« カエル白書Vol.3■絵本の中に“生息する”カエルたち/民話を基にしたカエルの絵本 | トップページ | [カエル白書Vol.3」■日本両生類研究会の20周年記念誌『両生類に魅せられて』の紹介 »

2020年5月 2日 (土)

[カエル白書Vol.3」■2019年開催「100年カエル館のときめくカエルアート図鑑」展報告

Dm100_20190728130001

 100年カエル館は2019年9月18日(水)から10月27日(日)まで福島県立博物館(福島県会津若松市)で「100年カエル館のときめくカエルアート図鑑」展を開催しました。ここではそのときの展示風景の画像と展示の説明パネルを併せて紹介いたします。Web上での展覧会としてお楽しみいただけましたら幸いです。

<「100年カエル館のときめくカエルアート図鑑」展>

Photo_20200502132101

福島県立博物館テーマ展「100年カエル館のときめくカエルアート図鑑」展開催にあたって

 本日はご来館いただきましてありがとうございます。

本展は、2011年、2016年に続き福島県立博物館との共催によるテーマ展です。

 今回は昨年100年カエル館に寄贈され、愛知県碧南市から喜多方市に引っ越して来た、カエルが好きでカエルの絵をたくさん描いた画家、故柴田まさる氏(1944-2015)の作品を紹介いたします。

 亡くなるまで43年間にわたって描いたその作品のほとんどがカエルを表現したもので、約80点の作品がカエルグッズやカエル関連の書籍等の収集品とともに会津にやってきました。

 職業画家ではありませんでしたが、一人の画家でカエルをテーマにこれほど多くの絵を遺した人は珍しいのではないでしょうか。

 100年カエル館では「カエルアート座標軸」を使用したオリジナルの分類方法により、たくさんの作品から柴田氏がカエルをどのように見つめ、捉え、創作上で進化させてきたかを、美術のジャンルに照らし合わせながら類推いたしました。

 本展におきましても100年カエル館企画制作による「カエルアート座標軸」で柴田まさる作品の全貌をご覧いただき、カエルアートの分類ごとに特徴が表れた作品をご鑑賞いただきたいと思います。

 柴田まさるのカエル愛から生まれた作品とともにカエルアートの世界の広がりを感じていただければ幸いに存じます。

2019年秋                                                            主催 100年カエル館

■「カエルアート座標軸」について

Photo_20200502133901

20_20200502133501

 100年カエル館&カエ~ル大学では、2018年に故柴田まさる氏ご遺族からご寄贈いただいたカエルの絵を、「カエルアート座標軸」を作成して分類しました。

 マーケティング調査のポジショニングなどのために用いられる方法ですが、ひとりのカエル好きの画家がどのような感覚やスタイル、時代背景をもってカエルアートを描き続けたかを類推し、分類しながらその全貌を明らかにしていく作業はとても楽しいものでした。

 「カエルアート座標軸」では、X軸に「リアルライフ(=実在性、生命感)」と、逆の方向に「パーソナライズ(個人的、擬人化)」を置き、カエルの表現に込めた意味の方向性を示しました。Y軸では、その表現が一見してカエル的か人間的かの振れ幅で分けています。その2軸の交差から生まれる4つの象限に浮かび上がるジャンルを「花鳥画」「文人画」「ポップアート」「戯画」と分析し、柴田作品を位置づけてみました。

 本展ではその分類ごとに柴田作品を展示いたしました。ひとりの作家の作品に込められたカエルアートの多様性をお楽しみください。

■20世紀を象徴するカエルのポップアート

Photo_20200502134501Photo_20200502134801

20世紀を象徴するカエルのポップアート

 20世紀前半にフランス・パリを中心に活躍した画家で、日本人に今も人気の高いたとえばモネ、ピカソ、フジタ(藤田嗣治)。彼らの作品にはカエルに因んだ作品もあります。そして、20世紀後半に入り、アートシーンの中心がアメリカ・ニューヨークに移ると、ポップアートが流行します。その旗手と目されたアーティストがアンディ・ウォーホル。その作品にはアカメアマガエルを描いた作品があり、リアルなカエルの顔のつくりを線画で浮き立たせています。ウォーホルにとって、カエルはそのままポップアートだったのでしょうか。

 ポップアートは20世紀後半の消費社会を先取りした表現であり、その影響は当時単身NYに乗り込んだ篠原有司男をはじめ日本人アーティストにも及ぶなか、若き日の柴田まさるも何らかの刺激を受けていたといえるかもしれません。ミニマルに抽象化した(=必要以上の装飾や説明を削ぎ落とした)カエルの表現やメッセージを伝えるメディア性が感じられるカエル作品をここでは柴田のカエルのポップアートと捉えてみました。

[柴田さんのマルメタピオカガエル] 

 南米に分布するマルメタピオカガエルは柴田作品にも何点か描かれているように、両目がくっつき、口が異様に大きいカエルです。日本では見られないいわば“おもかわいい”顔のカエルですが、柴田はこのカエルにかなり創作意欲をかき立てられていたのではないかと想像します。背中を描いても顔を含めたユニークな体の構図全体を表現することができ、リアルに描くこともあれば、ポップに昇華させて表現することもありました。

■江戸絵画がルーツかカエルの文人画

Photo_20200502140401

江戸絵画がルーツかカエルの文人画

 柴田まさるの文人画のカエルの大きな特徴は、カエルを正面から見て描いた画面いっぱいの顔にあります。柴田はカエルの顔をたくさん描いていますが、その中で“カエルっぽいのに人間っぽい個性が感じられるカエルの顔”をここでは「文人画」に括ってみました。

花鳥画同様、中国から移入し江戸中期以降盛んになった文人画。江戸時代には南画(南宋画に由来)とも呼ばれ、職業絵師のみならず武士や町人たちがその担い手になることも。また、動物に見立てた自画像も文人画として描かれました。江戸中期以降、蛙や蝦蟇(がま)を描いた作品がしばしば見られるのは文人画の流行と関連しているのかもしれません。

 たとえば、江戸中期の京都の絵師伊藤若(いとうじゃくちゅう)冲が描いた画巻「菜虫譜」には、終盤部に老いた風情のガマが登場します。そのそばには「七十七歳画」とあり、晩年の若冲本人と考えられています。同時代の大坂には、カエル好きだったことが文献に残る表具師で絵師の松本奉時(まつもとほうじ)がキャラクター性豊かなカエルを描き、その掛図は縁起物としても人気がありました。

■背中がいのちの花鳥画のカエル

Photo_20200502141201Photo_20200502141202

背中がいのちの花鳥画のカエル

 花鳥画は、広い意味では文字通り花(植物)や鳥(動物)を表現した絵画です。江戸時代以前に、唐絵(中国絵画)と大和絵が融合していくなかで描かれるようになったといわれています。盛んに描かれるようになったのは江戸中期以降。享保16年(1731)頃、日本に滞在して南蘋画(なんぴんが)と呼ばれる花鳥画を広めた中国の画人、沈南蘋(しんなんぴん)の影響が大きかったといわれます。この画人の花鳥画に、カエルも吉祥のシンボルとして描かれています。

 柴田は自然観察をしたり、図鑑を参照にしたりすることで、カエルをリアルに表現する作品にも取り組みました。背景の自然描写はありませんが、カエルの種名も記して生きもの本来の姿に忠実に描こうとした作品をここでは柴田まさるの「花鳥画」と考えました。特に後ろ姿にこそカエルらしさを感じたのか、晩年にも描いています。江戸後期の花鳥画、葛飾北斎の「蛙とゆきのした」や歌川広重の「山吹に蛙」のカエルが、背中に焦点が当たっていることに一脈通じている気がします。

■自然のリアリティから生まれた戯画のカエル

Photo_20200502142501 Photo_20200502142502

自然のリアリティから生まれた戯画のカエル

 若い頃に漫画家をめざしたこともある柴田は、冊子の挿絵として描いたコミカルなカエルの絵や戯画のジャンルで捉えられる作品も描いています。世代的には漫画家志望の若者の多くに絶大的な存在だった手塚治虫に憧れ、リスペクトするカエル作品も遺しています。

 カエルアート座標軸では「リアルライフ(=実在性)」と「ヒト型」から生じる象限で、「戯画」のカエルを捉えてみました。日本の漫画のルーツともいわれる「鳥獣戯画」の昔からカエルは擬人化して描かれることがありました。鳥獣戯画のカエルもトノサマガエルと種が特定できるように、人間っぽさとリアルさが同居して描かれています。柴田作品の戯画もそのベースには、天敵のヘビとの緊張関係や、天敵に見つからないように進化させた、たとえば木の葉やコケと化して姿を隠す忍者のような生態、生きている昆虫に目がないカエルの旺盛な“捕食欲”など、自然界におけるカエルの生命力に満ちた生活行動、必死に生きているからこそ生まれる愛らしさがあります。

■遊び心と自然信仰から生まれたカエルの仏画

Photo_20200502143101

遊び心と自然信仰から生まれたカエルの仏画

 柴田作品には仏画を描いたと考えられる絵がいくつかあります。カエルの顔をした菩薩像や如来像が描かれているのでカエルアート座標軸上では「ヒト型」で、オタマジャクシ(幼体)やカエル(成体)、またその変態のプロセスとともに表現していることで、「リアルライフ(=生命の大切さ)」を伝える「戯画」の領域に位置付けています。

 平安末期に生まれた「鳥獣戯画」にカエルが御本尊の姿で登場することを考えると、仏画と戯画の相性の良さが受け継がれているように感じられます。「鳥獣戯画」は京都栂尾山高山寺に由来する絵巻ですが、同寺にはまた開祖明恵上人(みょうえしょうにん)の肖像画「明恵上人樹上坐禅像」が伝わります。上人が松林の中で小鳥や栗鼠(リス)など小動物とともに描かれています。柴田作品でもいろいろな動物たちが見え隠れする森の中にカエルの如来像が現れた作品があり、明恵上人の姿を借りているようにも感じられます。

[カエルのおもちゃ絵]

 日本にはおもちゃ絵という表現の分野があり、江戸時代から子ども向けに描かれていたと考えられますが、大正から昭和にかけては失われゆく江戸期の郷土玩具へのノスタルジーから趣味人の間で流行しました。100年カエル館ではカエルグッズを描く“カエルのおもちゃ絵”を推奨しています。集めたカエルグッズを描きたくなるカエル好きは少なからずいるようで、柴田まさるもカエルの仏様のまわりにいろいろなカエルグッズを配したおもちゃ絵をはじめ数点描いています。

(高山ビッキ)

※「カエル白書」(A5版 モノクロ 68ページ)Vol.1とVol.2は1冊1000円(税込・送料込)で販売しております。100年カエル館HP http://kaeru-kan.com でお申し込みいただけます。

Vol.1内容/◎黙阿弥のひ孫、演劇研究家氏のコレクション展(福島県立博物館にて)報告 ◎明治生まれのカエルグッズコレクター、小澤一蛙のコレクションから見えてきたこと ◎自然とカエルの話題 ◎カエル文化的話題 ◎高山ビッキ連載カエルコラム 他

Vol.2内容/◎「カエルアートミュージアム~進化するカエルアート」展(京王プラザホテルロビーギャラリーにて)報告 ◎カエル先生、岩澤久彰コレクション展」から見えたこと ◎第20回記念両生類自然史フォーラム報告 ◎カエルグッズでめぐる世界の“カエル旅” 他

|

« カエル白書Vol.3■絵本の中に“生息する”カエルたち/民話を基にしたカエルの絵本 | トップページ | [カエル白書Vol.3」■日本両生類研究会の20周年記念誌『両生類に魅せられて』の紹介 »

カエル白書」カテゴリの記事