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2020年5月 4日 (月)

「カエル白書Vol.3」■自然とカエルに関する動向特別寄稿

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「カエル白書」では毎号、野外調査や生物学の研究でカエルと身近に接している研究者の方々からご寄稿をいただいています。Vol.3では2019年に開催された第21回両生類自然史フォーラムの大会委員長を務められた佐藤直樹さん、東日本大震災後の福島県のカエルも見つめている、アクアマリンいなわしろカワセミ水族館の平澤桂さん、カエルの海外調査の経験が豊富な、鳥羽水族館の三谷伸也さんにご執筆いただきました。

■第21回両生類自然史フォーラムを終えて

佐藤直樹(上越科学館・大会委員長)

 201976日、7(土・日)に第21回両生類自然史フォーラムを上越科学館で開催しました。

 開催期間は2日間でしたが遠路23名の会員の方々と一般聴講者の方々がお越しになりました。

 開催初日は当館の1階特別展示室を会場に行いました。特別講演として「上越・妙高地域における両生類の新たな知見と教育普及の現状と課題」と題し、発表をさせて頂きました。2010年から現在までに得られた知見や両生類の教育普及の観点からイベントなどを通して得られた内容や課題を発表しました。特別講演後、会員から様々な質疑がありました。

 一般講演では、「日本産止水産卵性Hynobius14種の孵化直後幼生の形態比較」、「新潟県金塚地区におけるトノサマガエルの個体数の変化」、「ヒダサンショウウオの産卵行動について」、「渓流におけるヒキガエル類の雑種形成の時代的背景」、「落とし穴法で確かめられたエゾサンショウウオの活動状況」、「多様な環境に生息する無尾両生類腎臓の比較形態行動学的観察」の6題が発表されました。いずれも興味深い内容であり、活発な質疑が行われました。

 一般公演に入る前、1階第2会議室に移動し、フォーラム参加者で記念撮影を行いました。総会終了後、割烹から松屋で懇親会を行い、参加した18名と美味しい料理と話で盛り上がりました。

 翌日、午前10時30分よりリージョンプラザ上越に集合後、春日山城跡公園に向かいました。以前、高橋会長が調査でお越しになった際に観察した井戸を7名のエクスカーション参加者で観察した。その際に、頼んでいたわけではないが、急に現れたボランティアガイドの方が説明をはじめ予期せぬ偶然であったが、一同城跡や井戸についての話が聞けて大変良かったです。

 最後になりましたが、不慣れで色々と参加者、事務局にご心配をおかけしたが、大会が無事に終了でき安堵し、高橋 久会長、熊倉雅彦氏、野村卓之氏のお力添え無くしてはあり得ませんでした。その他にも当日お手伝いを頂いた皆様に心から深謝いたします。

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 エクスカーションで訪れた春日山城址公園には、こんなコミカルな蛙の石像がありました。

上越科学館https://jscience.jp/

 

■失われていく水辺

平澤 桂(アクアマリンいなわしろカワセミ水族館)

 福島県は、北海道、岩手県に次ぐ国内3番目の広さを有しています。大きくは太平洋側から阿武隈高地、奥羽山脈、越後山脈といった山々に隔てられた3つの地域(浜通り、中通り、会津地方)に分けられています。これらは海岸線沿いの平野部、丘陵地の里山環境、亜高山帯といった多様な自然環境で成り立っています。そこには水田、河川、湖沼群、湿地、高層湿原などが点在し、19種もの両生類が生息しています。

 そのうち12種のカエル(アズマヒキガエル、ニホンアマガエル、タゴガエル、ニホンアカガエル、ヤマアカガエル、ウシガエル、ツチガエル、トウキョウダルマガエル、トノサマガエル、シュレーゲルアオガエル、モリアオガエル、カジカガエル)が確認されています。

 県内で生物調査をしていると、カエルたちの存在は必ずといっていいほど目にします。そのような調査では新たな発見や、変化を感じることがあります。顕著に感じたのは、東日本大震災から2年後の2013年春からの3年間のことでした。当時、福島第一原子力発電所から直線距離で約10Kmにある富岡町は、避難指示解除準備区域となり日中だけ立ち入り許可が出たため、すぐに里山の変化について調査をはじめました。調査した2Km範囲の中では、水田には水がなく、荒地化が進み、2か所だけ堰の壊れた水田に水が侵入しているところがありました。そこには水辺を失ったニホンアカガエル、ヤマアカガエルの多くの卵塊が限られた水面にひしめき合っていました。

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アカガエル類の卵塊

 翌春、同所を訪れると、水があった水田でも遷移が進み、陸地化が目立ち、僅かに残った水辺には、アカガエル類の卵塊が前年に比べ極端に減少している光景がありました。しかも周辺を見渡すと、除染による表土入れ替えの準備が進められていました。2015年春、重い足取りで、この地を訪れた時には農地復旧のために除染での表土入れ替えが終わり、崩れた堰も修復され、田んぼには赤い土が盛られ、カエルたちの気配はそこから消えていました。

 あれから5年が経とうとします。その変化に心がついていけるか自信がなかったので足を運べないままでいましたが、この執筆を気に一度訪れてみようと思います。

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震災直後に福島県の浜通りで撮影したシュレーゲルアオガエル

アクアマリンいなわしろカワセミ水族館 https://www.aquamarine.or.jp/kawasemi/

■パラオのカエル

三谷伸也(鳥羽水族館)

私の勤務している鳥羽水族館はパラオ水族館(パラオ共和国)と姉妹館協定を結んでいます。その関係で2017年、2019年とパラオオウムガイ(固有種)の調査、捕獲、輸送でパラオへ行く機会に恵まれました。パラオへ出張と言うと皆さん口をそろえて「いいなあ」とおっしゃいます。しかし、リゾートへ遊びに行くのとは違い、朝から海に出て昼過ぎまでトラップを設置、器材のセッテイング、輸送のための資材を探したり、許可申請に必要な書類を揃えるなど結構仕事があります。リゾート気分に浸るほどの暇はないのです。

 さて、この国には2種類のカエルしかいません。うち1種類は外来種のオオヒキガエルです。このカエルは海外調査に行くと必ずと言って良いほど見かけます。残りは固有種のパラオガエルで、一見、日本のタゴガエルを少し大きくしたような感じの地味なカエルです。ハナトガリガエル科に分類され、繁殖様式は卵からカエルが生まれてくる直接発生とされています。パラオは一般的に6月~10月くらいまでは雨期とされており、その時期には至る所で「ケケケケ」というせわしない鳴き声を聞くことができます。多分、メイティングコールでしょう。オスは体長3cmほど、メスは倍近くになり56cmくらいになります。

 「カエルあるある」なのですが、鳴き声は聞こえても姿を見つけることはなかなか難しいものです。そのためカエルを捕まえる力量は個人差が出てしまい、今回も数人がかりで5匹捕まえている間に私は一人で10匹捕まえてしまいました。やはり長年カエルと付き合っていると彼らの動きや居そうな場所が分かるようになってくるのだと実感します。現地の方は素手でカエルを触るのを非常に嫌がります。毒があると思っているからです。毒はありますが、強毒ではありません。また、パラオから生物を持ち出すにはすべて許可証が必要となります。もちろん今回も許可を取り、無事日本へ連れてきました。このカエルは絶滅危惧種ではないのですが、自身で捕獲した生物はどのようなものでも愛着があります。しっかりと飼育し、繁殖につなげていきたいと思います。

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パラオガエル

鳥羽水族館 https://www.aquarium.co.jp/

 

※「カエル白書」(A5版 モノクロ 68ページ)Vol.1とVol.2は1冊1000円(税込・送料込)で販売しております。100年カエル館HP http://kaeru-kan.com でお申し込みいただけます。

Vol.1内容/◎黙阿弥のひ孫、演劇研究家氏のコレクション展(福島県立博物館にて)報告 ◎明治生まれのカエルグッズコレクター、小澤一蛙のコレクションから見えてきたこと ◎自然とカエルの話題 ◎カエル文化的話題 ◎高山ビッキ連載カエルコラム 他

Vol.2内容/◎「カエルアートミュージアム~進化するカエルアート」展(京王プラザホテルロビーギャラリーにて)報告 ◎カエル先生、岩澤久彰コレクション展」から見えたこと ◎第20回記念両生類自然史フォーラム報告 ◎カエルグッズでめぐる世界の“カエル旅” 他                                      

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