かえるモノ語り―自然と文化をつなぐカエル 52 「ほっと・ねっと」2021年4月号 「桜の季節に万葉から響く“かはづ”の声」
<桜の季節に万葉から響く「かはづ」の声>
高山ビッキ(100年カエル館)
喜多方の枝垂れ桜は毎年4月の中旬から下旬が見ごろですが、今年の桜前線はいつもより早く北上したようです。
この原稿を書いている4月初旬は奈良県の吉野山の桜が例年より十日早く見ごろを迎えたと新聞報道されていました。
吉野山といえば、以前毎夏開催される「蛙飛び行事」を紹介したことがありますが、近くを流れる吉野川は、万葉集に三輪川、佐保川などとともに「かはづ」が清流の景物として詠まれています。
ところで、「カエル=カワヅ」とする考えはいつ頃からあったのでしょうか。
万葉集で「かはづ」は二十首詠まれ、いずれもカジカガエルを想定していると思われるのですが、「万葉時代にカハヅといわれていたものが、カジカと呼ばれるようになったのは平安朝以後、加茂川の上流や桂川のカジカの鳴き声に親しむようになってから」(東光治著『万葉動物考』「かはづ及びかえる考」より)とも考えられています。
平安時代前期に編まれた『古今和歌集』の編者紀貫之の「仮名序」にも「かはづ」は登場し、古今集には「かはづ」は「よみ人しらず」の一首、「かはづなくゐでの山吹散りにけり花のさかりにあはましものを」が見られます。
先述の『万葉動物考』には、今では山間の渓流に棲むカジカガエルも、奈良時代頃までは、河川に人工の手が加えられることが少なく、かなり平坦な流れにも数多く棲み、歌に詠まれることも多かったのではないかと論じています。
それが平安京の都の整備に伴い、歌を詠む人々の周囲にカジカガエルの棲む自然が少なくなり、一方で平地の水辺に棲むようなトノサマガエルなどが増えた。平安後期以降に描かれたとされる「鳥獣戯画」に出て来るカエルがトノサマガエルであることに繋がるかもしれません。
平安時代に編纂された『新撰字鏡』『和妙抄』といった辞典類に「カヘル」が出て来ても、「カハヅ」は見られないことから、「カハヅ」は歌語の中に残ったと考えるのが通説のようです。
写真の「石乗りガエル」は、私が高校の修学旅行で初めて京都に行ったときに苔寺(西芳寺)で買ったものです。渓流の石の上で鳴く「かはづ」のイメージは万葉の昔からずっと日本人の心に響いているのでしょう。
<関連サイト>
「100年カエル館」 http://kaeru-kan.com
「カエ~ル大学」http://kaeru-kan.com/kayale-u
カエル大学通信 www.mag2.com/m/0001378531.html
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