かえるモノ語りー自然と文化をつなぐカエル㊷■「ほっと・ねっと」2020年6月掲載エッセイ
<雨の季節に見ていてもうっとり、カエルのゴム靴>
高山ビッキ(100年カエル館副館長)
購入したばかりのカエルグッズから思い出深い置物のカエルまで、お気に入りのカエルたちをテーブルに並べてお茶など飲みながらうっとりと眺めることがあります。
これを100年カエル館では「花見」や「月見」になぞらえて「蛙見」と称しています。
一方、当のカエルたちは「雲見」ということをするそうです。宮沢賢治の童話作品『蛙のゴム靴(かえるのごむぐつ)』の中で語られています。人間がする「花見」や「月見」のように、と。
この童話には3びきの蛙、カン蛙、ブン蛙、ベン蛙が登場します。3びきは「夏の雲の峯」を見ることが大好きで、夏になると「雲見」をします。
なぜ雲の峯が好きかというと、賢治によればそれが「蛙の頭の形」や「春の蛙の卵」に似ているからのようで、「眺めても眺めても厭(あ)きない」のだそうです。
カエルグッズのコレクターが、カエルの形態のモノに心奪われるのと同じでしょうか。カエルグッズはカエルにも人間にも似ているものがありますから。
童話の中で最初、仲が良かった3びきでしたが、人間の間で流行っているというゴム靴を1ぴきだけが手に入れたことでその関係が変わってきます。
6月の梅雨の時期から夏にかけて日本のカエルたちの多くは繁殖期を迎えます。
この季節のカエルのオスとメスの様子は、人間に置き換えれば〝プロポーズ大作戦〟。この戦いには同じ種の中でも、声も体も大きいオスが圧倒的に有利のようですが、体が小さくても魅力のあるオスにチャンスが巡ってくることもあります。見た目が派手で他の仲間と違うと天敵に狙われやすいのですが、それでも生き残ってきたすばしっこさがメスに将来性を期待されて「モテる」場合もあるようです。
後者のようなオスは両生類の研究者の間で「スニーカーオス」と呼ばれることがあります。
童話では、ゴム靴を履いたカン蛙が、お嬢さん蛙の前で、すっすっと歩いただけでおむこさんに選ばれました。ただし、その後他の2ひきの嫉妬によってさんざんな目に遭うことになるのですが……。
動物寓話として読める童話ですが、その表現にはカエルが擬人化されているように見えて、自然のリアリティを厳しく見つめる作者の視線があり、「ゴム靴オス」に身近な水辺の「スニーカーオス」を見ていたのではないかと思えました。
<関連サイト>
「100年カエル館」 http://kaeru-kan.com
「カエ~ル大学」http://kaeru-kan.com/kayale-u
カエル大学通信 www.mag2.com/m/0001378531.html
※ブログ「高山ビッキBlog」http://kaeru-kan.cocolog-nifty.com/vikkiも配信中です。
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