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2021年5月

2021年5月23日 (日)

かえるモノ語り―自然と文化をつなぐカエル 53 「ほっと・ねっと」2021年5月号 「コロナ下に柳に跳びつくカエルの教え」

<コロナ下に柳に跳びつくカエルの教え>

高山ビッキ(100年カエル館)

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 日本の書道の歴史において、平安時代の書の名人を「三筆」とか、「三蹟」とか、はたまた「三生(三聖)」として三人を挙げることがあります。

 その三蹟にも三聖にも名を遺す人に小野道風がいて、よく知られているエピソードに、書が上達しないと悩んでいたときに、柳の木に何度も跳びつこうとしている蛙を見て、不断の努力の大切さを知ったと伝えられています。

 これは史実として書き記された話ではなく、江戸時代に入って浄瑠璃の題材になり、明治になると花札の絵柄になり、昭和期は戦前の教科書にも載るようになって、今に至るまで広く知られるようになった話です。

 そして、カエルグッズにも柳に跳びつく蛙とともに造形された道風の人形や、そこから派生した柳に跳びつく蛙のみを表現した工芸品などは今もたくさん作られています。

 今回掲載しているのは、長野県中野市に伝わる中野土人形の道風人形。もちろん柳に跳びつく蛙も見えます。江戸時代に各地で盛んに作られた土人形の題材にも道風の逸話は好まれたと想像します。

 カエル好きから見た、平安時代のいわばカエルの「三聖」は、平将門、菅原道真、小野道風ではないかと思っています。本連載でも以前、将門公、道真公とのカエルの縁や、そのことが伝わる、それぞれが祭神となった神社などを紹介したことがあります。

 小野道風に関しては、大津市や京都市などに小野道風を祀った神社があります。そして、出身が愛知県春日井市ということで、春日井市には「道風記念館」があり、その蛙との関わりから、毎年4月に「春日井カエルまつり」が開催され、市を挙げて「働き方をカエル、街をカエル、社会をカエル」と、新しい価値を創造するたゆまぬ努力を続けている企業を「春日井カエル企業」として応援しています。

 今年はコロナ禍で、毎年6月に開催される松本かえるまつり(長野県)は昨年に続き中止に、春日井カエルまつりは秋に延期されました。多くのイベント同様、カエルのイベントも開催できない状況が続いていますが、小野道風を励ましたカエルのように、あきらめない心をもって進んでいきたいものです。

<関連サイト>

「100年カエル館」 http://kaeru-kan.com

「カエ~ル大学」http://kaeru-kan.com/kayale-u

カエル大学通信 www.mag2.com/m/0001378531.html

※ブログ「高山ビッキBlog」http://kaeru-kan.cocolog-nifty.com/vikkiも配信中です。

 

 

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2021年5月 9日 (日)

かえるモノ語り―自然と文化をつなぐカエル 52 「ほっと・ねっと」2021年4月号 「桜の季節に万葉から響く“かはづ”の声」

<桜の季節に万葉から響く「かはづ」の声>

高山ビッキ(100年カエル館)

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 喜多方の枝垂れ桜は毎年4月の中旬から下旬が見ごろですが、今年の桜前線はいつもより早く北上したようです。

この原稿を書いている4月初旬は奈良県の吉野山の桜が例年より十日早く見ごろを迎えたと新聞報道されていました。

 吉野山といえば、以前毎夏開催される「蛙飛び行事」を紹介したことがありますが、近くを流れる吉野川は、万葉集に三輪川、佐保川などとともに「かはづ」が清流の景物として詠まれています。

 ところで、「カエル=カワヅ」とする考えはいつ頃からあったのでしょうか。

 万葉集で「かはづ」は二十首詠まれ、いずれもカジカガエルを想定していると思われるのですが、「万葉時代にカハヅといわれていたものが、カジカと呼ばれるようになったのは平安朝以後、加茂川の上流や桂川のカジカの鳴き声に親しむようになってから」(東光治著『万葉動物考』「かはづ及びかえる考」より)とも考えられています。

 平安時代前期に編まれた『古今和歌集』の編者紀貫之の「仮名序」にも「かはづ」は登場し、古今集には「かはづ」は「よみ人しらず」の一首、「かはづなくゐでの山吹散りにけり花のさかりにあはましものを」が見られます。

 先述の『万葉動物考』には、今では山間の渓流に棲むカジカガエルも、奈良時代頃までは、河川に人工の手が加えられることが少なく、かなり平坦な流れにも数多く棲み、歌に詠まれることも多かったのではないかと論じています。

 それが平安京の都の整備に伴い、歌を詠む人々の周囲にカジカガエルの棲む自然が少なくなり、一方で平地の水辺に棲むようなトノサマガエルなどが増えた。平安後期以降に描かれたとされる「鳥獣戯画」に出て来るカエルがトノサマガエルであることに繋がるかもしれません。

 平安時代に編纂された『新撰字鏡』『和妙抄』といった辞典類に「カヘル」が出て来ても、「カハヅ」は見られないことから、「カハヅ」は歌語の中に残ったと考えるのが通説のようです。

 写真の「石乗りガエル」は、私が高校の修学旅行で初めて京都に行ったときに苔寺(西芳寺)で買ったものです。渓流の石の上で鳴く「かはづ」のイメージは万葉の昔からずっと日本人の心に響いているのでしょう。

<関連サイト>

「100年カエル館」 http://kaeru-kan.com

「カエ~ル大学」http://kaeru-kan.com/kayale-u

カエル大学通信 www.mag2.com/m/0001378531.html

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