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2020年5月 1日 (金)

カエル白書Vol.3■絵本の中に“生息する”カエルたち/民話を基にしたカエルの絵本

絵本の中に“生息する”カエルたち

<民話を基にしたカエルの絵本>

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 カエルを通して自然のことを知るきっかけになる絵本もあれば、人間の長い営みの中でカエルを通して教訓などを伝える民話を基にした絵本もあり、カエル大学2019の第2回講座でも何冊か紹介しました。

 民話をモチーフにした絵本を紹介するためには現代に伝わっている民話の種類を知る必要があります。同講座では、カエルが登場する民話について長く研究されてきた藤沢浩憲さんがかえる友の会から発行された『日本蛙昔話30選』を参考にさせていただきました。

<カエルの昔話について>

 『日本蛙昔話30選』(以下『30選』)で著者の藤沢氏は、明治大正時代から昭和5060年代までに採集された日本の昔話約6万話が収録されている『日本昔話通観』(稲田浩二・小澤俊夫責任編集/以下、『通観』)からカエルが登場する話をひとつひとつピックアップしています。

 その結果、カエルの昔話は約1800話見つかり、昔話研究で使われる「話型」により分類できるものが、170種類ほど確認できたそうです。カエル大学2019の第2回講座ではその分類を参考に100年カエル館所蔵の絵本を何点か紹介しました。

 原典となる民話を充分に理解していない点が多々あるかもしれませんがなじみやすい絵本から始めて、カエルが民話の世界への扉を開いてくれるような試みになれば幸いです。 

■「人とカエルの結婚」

 「人と蛙の結婚」(=異類婚姻譚)を扱った日本の民話は『通観』に約120話あります(『30選』)。

 人とカエルが結婚するという設定は不思議な気がするのですが、グリム兄弟が集めたフランスの民話にも、私たち日本人にも親しまれている『カエルの王様』の基になる話があり、カエル(実際は人間の王子)がお姫様に求婚することを考えると、「人と蛙の結婚」が洋の東西を問わず民俗学的に何かを象徴するものであると想像できます。

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中国民話『青がえるの騎手』 斎藤公子(編集)T.チエルシノヴァ(絵)創風社

 中国民話においても「人と蛙の結婚」は重要な意味をもつようです。以前テレビのドキュメンタリー番組で、中国の少数民族のイ族は人間と結婚する前に蛙や木と結婚する風習があることを紹介していました。講座で紹介した『青がえるの騎手』(編集・斎藤公子 絵・T.チェルシノヴァ 創風社刊)では、子どものなかった老夫婦に待望の子どもが生まれたのですが、その子はカエルでした。

 人間の言葉を話すそのカエルが、ある時、お嫁さんをもらってくると言って長者の家を訪ねます。そして、長者の娘を自分の嫁にほしいと申し出る。当然長者は拒否しますが、カエルは超自然的な現象を起こすことで、長女と次女には断られたものの最終的に三女をお嫁さんとして連れて帰ることができました。

 講座では日本の民話を基にした絵本『かえるむすめ』(古田足日・文 久米宏一・絵)も紹介しました。この絵本では、おじいさんがヘビに呑み込まれそうになっていたカエルを助けるために、自分の娘を嫁にやるとヘビに約束してしまいます。約束通りおじいさんの家に娘を嫁にもらいにやってきたヘビ。3人いる娘のうち長女と次女はイヤだと言ったのですが三女が同意し若者の姿をしたヘビについて行きます(そして三女はそのヘビを退治することに成功します。)

■「うばっ皮」もしくは「かえるの恩返し」 

 中国の『青がえるの騎手』も日本の『かえるむすめ』にも続きがあり、これがいわば中国、日本の各地に伝えられる民話「うばっ皮」もしくは「かえるの恩返し」基にした物語の展開になっています。

 『青がえるの騎手』の場合、結婚したカエルと娘は老夫婦と幸せに暮らしていたのですが、カエルは本当は「西の果てにある宮殿」の王子で、人間の姿で生きられる力をつけるまで「かえるの皮」をかぶっていなければなりませんでした。ところが、自分の力を試すために「青がえるの騎手」として姿を見せてしまったことで、妻が汚いかえるの皮を焼いてしまい……。

 『かえるむすめ』のカエルの皮は、カエルがヘビに襲われそうになったときに救い退治してくれたおじいさんとその娘への恩返しのために、娘がヘビを退治した後道中安全に帰れるようにと与えてくれた、かぶるとカエルのように見える「うばっ皮」でした。おかげで無事に町にたどり着き長者の家に雇われた娘ですが……、この後はシンデレラストーリーのような展開がありカエルのように見えた娘が長者の跡取り息子にみそめられて結婚する話になっています。

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『かじかびょうぶ』川崎大治(文)太田大八(絵)童心社

 「かえるの恩返し」としては、伊豆に伝わる話を児童文学作家の川崎大治が再話した『かじかびょうぶ』(文・川崎大治 絵・太田大八 童心社刊)があり、なまけものだった菊三郎のもとにやってきたカジカガエルが屏風の絵になり願いを叶えてくれた菊三郎に恩返しし、最後は菊三郎の魂とともに山に帰って行くという美しい話です。

■「餅争い(もちあらそい)」 

 藤沢さんはカエルが登場する民話に関する長年の調査から、「蛇婿入り」と「餅争い」という話型を日本の「蛙二大話」に位置付けています。

 「蛇婿入り」は先に紹介した絵本『かえるむすめ』の前半にも見られますが、これは世界的によく見られる話で、「餅争い」の方は日本固有の話だそうです(『自然と民話―蛙・柿・時鳥―』P.14

 講座では「餅争い」をベースにした絵本は、新潟県に伝わる話をもとにした『蟇と猿』(山田貢・文 太田大八・絵 文化出版局刊)と、山形県の昔話を再話した『さるとびっき』(武田正・再話 梶山俊夫 画)を紹介しました。

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『蟇と猿』山田貢(文)太田大八(絵)文化出版局

 どちらも1980年代初めに出版された絵本で、「餅争い」という話型は「通観」に332話あり(「30選」)、話の発端の部分の餅の調達のしかたで「1 餅を盗んで来る」「2 餅米を調達して餅つきをする」「3 米作りから始める」の3種類に分かれるようですが、この2冊はヒキガエルとサルで米作りから始めて餅を用意します。

 ただし毎日毎日農作業に出かけるのはヒキガエルで、サルは仮病を使ってはさぼってばかり。ところがそのサル、もち米ができてからは俄然やる気を出し、自分がリードして餅つきをすると、でき上がった餅を山の上からうすごと転がして早くうすにたどり着いた方が餅を全部食べられる「餅争い」をしようと言い出します。

 その結果、うすに到着したのはサルが早かったものの、転がっている途中、餅は全部うすからとび出して草木にひっかかり、食べることができたのは後から来たヒキガエルの方でした。最後はさすがの人のいいヒキガエルもサルに分けてあげる気にはならず……。

 この後、山形の昔話の再話では、あんまりしつこく餅がほしいというサルの顔とお尻に、ヒキガエルがあつい餅をぶつけたので、サルの顔やお尻は赤いのだという理由のオチになっています。

 両絵本が新潟と山形、米どころに伝わっている昔話をもとにしていることも納得できます。山形ではあてにしない物を手に入れることを「蛙、餅拾った」と言うそうです(「30選」)。

■蛙の失敗

 『日本蛙昔話30選』では、その他にもカエルが登場する昔話はいくつかの切り口に分けられています。

 その切り口のひとつに「蛙の失敗」があります。カエルはその体の特徴から人間をまねて同じようなことをするととんでもない失敗をしそうなイメージがあるのでしょう。特に目の位置のせいでもし人間のように2本足で立ち上がったとすると前方を向いたつもりが後方を見ることになる想像から、愚かさを風刺するような「京の蛙、大阪の蛙」といった昔話が生れています。

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『かえるのあまがさ』与田順一(文)那須良輔(画)童心社

 また、カエルは後ろ足で立つと後ろ向きになって前が見えないところから、むこうみずな人々の集まりは「蛙の行列」ということわざになっています。講座では、「蛙の行列」も見られる昭和52年初版の絵本『かえるのあまがさ』(文・与田順一 画・那須良輔 童心社刊)を紹介しました。与田準一(1905-1997)は福岡出身の詩人で、この絵本では「あまがさをさしたかえるのぎょうれつ」が童謡のように綴られています。

(高山ビッキ)

※「カエル白書」(A5版 モノクロ 68ページ)Vol.1とVol.2は1冊1000円(税込・送料込)で販売しております。100年カエル館HP http://kaeru-kan.com でお申し込みいただけます。

Vol.1内容/◎黙阿弥のひ孫、演劇研究家氏のコレクション展(福島県立博物館にて)報告 ◎明治生まれのカエルグッズコレクター、小澤一蛙のコレクションから見えてきたこと ◎自然とカエルの話題 ◎カエル文化的話題 ◎高山ビッキ連載カエルコラム 他

Vol.2内容/◎「カエルアートミュージアム~進化するカエルアート」展(京王プラザホテルロビーギャラリーにて)報告 ◎カエル先生、岩澤久彰コレクション展」から見えたこと ◎第20回記念両生類自然史フォーラム報告 ◎カエルグッズでめぐる世界の“カエル旅” 他

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