[カエル白書Vol.3」■かえるモノ語り歳時記2019年3月
<目借時俳句についてかんがえる>
高山ビッキ(100年カエル館副館長)
俳句で「蛙」は春の季語。
詩人の岸田衿子が書いた絵本『どうぶつはいくあそび』によれば、「むかし、にんげんに、はいくをおしえたのは、かえるであった。」
そう絵本の中で語るのは、そのかえるに“はいく”を教えた先祖をもつという“ふるかわうそはち”先生なので、マユツバに違いないのですが、俳句のルーツでもある和歌、その達人である平安時代の歌人紀貫之なら「あながち間違ってないよ」と言ってくれるかもしれません。その選による『古今和歌集』に書かれた「仮名序」に「花に鳴く鶯(うぐいす)、水に住むかはづの声を聞けば、生きとし生けるもの。いづれか歌をよまざりける」とあるからです。
人類は言語を獲得する前から地球上のさまざまなところでカエルの鳴き声を耳にしていたと思います。俳句につながる情感の表現をカエルから教えられたと想像することはできそうです。
その『古今和歌集』に収められた滑稽味(こっけいみ)のある和歌は「俳諧(はいかい)歌」と呼ばれ、室町時代にはそれをもっと気軽に楽しめるようにした「俳諧連歌」が生まれたといわれます。
その祖として名前を残すのが、山崎(やまざき)宗鑑(そうかん)。その俳諧に
手をついて歌申しあぐる蛙かな
があります。カエルが前あしを折り曲げてうずくまる様子を真正面から見て擬人化した、思わずくすりと笑える俳諧で、その姿は裃(かみしも)をつけて口上を述べるようなカエルの置物にも見られます。
そして、あの不朽の名作となった俳句
古池や蛙飛びこむ水の音
を詠んだのは江戸時代に現れた俳聖松尾芭蕉です。
日本ならではの詩歌の形式の進化の歴史において、カエルは、鳴き、何事かを言おうと身構え、ジャンプしたのです。
春眠暁を覚えずの候、春に眠くなるのは「蛙が人間の目を借りに来るからだ」と古くから歌に詠まれた言葉に「蛙(かわず)の目(め)借(かり)時(どき)」があります。この「めかり」は繁殖期にオスがメスを求めて鳴く様子や、アカガエルなどが産卵後に二度寝する様子などから生まれ、それが民話的に伝えられているともいわれます。
古(いにしえ)より、日本人は身近な自然の中にいるカエルを観察することで、文学的感性を育んできた、カエルは俳句の先生だったと言っても過言ではないかもしれません。
※「かえるモノ語り歳時記」は、福島県喜多方市のおもはん社発行のフリーペーパー「ほっと・ねっと」に100年カエル館の高山ビッキが連載しているエッセイ「かえるモノ語り―自然と文化をつなぐカエル」を歳時記として加筆修正して再掲載しています。
※「カエル白書」(A5版 モノクロ 68ページ)Vol.1とVol.2は1冊1000円(税込・送料込)で販売しております。100年カエル館HP http://kaeru-kan.com でお申し込みいただけます。
Vol.1内容/◎黙阿弥のひ孫、演劇研究家氏のコレクション展(福島県立博物館にて)報告 ◎明治生まれのカエルグッズコレクター、小澤一蛙のコレクションから見えてきたこと ◎自然とカエルの話題 ◎カエル文化的話題 ◎高山ビッキ連載カエルコラム 他
Vol.2内容/◎「カエルアートミュージアム~進化するカエルアート」展(京王プラザホテルロビーギャラリーにて)報告 ◎カエル先生、岩澤久彰コレクション展」から見えたこと ◎第20回記念両生類自然史フォーラム報告 ◎カエルグッズでめぐる世界の“カエル旅” 他
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