現在について考えてみた。ひと頃Hanakoさんと呼ばれた、現在アラウンド40(おおかた40代)の女性たちの生き方。

彼女たちはバブル崩壊をきっかけに、「結婚」と「仕事」が交差する人生のなかで、それまでの世代にはないこだわりのある豊かさを求めてきた。そこに男女雇用機会均等法の後押しを受けてある時期まではキャリア志向だったが、バブル崩壊の影響と女性本来の幸福感とは何かを求めた結果、キャリアより結婚を優先したマダムHanakoがいる。

彼女たちは、子育てをしながら〝カリスマ主婦〟に憧れ、家事をクリエイティブにこなす努力をしたこともあった。だが、子育てにかかる物理的な時間が減ったいま、再び仕事に復帰すべく動きだしている。彼女たちは、よりプレミアムな生活を送るためには、経済的にも生き方としても再度キャリアの形成が不可欠であることを感じている。

Hanakoさん世代を対象にライターとして仕事をするための講座を開いているところの代表は「彼女たちが働く場合、どんな職種でもいいと思うわけではありません。私たちは生活情報を扱うライターは主婦にこそ向いていると勧めることで、この世代に夢を与えています」と語る。

全般的な消費の冷え込みがまだいわれているが、マダムHanako社会に飛び出すことで、プレミアム市場が活性化することを期待したい。

2008年春)

※この文章は高山ビッキが2008年に企業のPR誌に執筆したものをほぼそのまま掲載しております。無断転載を固く禁じいたします。※本サイトへのお問い合わせはケーアンドケーまで03(3981)6985

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2007年 ヒメコさんが「イケメン」を消費する理由

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<生活トレンド分析>

「ヒメコさんが「イケメン」を消費する理由」

高山ビッキ・文

今、女性がなぜこれほどまでにイケメンを追い求めるのか。そこには男性がビジンを欲するのとは明らかにちがう心理が読み取れる。「イケメン」を消費する中心層をヒメコとヒメハハと名づけて分析してみた。

マリー・アントワネットと団塊ジュニア女性

ソフィア・コッポラ監督の映画「マリー・アントワネット」が日本でも公開され話題になった。

作品は、14歳でオーストリアからフランスのルイ16世のもとに嫁いで栄華を誇ったが、最期はフランス革命によりギロチンで処刑されたマリー・アントワネット(17551798)が主人公。ヴェルサイユ宮殿で規律ばかりの生活のなか、彼女はファッションやスイーツ、パーティなどの浪費に走る。その描写が現代のごく普通に生きる女性の共感のためいきを誘う。

小倉千加子(医学博士、心理学者)は、その著書『結婚の条件』(朝日新聞社)で、いわば「勝ち組」の主婦は、結婚によって階層上昇できなかった女性に対し、マリー・アントワネットのように次のように言うだろうと書いている。「子育て中は子育てに専念し、おまけに社交も怠らないでいられるような結婚をなぜしなかったの。それ以外にどんな結婚があるの…」

現在、結婚適齢期とされる20代半ば~30代後半(主に団塊ジュニア)の女性たちの未婚率は37%。約4割が未婚という統計(2005年国勢調査)が出ている。彼女たちが「結婚」の二文字を前に焦りを覚えつつ、二の足を踏むのは、前記のような勝ち組主婦のひと言を無視できないからかもしれない。

高度経済成長期以後、日本は核家族化が進んで、子どもの数は「姫一人、太郎一人」がメインとなり、その典型が「団塊ジュニア」と呼ばれる世代の人たちだ。団塊世代の親たちによってバブル景気の最中、欲しいものを我慢しないでのびのびと育てられた女性も多い。ここでは、そんな彼女たちを「ヒメコさん」と呼ぶことにする。

ヒメコさんは、お姫様のようにワガママに育ったものの、成人して社会に出ると〝下界〟はバブル崩壊後の雇用環境厳しい世の中。さらに、団塊世代の親は大量定年を迎える2007年問題へと突入。マリー・アントワネットの結婚が国家の一大事であるように、ヒメコさんの結婚も一家の一大事となってきたのだ。

ヒメハハとともに「イケメン」遊び

団塊母娘は消費行動をともにすることが多い(『新女性マーケットhanako世代をねら!』牛窪恵・著/ダイヤモンド社)ようだ。

一緒に行動するといっても、母娘ならではの金銭面や情報面における役割分担や微妙な協力関係があるようで、ヒメコさんが時代的に決して恵まれているとはいえない雇用状況の中でも、エステやグルメ、ショッピングを謳歌できるのは、このヒメハハの力がおおきい。

ヒメハハも決して娘のためだけを思って行動をともにするわけではない。娘を通してなつかしい若き日を思い出したり、若い頃にはできなかったことを実現するのが、子育てを終えた現在の生きがいのひとつにもなっている。そんな母娘の消費行動の原動力になっているのが、〝イケメンに対する擬似恋愛消費〟とでも呼べる消費行動である。

このイケメンを消費する女性たちの存在を強く印象づけたのは、まだ記憶に新しい「ヨン様ブーム」だろう。俳優やタレント、ミュージシャンなどに対する「追っかけ」行為は昔からあるが、それを4060代とおぼしき熟年の女性たちも実行している姿が世間を驚かせた。

なかでも団塊世代のヒメハハは、ヒメコを伴って韓国に旅し、ヨン様主演で大ヒットした「冬のソナタ」のロケ地まで行き、相手役のヒロインになりきってお互いに写真を撮り合った。

こうした団塊母娘の消費行動は、母娘にとって結婚前の娘の恋愛について知る機会になり、娘にとっては結果的に親孝行になっていることもある。

その後、ヨン様ブームは落ち着いたが、貪欲な女性たちは新たなイケメン開拓を怠ってはいない。いまや、イケメンをめぐる消費行動は、旅行や関連グッズへの散財のみならず、そのお目当てのイケメンのためにキレイになることをめざす女性たちによって、モノが売れないといわれるなかで化粧品、美容、ダイエット関係市場は大いに盛り上がっているのだ。

さて、ヒメハハにとっての夫は「王子」であるはずがなく、「侍従」であれば及第点といったところ。またヒメコにしてみれば「イケメン」遊びもいいけれど、結婚はもっと現実的な問題。同じく適齢期であるはずの同世代、団塊ジュニア男子は、ともすると職にありつけず、家に引きこもっているタイプも少なからずいる。彼らを、ここでは「ヒキオくん」と呼んでみる。

でも、グリム童話のお姫さまのように、ヒキガエルならぬヒキオくんを壁にぶつけたところで王子になる可能性はまずない。ゆえに今日もヒメコさんはマリー・アントワネットのように「イケメン」を消費して楽しむのである。

2007年夏)

※この文章は高山ビッキが2007年に企業のPR誌に執筆したものをほぼそのまま掲載しております。無断転載を固く禁じいたします。※本サイトへのお問い合わせはケーアンドケーまで03(3981)6985

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2012年7月10日 (火)

2008年 大人の遊び心を刺激するホビー消費

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大人の遊び心を刺激するホビー消費 

高山ビッキ・文

●大人向けにシフトした子供の遊び

少子化の影響で、ここ数年、市場経済の縮小が懸念されている玩具業界の大人向け市場である。

例えば、来年でテレビアニメが放映されて30年になるガンダムの人形をはじめとするフィギュアやプラモデル市場は、子供の頃に手にとって遊んだ記憶のある大人たちを満足させるためにディティールの精密度を高める商品を開発することで、年々市場を拡大している。

また東京ビッグサイトで毎年開催されている「日本ホビーショー」の今年のイベントでも、ビーズや塗り絵、粘土細工、模型づくりなど、本来のジャンルは子供の遊びだったものが、大人の遊びとしてカテゴライズされていた。

ホビーを趣味と直訳すれば、読書や音楽鑑賞なども入るのだが、いまのホビー市場は、どちらかといえば子供の遊び道具を大人向けに成熟化・精密化させたものが多い。

●子供の頃の思い出を忘れない世界

そこで、今回の「葡萄分析図」では、子供が中心になっている遊び道具で大人にも注目されているホビー商品を中心に構成した。葡萄分析図を構成するホビー市場のキーワードは、ホビー行動における「集める」行動と、それに対する「つくる」行動で、それぞれを「キッツ&プロダクツ」と「マシン&サイエンス」という2つの視点から集約した。

ロックアーティストに憧れたり、自身がロッカーだった少年が、成人したあとに何十万もするギブソンのエレキギターを買い求めバンド活動を始める。またバービー人形やリカちゃん人形で遊んだ少女が、大人になって自分のために再び買い集める……何かを集めたり、つくったりするホビー市場は、キャラクターグッズなど特定のプロダクツを集めたり、ビーズなどキット化した部材でアクセサリーをつくったりするなど、いわば「キッツ&プロダクツ」の方向性が活気づいている。

一方アニメに登場したマシンやフィギュア、また世界の珍しいクワガタやカブトムシを集めたり、また鉄道模型やラジコンなどを組み立てたりする大人たちは、いわば「マシン&サイエンス」の世界への関心が高い。

●ホビー市場の背景にあるもの

いま、ホビー市場を形成している「キッツ&プロダクツ」も「マシン&サイエンス」も、夢中になって没頭できた子供の頃をあらためて実感したいとの願望によって下支えされているのかもしれない。そんなホビー市場の背景として次の3点が挙げられる。

1、   余暇の必要性と余暇時間の増加

今年の日本ホビーショーでは、定年退職により余暇時間が増えた団塊世代を主ターゲットとした鉄道模型が初めて登場するなど、ホビー市場に新しい男性層を開発する試みがいくつか見られた。また富裕層と呼ばれる人々のなかには、IT関係を中心としたビジネス成功者も多いが、彼らのストレス解消法としても最近はホビー市場が注目されている。ネットオークションのヤフー・オークションやEBAYの人気も、そうした人々に支えられている。

2、   日本のオタク文化への世界評価

ホビー市場には、少し前まで「オタク文化」として批判的に見られていたジャンルもあるが、しかし、そのオタク文化自体がマンガやアニメをはじめ、世界的に評価されるようになったいま、それを趣味にすることに抵抗がなくなってきた。

 3、20世紀文化を継承するもの

最後にもうひとつ挙げるとしたら、時代の大きな転換期における何かを遺したいという人間の本能のようなものではないだろうか。いまのホビー商品は、20世紀後半に生まれたものが多く、21世紀の現在、前世紀の良いものを伝えたいという、現代の大人の欲求が働いていると考えることもできるだろう。

2008年夏)

※この文章は高山ビッキが2008年に企業のPR誌に執筆したものをほぼそのまま掲載しております。無断転載を固く禁じいたします。※本サイトへのお問い合わせはケーアンドケーまで03(3981)6985

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2012年7月 9日 (月)

2007年都会と地方の2地域居住、広がる居住ライフ

2007年<生活トレンド分析>

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今年(2007年)から注目されるのが団塊世代の大量定年による〝団塊族の大移動〟。なかでも、大きな流れは「都市回帰」と「地方回帰」双方の〝国内大移動〟だ。そして理想をいえば、都市と地方のどちらにも生活拠点をもち、行き来して暮らす「2地域居住」を希望する人が増えている。

「都市回帰」は、子供が独立するまでは郊外一戸建てに住んでいた団塊夫婦が、都市部のマンションで生活の利便性や質、文化性を高めるライフスタイルへの転換。一方の「地方回帰」は、退職を契機に田舎で農業や釣りなど自然とふれあう生活を求めた地方への移住だ。その場合、移住先が自分の出身地や実家のある場所とは限らないところが最近の大きな傾向で、自分にとってより快適な土地を求めて移住しようとしている。

ちなみに日本経済新聞社の調査によれば、団塊世代の移住希望者に最も人気の高かった場所は沖縄。特に周辺に衣・食・住・遊・医など生活の安全と豊かさを約束する機能を

備えたリゾートタウンへの関心が高い。

「移住」は、決して定年退職者だけに関わるキーワードではない。30代を中心としたいわゆる団塊ジュニアに相当する層で、特にIT関連ビジネスで成功している人々にとっても2地域居住」は魅力があるようだ。何といっても彼らはIT精通しているがゆえに、仕事場を限定しないでいい。なかにはオフィスごと定期的に「移住」させている会社もある。

総務省は、都会と田舎の両方に滞在、居住しながら、田舎では地元の人々と交流するライフスタイルを「交流居住」として推奨。また、国土交通省は「2地域居住」を積極的に支援する体制を打ち出している。国や自冶体は豊かな自然の残る日本が見直され、地方経済の活性化につながるものと期待している。

「移住」という発想が一般に浸透していくなか、旅のしかたも変化している。国内・海外を問わず、個人的に気にいったところに何度も足を運ぶリピーターが増加。それが、リタイア族の「移住」先、つまり〝第ニの故郷〟になる可能性は高い。

少子高齢社会となった現在、子が年老いた親の面倒をみながら代々受け継いだ土地を守るという、伝統的な共同体や家のシステムは従来どおりには立ち行かない。親世代も、貯蓄したお金は自分たちで使い尽くそうと考える人が増えたといわれる。こうして旧来的な「家」も「共同体」も揺らいでいるなかで、人々は「移住」へと誘われているのかもしれない。

そしてその先に見えてくるものは新しい「ホーム」であり、新しい「ホームタウン」なのではないだろうか。今、団塊世代の地域活動による新しい町づくりへの関心はかなり高い。日本人は「移住」しながらも、どこかに「回帰」を求めているのかもしれない。

(2007年夏掲載)

※この文章は高山ビッキが2007年に企業のPR誌で連載していたものに加筆修正しております。

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