新札の発行で想い起す元祖カエル・コレクターと「我楽他宗」のこと/かえるモノ語りー自然と文化をつなぐカエル91
かえるモノ語りー自然と文化をつなぐカエル91
<新札の発行で想い起す元祖カエル・コレクターと「我楽他宗」のこと>
100年カエル館
高山ビッキ
会津が生んだ偉人、野口英世先生が千円札に登場して20年。今月新しいお札が発行され、千円札は北里柴三郎先生にバトンタッチしました。
紙幣の発行といえば、100年カエル館で展示コーナーを設ける明治生まれのカエルのコレクター、小澤一蛙(おざわいちあ)さんは、生前定年まで造幣局に勤務していました。仕事柄お札には詳しかったと思います。
その一方で、カエルに関する何から何までを集める蒐集家であり、版画や都都逸(どどいつ)を楽しむ趣味人でした。小澤さんが趣味を極めていく四十代は大正時代に当たり、世の中に「趣味家」と呼ばれる人々を輩出しました。
彼らはグループをつくって活動していたのですが、その中でも最大の集団と呼ばれたのが「我楽他宗(がらくたしゅう)」で、小澤さんも創設当初からのメンバーの一人。
その我楽他宗が、最近、静かに注目されています。
2021年に多摩美術大学で「我楽他宗―民藝とモダンデザイナーの集まり」展が開催され、その内容を基にした本『非凡の人 三田平凡寺―趣味家集団「我楽他宗」の磁力』(かもがわ出版)が今年刊行されました。
三田平凡寺という名前は、今は一般に馴染みがないかもしれませんが、その四女の方と文豪夏目漱石のご長男が結婚。二人の間に生まれ、漱石と平凡寺を祖父にもつ方が、漫画家・漫画批評家の夏目房之介氏で、本書の執筆者のお一人です。
「平凡寺」は本名ではなく、我楽他宗ではメンバーがそれぞれ山号・寺号をもち、お互いを札所として訪ね歩きました。「趣味山平凡寺」。因みに小澤さんは「天碌山蛙寶寺(てんろくざんあほうじ)」。諧謔精神(かいぎゃくせいしん)、遊び心に満ちた集まりでした。
自らを「平凡寺」と称するほど、幼少期の事故で聴覚を失っていながら、今でいうクリエイティブな面で非凡な才能を発揮して新聞等を通じてその名が知られていた三田平凡寺の存在。そして、当時の郵便や交通手段の発達も背景に、全国、そして海外へも広がった我楽他宗という趣味のネットワークへの再評価は、21世紀の今の時代を背景に映し出しても違和感がなく、むしろ学べることが多くあります。
本館に常設で展示している小澤一蛙のコレクションの一部も、大正から昭和のはじめ、我楽他宗が今をときめく活躍をしていた時代を証言するものだと思います。その頃からカエルの置物を集め始めた私たちの祖父にも我楽他宗の影響があったかもしれないと思うのは、楽しい想像です。
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