[カエル白書Vol.3」■かえるモノ語り歳時記2019年6月
<カエルで巡る六月の京都、東京>
高山ビッキ(100年カエル館副館長)
毎年、六月の初旬に仕事で京都を訪ねます。カエルを探す旅ではないけれど、何かカエルとの出会いがあると旅のサプライズのようで感激します。
京都という土地柄、神社仏閣の狛犬や蟇(かえる)股(また)にカエルの意匠が見られるのはもちろん、6月6日は「カエルの日」、六月の京都では、店舗のショーウインドーなどで愉快なポーズをとる〝カエルさん〟たちを見る楽しみもあります。
こんな意外な発見もありました。お香の老舗松栄堂が昨年オープンした「薫習館(くんじゅうかん)」で開催されていた「京都・ボストン姉妹都市締結60周年記念エミリ・ディキンスンの世界展」でのこと。19世紀のアメリカ東部、ボストンに近い町アマストで、人知れず詩作を続けた女性詩人を紹介する展示でした。
昨今、本国アメリカを中心に再評価され、映画化もされたエミリ・ディキンスン。この詩人に関連するグッズの展示コーナーもあり、そこで彼女の詩の一節とともにカエルが描かれたタグに目が留まりました。
その詩の一節とは「I’m nobody! Who are you?」直訳すれば「私は誰でもない。あなたは誰。」この言葉に始まる詩の中になぜかカエルが潜んでいました。そのカエルはエミリが共感するnobody(誰でもない人)ではなく、六月に沼地で盛んに自分の名を告げるSomebody(ひとかどの誰か)として登場します。
20世紀の日本には、「第百階級」であるカエルの視点で詩作をした福島県出身の詩人草野心平がいます。エミリも心平も共に自らをnobodyに位置づけながら、カエルの捉え方は背景となる国や時代の影響もあるのか、反転するほど違うことを改めて興味深く感じました。
五月には、ウエブサイト「東京お寺めぐり通信」(東京都仏教連合会サイト内)の取材のために、足立区の寺町を歩き回りました。竹ノ塚のあたりの路上にカエルの絵柄のマンホールやタイルをいくつか見かけました。
ここには「やせ蛙負けるな一茶是にあり」の句で知られる江戸後期の俳人小林一茶ゆかりのお寺炎天寺があります。「足立」の地名は「蛙(あ)多地(たち)」から来ているという説もあり、縄文期より湿地帯に生活の場をつくってきたこの地には、さぞカエルがたくさんいたことでしょう。
国を超え、時代を超え、詩人の心に何かをもたらしてきたカエル。会津、東京、そして京都。そのつながりの歴史を感じながら巡る〝カエル旅〟には、いつも思いがけない発見があります。
※「カエル白書」(A5版 モノクロ 68ページ)Vol.1とVol.2は1冊1000円(税込・送料込)で販売しております。100年カエル館HP http://kaeru-kan.com でお申し込みいただけます。
Vol.1内容/◎黙阿弥のひ孫、演劇研究家氏のコレクション展(福島県立博物館にて)報告 ◎明治生まれのカエルグッズコレクター、小澤一蛙のコレクションから見えてきたこと ◎自然とカエルの話題 ◎カエル文化的話題 ◎高山ビッキ連載カエルコラム 他
Vol.2内容/◎「カエルアートミュージアム~進化するカエルアート」展(京王プラザホテルロビーギャラリーにて)報告 ◎カエル先生、岩澤久彰コレクション展」から見えたこと ◎第20回記念両生類自然史フォーラム報告 ◎カエルグッズでめぐる世界の“カエル旅” 他
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