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2020年5月

2020年5月28日 (木)

かえるモノ語りー自然と文化をつなぐカエル㊶■「ほっと・ねっと」2020年5月掲載エッセイ

 100年カエル館のある福島県喜多方市では月刊のフリーペーパー「ほっと・ねっと」(おもはん社発行)が発行されています。高山ビッキは2017年より同紙に「かえるモノ語りー自然と文化をつなぐカエル」というテーマで連載させていただいており、2017年から2019年までの連載分は「カエル白書」(2017年2018年分は紙媒体、2019年分は同ブログ)にも掲載しています。

 そして最新号からは「ほっと・ねっと」発行後にこの「コトバデフリカエル」でも配信いたしますのでリアルタイムでお読みいただければ幸いです。

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 校歌を通してカエ~ル大学にも響く希望のエール>

 高山ビッキ(100年カエル館副館長)

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 「桜ほほえむ~」で始まる、母校喜多方第二中学校の校歌。

私にとってはなつかしい歌ですが、在校生は今も希望にみちて歌っていることでしょう。特に今年はこの校歌「希望にみちて」をうれしく誇らしく歌えるのではないでしょうか。

作詞 野村俊夫 

作曲 小関裕而

現在放送中のNHK連続テレビ小説「エール」の主人公のモデルとなった作曲家の小関裕而と、その幼なじみで作詞家として活躍した野村俊夫のコンビによる校歌です。

私がこの校歌を歌っていた頃、テレビの音楽番組で古関先生のやさしそうなお姿を目にすることがありました。が、福島県出身と知っていても、生涯5000曲も遺した、その偉大さを深くは理解していませんでした。

野村先生に至っては、当時すでに他界されていたので、実は今回の「エール」をきっかけに改めてその偉業にふれ、ドラマでは俳優の窪田正孝さんと中村蒼さん演じるお二人が作られたのかと感慨も新たにしたのです。

喜多方二中の創設が昭和33年、この校歌の制定はその二年後の昭和35年。実は筆者とほぼ同年齢であることも、今回初めて気づきました。

昭和33年は、東京タワーが完成した年でもあります。その翌年、野村先生は「東京タワー」(作曲・船村徹 歌・美空ひばり)を作詞しています。

私たちの中学時代は修学旅行で昇った東京タワー。そして、その創立55周年の2013年に、100年カエル館を運営する私たちケーアンドケーは「東京タワーエッセイコンテスト」の事務局業務を担当しました。その時、私たちがなぜ東京タワーにかかわる仕事をしているのかその縁を不思議に思いました。

東京タワーの展望台からは皇居の敷地内に会津藩邸跡が見えます。会津出身者としては、戊辰150年を前に会津藩士の皆さんが江戸のその後を一望したかったのだろうか、などとも。

そして今回、東京タワーを歌にした野村先生との縁も感じました。

古関先生は、昭和36年に東宝の怪獣映画「モスラ」のテーマ曲「モスラの歌」を作曲。そして昭和39年(1964年)、東京オリンピックのために「オリンピック・マーチ」を作曲したことが今回の朝ドラ「エール」につながっています。

カエ~ル大学を運営する私たちももう一度、母校の校歌を希望のエールとして歌い継ぎたいと思います。

 

<関連サイト>

「100年カエル館」 http://kaeru-kan.com

「カエ~ル大学」http://kaeru-kan.com/kayale-u

カエル大学通信 www.mag2.com/m/0001378531.html

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2020年5月27日 (水)

[カエル白書Vol.3」■カエルに見るもうひとつのジャポニスム

<カエルに見るもうひとつのジャポニスム>

セブン―イレブン記念財団『みどりの風』2019春号 「特集春の使者 カエル」掲載

高山ビッキ(100年カエル館副館長)

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 ■幼体から成体へ、カエルのように

 生れ育った福島県喜多方市の家の庭は阿賀川の下流の樒(しきみ)川に面していて、遊び場でもあった川原では、春になると雪どけ水の流れの煌めきに風はまだ冷たいものの、ネコヤナギと戯れては菜の花の黄色いそよぎにその到来を感じました。

 当然、夏の夜はカエルの合唱がかまびすしく聞こえましたが、カエルの〝姿形〟は家の中に。座椅子に座る祖父の背後にあり、祖父がひとつひとつ取り出しては磨く土や木や石などで造られたモノがわが家にとってのカエル。置物や小物のカエルの蒐集は祖父の趣味に始まりました。

 それが、現在100年カエル館を運営する私たち姉妹のいわば〝オタマジャクシ〟時代。成体になって水辺から上陸するカエルのように、故郷を離れてみると、活動範囲を広げれば広げるほどさまざまな〝カエル〟との出会いに恵まれました。

 

■カエル好きの仲間たちとの出会い

 東京で暮らすようになり、身近にカエルの鳴き声は聞こえなくなりましたが、買い物に出かければカエルの形をしたものは雑貨やアクセサリーから工芸品まで次から次へと。折しもバブル景気の頃、コレクションが充実していきました。

 同じようにカエルが好きで、カエルグッズを集めている人が意外に多いことを知ったのもその頃です。

 今では毎年「カエル展」や「カエルまつり」を開催する場所が全国にありますが、カエルファンの集いを最も早く始めたのは自らもカエル好きだった幕末・明治に活躍した絵師河鍋暁斎を記念する河鍋暁斎記念美術館(埼玉県蕨市)の運営による「かえる友の会」です。1987年の発足で、毎年、会員の蒐集品を紹介する「かえる展」とグッズなどの販売を中心とした「かえる秋まつり」を開催しています。

 一方でそうした動きに反比例するようにこの頃から、世界的な自然環境の悪化により、カエルの個体数は減少が懸念されるようになります。そして、そのことが私も含め生きもののカエルにそれほど関心がなかったカエルファンの視野をも自然環境まで広げることに繋がりました。

 

■100年カエル館とカエ~ル大学

 カエルが繁殖期に自分が産まれた水辺に帰る、帰巣本能に通じるものでしょうか、故郷を離れて長くなった姉と私は、2004年に喜多方の実家を活用してそれまで蒐集してきたモノのカエルを展示紹介する100年カエル館を立ち上げました。祖父同様、カエルに関する蒐集に情熱を注いだ両親がまだ健在だった頃。父が他界した後休館した時期がありましたが、2016年に再開。

 同時に、それまでWEBサイト上に開設していたカエ~ル大学をスタートさせました。学生(会員)の方は、カエルの御守も入手できるカエル縁(ゆかり)の社寺をはじめ全国の〝カエルスポット〟を巡る人、カエルが描かれた美術作品に興味のある人、カエルの観察をしている人など、カエルへの係わり方も多岐にわたっていることに驚かされます。 

 それにしてもなぜ今カエルやカエルの造形物に惹かれる人が多いのでしょうか。

 

■身近なのに知らないカエルのこと

 現在、日本のカエルは48種類(亜種を含む)が記載されていますが、南北に長い日本列島では、北海道であれば7種類、100年カエル館のある福島県では12種類、関東各県で1214種類、そして、沖縄県には約21種類生息しています。

 全国で平均的に知られているカエル(本州に分布するカエルとします)は、小さくて庭などで見つけるとついつい手にのせたくなるアマガエル、信楽焼など陶製のガマガエルのモデルでもあるヒキガエル、「鳥獣戯画」にも登場するトノサマガエル、水辺の樹の上で泡に包まれた卵から産まれるモリアオガエル、渓流の石の間で綺麗な鳴き声を響かせるカジカガエルなどが挙げられるでしょう。

 では、シュレーゲルアオガエルはご存じでしょうか。カエルグッズに負けない愛くるしい表情と、日本のカエルとは思えない名前。しかしれっきとした日本の固有種です。

 このカエルに生物学におけるジャポニスムを見ることがあります。

 

■カエルともうひとつのジャポニスム

 本来ジャポニスムとは、19世紀末に欧米で起こった美術ムーブメントで、幕末から明治にかけて日本から流出した江戸の絵師たちによるすぐれた絵画表現が当時の欧米のアーティストの作風に影響を与えました。

 最近、このジャポニスムにスポットが当てられ、日欧両方で大きな展覧会も開催されて話題になりました。

 その、海を渡った作品の数々を描いた絵師の代表に葛飾北斎が挙げられますが、他に伊藤若冲、歌川国芳、そして河鍋暁斎など数々います。影響を受けた欧米の画家には、ゴッホ、ドガ、モネ、工芸家ではエミール・ガレ他多数挙げられるでしょう。

 そのような江戸絵画には、北斎の「北斎漫画」に描かれたカエルや「朝顔に蛙」をはじめ、カエルが描かれた作品を見つけることは難しくありません。一方で、欧米のジャポニスムの作家の絵画や工芸品もしばしばカエルをモチーフに表現されています。

 日常的に使う調度品や食器にもカエルの意匠が見られることで、それまでグロテスクとさえ見ていたカエルに対する、欧米人の自然観を変えたという捉え方もされています。

 そして、当時、他にも海外に流出したものがありました。ドイツの博物学者シーボルト(1796―1866)が収集した動植物の標本です。その標本や資料をもとに研究執筆された本が『Fauna Japonica(日本動物誌)』で、その執筆者の一人に、シュレーゲルアオガエルにその名を残す、ドイツ人でオランダのライデン博物館の二代目館長を務めたヘルマン・シュレーゲル(1804―1884)がいます。

 48種類の日本のカエルの中にシュレーゲルアオガエル以外にも、外国人の名前のカエルがいるのは、日本の両生類に関する研究において、幕末・明治以降、最初にカエルに興味をもったのは欧米人だった名残でしょう。

 江戸時代以前にさかのぼれば、日本には千年ほど前に書かれた分類の和辞書『和名抄』に、動物を分類した巻があり、蛙は蛇や昆虫などとともに蟲豸類(ちゅうちるい)に入れられています。カエルが表現された遺物や絵画も縄文土器から江戸絵画まであり、カエルが日本の文化の中に豊かに息づいていたことを感じます。

 ところが、近代化とともに〝冬眠〟したかのように、日本においてあまり意識されなくなったカエル。再びカエルに興味をもつ人が増えた21世紀の今、人なつこい表情のシュレーゲルアオガエルは、その〝もうひとつのジャポニスム〟について語っているように思えます。

 

※「カエル白書」(A5版 モノクロ 68ページ)Vol.1とVol.2は1冊1000円(税込・送料込)で販売しております。100年カエル館HP http://kaeru-kan.com でお申し込みいただけます。

Vol.1内容/◎黙阿弥のひ孫、演劇研究家氏のコレクション展(福島県立博物館にて)報告 ◎明治生まれのカエルグッズコレクター、小澤一蛙のコレクションから見えてきたこと ◎自然とカエルの話題 ◎カエル文化的話題 ◎高山ビッキ連載カエルコラム 他

Vol.2内容/◎「カエルアートミュージアム~進化するカエルアート」展(京王プラザホテルロビーギャラリーにて)報告 ◎カエル先生、岩澤久彰コレクション展」から見えたこと ◎第20回記念両生類自然史フォーラム報告 ◎カエルグッズでめぐる世界の“カエル旅” 他

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2020年5月22日 (金)

[カエル白書Vol.3」■かえるモノ語り歳時記2019年12月

<降り積る雪の下からカエルのジングルベル>

高山ビッキ(100年カエル館副館長)

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 コロコロ、キュッキュッ、ピーピーピー……。そのカラダを揺らしたり、カラダの一部を押したりすると音の出るカエルがいろいろあります。特に20世紀後半以降に作られたぬいぐるみやビニール製のカエルグッズに多いのですが、古くから作られた日本の郷土玩具にも、土鈴をはじめ鳴物のカエルがあります。海外に目を向けても、ベトナム発祥といわれるギロのカエル(背中の部分を棒でこすると音が出る)やペルーの土笛のカエルなど、カエルが“鳴く動物”であることから発想されたと思われるカエルグッズは古今東西に。

 カエルは冬眠する生きもので、冬期に最低気温が5度を下回りホワイトクリスマスになるような地域では、落葉や倒木の下などでじっと動かず冬眠します。クリスマスとは縁がなさそうですね。ところが、なぜかカエルグッズには写真のような、クリスマスには欠かせない存在、サンタクロース姿のカエルが珍しくありません。しかもこの“カエルサンタ”、歌を歌います。おなかの辺りを押すと、「ジングルベール、ジングルベール」とビング・クロスビーばりの歌声を聞かせる“音の出るカエル”なのです。

 クリスマスに雪の積った地面の下に耳を傾ければカエルのクリスマスソングが聞こえてくるかもしれない。そんなロマンチックなイメージを抱かせてくれるのもカエルの魅力なのでしょう。

 カエルが登場する絵本にも、クリスマスシーンが描かれることがあります。100年カエル館で所蔵している絵本に『サンタさんだよ かえるくん』(塩田守男・絵、さくらともこ・文 PHP研究所)があり、子ガエルたちの冬眠とサンタクロースとの出会いが愛らしい絵とストーリーで表現されています。

 絵本を読む子どもたちに春夏秋冬の自然や暮らしの変化を伝えるのにカエルは最も適した生きものと言っていいかもしれません。だから、冬眠中も絵本の中ではなかなか眠っていられない⁈特に冬眠に入って間もないクリスマスの頃はサンタさんと同様に大忙しなのかも。

 今では宗教を超えて世界に広がった冬の風物詩と言えるクリスマスは、キリストの降誕祭を祝う宗教行事です。そしてカエルは、キリスト教的には好意的なシボルとは限らないのですが「冬に姿を消しふたたび春に出現する姿はキリストの復活になぞらえられる」(荒俣宏著『世界大博物図鑑』より)こともあります。

 雪の下でジングルベルを歌っているかもしれない冬眠中のカエルは、ただひたすらに春の訪れを夢見ているのでしょう。

※「カエル白書」(A5版 モノクロ 68ページ)Vol.1とVol.2は1冊1000円(税込・送料込)で販売しております。100年カエル館HP http://kaeru-kan.com でお申し込みいただけます。

Vol.1内容/◎黙阿弥のひ孫、演劇研究家氏のコレクション展(福島県立博物館にて)報告 ◎明治生まれのカエルグッズコレクター、小澤一蛙のコレクションから見えてきたこと ◎自然とカエルの話題 ◎カエル文化的話題 ◎高山ビッキ連載カエルコラム 他

Vol.2内容/◎「カエルアートミュージアム~進化するカエルアート」展(京王プラザホテルロビーギャラリーにて)報告 ◎カエル先生、岩澤久彰コレクション展」から見えたこと ◎第20回記念両生類自然史フォーラム報告 ◎カエルグッズでめぐる世界の“カエル旅” 他

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2020年5月21日 (木)

[カエル白書Vol.3」■かえるモノ語り歳時記2019年11月

 <「アート・ぶらり~」ファッションで、装う楽しさがヨミガエル>

 高山ビッキ(100年カエル館副館長)

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 台風の影響を心配しながらの開催となった今年(2019年)の「蔵のまちアート・ぶらり~」(福島県喜多方市)。100年カエル館は参加して3年目になりました。

 19世紀末から20世紀初めにイギリスを中心に起こったムーブメントにアーツ&クラフツ運動がありますが、21世紀のここ喜多方で行われるこのイベントは、その再燃のようにも思えて毎回心ときめきます。

 「アート・ぶらり~」では、第19回となった2019年の今年も初日に各出店者が顔を合わせるオープニングレセプションがあり、会長挨拶に立つ前後喜平氏によれば「このイベントでのアートの捉え方は自由。自分自身の生き方がアートと考える人も」。

 出店者の方々の作品には、生活の中に活かされるアートも多く、喜多方に古くから伝わる伝統技術から新しいファッションも生れています。作る人がいて、その作品を着る人がいる。その流れ自体がアートなのではないかと思えました。

 喜多方からは今「アート・ぶらり~ファッション」とも呼べる地産地消のファッションが生れているのではないか、と。

 イベント会期中「織りと染め」による洋服やファッション小物を展示販売していた齋藤潤子さんを訪ねました。店内にはこの日を待ちわびていたかのように押し寄せた喜多方のご婦人たちが、自らの今年のモードに取り入れたいアイテムは何か、熱心にご覧になっていました。

 私自身は、喜多方に「会津型」という江戸時代から昭和初期にかけて使われていた染型紙(県重要有形民俗文化財)があることを知ったのも「アート・ぶらり~」に参加してからのこと。齋藤さんはこの「会津型」に魅了され染色・織物作家になってこの道30年で、会津喜多方に生まれた染め織りの技術を現代のファッションの中で息づかせる伝道師のような方です。

 昨今、一般のファッション市場において洋服の売れゆきが芳しくなく、これまでの「ファッション」という概念そのものが転換期に至っているなか、「アート・ぶらり~ファッション」は、地域に伝わる伝統の技が本来の装う楽しさに気づかせてくれます。

 写真は、100年カエル館に展示しているアメリカ製のカエルのブローチを齋藤さんの「裂き織りジャケット」の胸元に合わせてみました。「裂き織り」とは、昔から貴重品とされた会津木綿を裂いて作り直す、江戸中期に東北で生まれたリサイクル発想。常に新しくヨミガエルファッションといえそうです。

※「カエル白書」(A5版 モノクロ 68ページ)Vol.1とVol.2は1冊1000円(税込・送料込)で販売しております。100年カエル館HP http://kaeru-kan.com でお申し込みいただけます。

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2020年5月20日 (水)

[カエル白書Vol.3」■かえるモノ語り歳時記2019年10月

 <縄文土器から現代アートまで、創作意欲を刺激するカエル>

高山ビッキ(100年カエル館副館長)

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柴田まさる作品「マルメタピオカガエル」

 福島県立博物館のエントランスで同館と共催で行った「100年カエル館のときめくカエルアート図鑑」展は、2019年1027日をもって終了しました。ご来場くださった方をはじめ、多くの皆様にご関心をいただいたことに心から感謝申し上げます。

 同展は福島県立博物館で同年1117日まで開催された「あにまるず どうぶつの考古学」と動物つながりのテーマで同時開催しました。

 「どうぶつの考古学」では、イノシシやシカをはじめいろいろな動物の考古資料が展示されるなか、「カエル」もいました。

 縄文中期の抽象文の深鉢(東京都三鷹市遺跡)には、口縁部に「カエルもしくは昆虫のようにも見える」と解説された装飾がありました。今回の展示にはありませんでしたが、長野県の曽利遺跡出土の深鉢にカエルの文様が施されているものがあるので、カエルが見られる縄文土器がどれくらいの広がりをもって作られていたのか知りたくなりました。

 また、縄文後期に岩手県一関市で作られていたと考えられるのは、「カエル形角製品」。カエルの造形の首のあたりを貫通する孔(あな)があることからアクセサリーとして使われた可能性があるそうです。当時どんな人がどんな意図をもって身につけていたのかを想像すると、今もペンダントトップや指輪などにカエルをデザインしたものは人気があることから、縄文時代と現代が一気につながる感じがしました。

 私たちが展示した柴田まさるさんのカエルの絵は、20世紀から21世紀を生きた画家による現代アートですが、20世紀に活躍した“美の巨人”たち、たとえばピカソがアフリカのプリミティブアートの、岡本太郎が縄文文化の影響を受けていたように、柴田作品のカエルアートの背景にもさまざまな時代の文化が見え隠れする気がしました。

 カエルアートの場合、自然に棲息するカエル本来の姿に芸術性を見出すアーティストもいます。ポップアートの巨匠、アンディ・ウォーホルが描いたのは「絶滅危惧種アマガエル」。中南米に分布するアカメアマガエルの輪郭や顔の造作を線画で浮かび上がらせることで、カエルそのものがポップアートであることを示しているかのようです。

 柴田さんもアカメアマガエルを描いていますが、柴田さんの場合、最も創作意欲をかき立てられたカエルは、南米のマルメタピオカガエルのようです。両目がくっついていて、口がやたらと大きい特徴的な形態そのものが、ポップアートだったのかもしれません。

※「カエル白書」(A5版 モノクロ 68ページ)Vol.1とVol.2は1冊1000円(税込・送料込)で販売しております。100年カエル館HP http://kaeru-kan.com でお申し込みいただけます。

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Vol.2内容/◎「カエルアートミュージアム~進化するカエルアート」展(京王プラザホテルロビーギャラリーにて)報告 ◎カエル先生、岩澤久彰コレクション展」から見えたこと ◎第20回記念両生類自然史フォーラム報告 ◎カエルグッズでめぐる世界の“カエル旅” 他

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2020年5月18日 (月)

[カエル白書Vol.3」■かえるモノ語り歳時記2019年9月

<柴田作品の中で愉しく進化して、カエルは仏様に>

 高山ビッキ(100年カエル館副館長)

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 前回に引き続き、今月(2019年)18日から1027日まで福島県立博物館で開催される「100年カエル館のときめくカエルアート図鑑」展から柴田まさる作品の「仏画」をご覧いただいています。

 カエルがなんとお釈迦様のように坐禅して印(仏像に詳しくないのですが、智(ち)拳印(けんいん)というのでしょうか)を結んでいます。カエルが仏陀へと擬人化しているようで、100年カエル館制作の座標軸上では「戯画」のジャンルで捉えています。

 戯画といえば、漫画大国日本で最も親しまれている絵が、漫画のルーツともいわれる「鳥獣戯画」。

この絵巻は京都栂尾山高山寺に伝わる宝物です。因みに私の名字は高山で、その名でうれしかったのは高山寺を訪ねたときでした。

 100年カエル館ができる前のことですが、2002年に当時東京アークヒルズにオープンした、京都の観光と物産のアンテナショップ「京都館」でカエルのイベントを企画し、「京都の美術史に登場したカエルたち」展を開催しました。

 カエルもたくさん登場する「鳥獣戯画」は、“カエル美術史”を語る上でも欠かせない名品なので、その中のいくつかのシーンをパネル展示。その展示許可をいただきに高山寺に伺ったのですが、「高山」と「カエル」で勝手にご縁を感じている高山寺に「高山と申します」と名乗れただけでただただ誇り高い気持ちになりました。

 この「鳥獣戯画」で、カエルは御本尊の姿にも描かれます。そして、柴田作品にもここに掲載した作品以外にカエルで仏画を描いたのではないかと思われる作品が数点あります。カエルが菩薩像や如来像として描かれる飛躍も、「鳥獣戯画」にさかのぼれば不思議はないのかもしれません。

 柴田さんのカエルの仏画には、森の中で坐禅する仏様のカエルの絵もあり、その作品を見ると、高山寺を開いた明恵上人が松林の中で小鳥やリスなど小動物とともに描かれた肖像画「明恵上人樹上坐禅像」に通じるものを感じます。

 柴田まさるが仏画に込めた思いを推し測ると、自然の中に仏の姿を見出すその仏教観が伝わるようです。

 間もなく始まる県立博物館でのイベントでは、リアルなカエルから仏画のカエルまで、柴田まさるの創作人生の中で、愉しく進化を遂げたカエルたちをご覧いただけます。

※「カエル白書」(A5版 モノクロ 68ページ)Vol.1とVol.2は1冊1000円(税込・送料込)で販売しております。100年カエル館HP http://kaeru-kan.com でお申し込みいただけます。

Vol.1内容/◎黙阿弥のひ孫、演劇研究家氏のコレクション展(福島県立博物館にて)報告 ◎明治生まれのカエルグッズコレクター、小澤一蛙のコレクションから見えてきたこと ◎自然とカエルの話題 ◎カエル文化的話題 ◎高山ビッキ連載カエルコラム 他

Vol.2内容/◎「カエルアートミュージアム~進化するカエルアート」展(京王プラザホテルロビーギャラリーにて)報告 ◎カエル先生、岩澤久彰コレクション展」から見えたこと ◎第20回記念両生類自然史フォーラム報告 ◎カエルグッズでめぐる世界の“カエル旅” 他

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2020年5月17日 (日)

[カエル白書Vol.3」■かえるモノ語り歳時記2019年8月

 人はカエルも含めた動物とかかわることで表現力を育んできた>

高山ビッキ(100年カエル館副館長)

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 最近、動物をテーマにした美術展が人気を集めています。遠く海外では、今年の下半期、ワシントンD.C.のナショナル・ギャラリー・オブ・アートと、ロサンゼルス・カウンティ美術館で「日本美術に見る動物の姿」展が開催されています。

 「日本美術に見る動物の姿」展では、日本の古墳時代の埴輪から現代アートまでのさまざまなジャンルの芸術の中から動物が表現された作品を紹介しています。日本の表現文化に見られる「動物」は、近しい友達のような存在だったり、超自然的な崇高さを放ったりと、その多彩さは日本ならではのものがあるようです。

 動物がテーマの展示イベント。この秋は会津若松の福島県立博物館で「あにまるずー―どうぶつの考古学」(2019年9月7日~1117日まで)が行われます。動物を表現した縄文土器など昔の日本人の思いがこもる考古学的遺物を見ることができます。

 その開催期間中、エントランスでは918日から1027日まで「100年カエル館のときめくカエルアート図鑑」展もご覧いただけます。

 昨年、愛知県碧南市から喜多方に引っ越してきた(途中、東京・新宿で展覧会を開催)、2015年に世を去るまで43年間、カエルの絵を描き続けた柴田まさるさんの作品のカエルたちを展示します。

 この“カエルの画家”が、大好きなカエルをまさにその多種を多様に描いた作品の数々をいくつかのカテゴリーに分けて紹介します。

 柴田さんは何種ものカエルの後ろ姿を「背中シリーズ」として描きました。その一方で、カエルの正面を描いた作品もたくさん遺しています。

 日本には、現在外来種や亜種も含めて48種のカエルが記載されていますが、柴田さんは40種以上のカエルの顔を描き分けています。

 柴田さんの作品群全体を見渡してみると、種が特定できるリアルなカエルの顔が、人間味のある顔に移行したのではないかと思われる作品も見られます。この“移行”は、自然を客観的に描写する「花鳥画」と、描き手の主観性が強まってその思い入れが投影された「文人画」との違いを浮かび上がらせているようでもあります。秋の展示イベントは、その違いを感じていただく場になればと思います。

 さらにそのカエルの表現は抽象性を高めてポップアートに。人はカエルも含めた動物と身近にかかわる生活をすることで、多彩な表現力を育む可能性を、柴田さんの作品を通してお伝えできればと思っています。

※「カエル白書」(A5版 モノクロ 68ページ)Vol.1とVol.2は1冊1000円(税込・送料込)で販売しております。100年カエル館HP http://kaeru-kan.com でお申し込みいただけます。

Vol.1内容/◎黙阿弥のひ孫、演劇研究家氏のコレクション展(福島県立博物館にて)報告 ◎明治生まれのカエルグッズコレクター、小澤一蛙のコレクションから見えてきたこと ◎自然とカエルの話題 ◎カエル文化的話題 ◎高山ビッキ連載カエルコラム 他

Vol.2内容/◎「カエルアートミュージアム~進化するカエルアート」展(京王プラザホテルロビーギャラリーにて)報告 ◎カエル先生、岩澤久彰コレクション展」から見えたこと ◎第20回記念両生類自然史フォーラム報告 ◎カエルグッズでめぐる世界の“カエル旅” 他

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2020年5月15日 (金)

[カエル白書Vol.3」■かえるモノ語り歳時記2019年7月

<36人のガマ仙人が集まった松本かえるまつり>

高山ビッキ(100年カエル館副館長)

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北野天満宮(京都)の蟇股の蝦蟇仙人

 本連載で「蝦蟇仙人に会いたい」をテーマに100年カエル館に展示している「ガマ仙人」の置物を紹介したのが一昨年の秋。その後も私はガマ仙人を探しに山へ修業に……。と、いうわけではありませんが、この6月、幾人かのガマ仙人と会うことができた(⁈)ので報告いたします。

 長野県松本市の女鳥羽川沿いの「ナワテ通り」では、毎年6月に「松本かえるまつり」を開催し、今年で18回になります。

全国からカエル好きの皆さんが集まるお祭り。6月22日、私たちは四柱神社の斎館でカエ~ル大学2019の第1回講座を行いました。

 その講座のテーマが「日本各地でガマ仙人に会いたい!」でした。

 中国由来の蝦蟇仙人の存在は、それを画題に描いた顔輝(がんき)という中国の絵師の絵を通じて日本にも入って来ました。江戸期の絵師もそれをモチーフにする人が少なくなかったことは以前も紹介しました。

 さらにそのガマ仙人が、日本各地で寺社建築やお祭りの山車(だし)の装飾に潜むように存在していることを知って、この仙人が日本文化の伝統の中にしっかり息づいていることを感じました。

 写真の蝦蟇仙人は、京都の北野天満宮の本殿の蟇股(かえるまた)の意匠として彫り込まれた蝦蟇仙人です。蟇股という伝統建築の梁や桁で重荷を支える部材自体、蛙が股を開いて座している様子から付けられた名称ですが、その彫刻の意匠が「蝦蟇仙人」という、カエル好きを楽しませるポイントを二つ併せ持つ遺物。この本殿は桃山時代につくられ、この蟇股の装飾も当時からのものとされていることで、江戸時代以前すでに日本人は蝦蟇仙人を縁起のいいシンボルとして信仰の中に取り入れていたと想像できます。

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長尾天満宮(京都)の蟇股の蝦蟇仙人

 今回の講座では、他にも京都の長尾天満宮のガマ仙人、長野県の神社やお祭りのお船(山車)などに見られる「諏訪(すわ)立川流(たてかわりゅう)」の棟梁の手になるガマ仙人5人、愛知県半田市で春に行われる山車祭りのガマ仙人3人、富山県の「おわら風の盆」で知られる越中(えっちゅう)八尾(やつお)の曳山祭の絢爛豪華な山車に施されたガマ仙人など全部で36人のガマ仙人に登場いただきました。

 その昔、日本にやってきたガマ仙人がこの国の文化の中で人々にどんな影響をもたらし、どのように各地に広がっていったのか、さらに興味が湧いてきてカエ~ル大学の研究テーマとして調べていきたいと思っています。

 

※「カエル白書」(A5版 モノクロ 68ページ)Vol.1とVol.2は1冊1000円(税込・送料込)で販売しております。100年カエル館HP http://kaeru-kan.com でお申し込みいただけます。

Vol.1内容/◎黙阿弥のひ孫、演劇研究家氏のコレクション展(福島県立博物館にて)報告 ◎明治生まれのカエルグッズコレクター、小澤一蛙のコレクションから見えてきたこと ◎自然とカエルの話題 ◎カエル文化的話題 ◎高山ビッキ連載カエルコラム 他

Vol.2内容/◎「カエルアートミュージアム~進化するカエルアート」展(京王プラザホテルロビーギャラリーにて)報告 ◎カエル先生、岩澤久彰コレクション展」から見えたこと ◎第20回記念両生類自然史フォーラム報告 ◎カエルグッズでめぐる世界の“カエル旅” 他

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2020年5月14日 (木)

[カエル白書Vol.3」■かえるモノ語り歳時記2019年6月

<カエルで巡る六月の京都、東京>

 高山ビッキ(100年カエル館副館長)

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 毎年、六月の初旬に仕事で京都を訪ねます。カエルを探す旅ではないけれど、何かカエルとの出会いがあると旅のサプライズのようで感激します。

 京都という土地柄、神社仏閣の狛犬や蟇(かえる)股(また)にカエルの意匠が見られるのはもちろん、6月6日は「カエルの日」、六月の京都では、店舗のショーウインドーなどで愉快なポーズをとる〝カエルさん〟たちを見る楽しみもあります。

 こんな意外な発見もありました。お香の老舗松栄堂が昨年オープンした「薫習館(くんじゅうかん)」で開催されていた「京都・ボストン姉妹都市締結60周年記念エミリ・ディキンスンの世界展」でのこと。19世紀のアメリカ東部、ボストンに近い町アマストで、人知れず詩作を続けた女性詩人を紹介する展示でした。

 昨今、本国アメリカを中心に再評価され、映画化もされたエミリ・ディキンスン。この詩人に関連するグッズの展示コーナーもあり、そこで彼女の詩の一節とともにカエルが描かれたタグに目が留まりました。

 その詩の一節とは「I’m nobody! Who are you?」直訳すれば「私は誰でもない。あなたは誰。」この言葉に始まる詩の中になぜかカエルが潜んでいました。そのカエルはエミリが共感するnobody(誰でもない人)ではなく、六月に沼地で盛んに自分の名を告げるSomebody(ひとかどの誰か)として登場します。

 20世紀の日本には、「第百階級」であるカエルの視点で詩作をした福島県出身の詩人草野心平がいます。エミリも心平も共に自らをnobodyに位置づけながら、カエルの捉え方は背景となる国や時代の影響もあるのか、反転するほど違うことを改めて興味深く感じました。

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 五月には、ウエブサイト「東京お寺めぐり通信」(東京都仏教連合会サイト内)の取材のために、足立区の寺町を歩き回りました。竹ノ塚のあたりの路上にカエルの絵柄のマンホールやタイルをいくつか見かけました。

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ここには「やせ蛙負けるな一茶是にあり」の句で知られる江戸後期の俳人小林一茶ゆかりのお寺炎天寺があります。「足立」の地名は「蛙(あ)多地(たち)」から来ているという説もあり、縄文期より湿地帯に生活の場をつくってきたこの地には、さぞカエルがたくさんいたことでしょう。

国を超え、時代を超え、詩人の心に何かをもたらしてきたカエル。会津、東京、そして京都。そのつながりの歴史を感じながら巡る〝カエル旅〟には、いつも思いがけない発見があります。

 

※「カエル白書」(A5版 モノクロ 68ページ)Vol.1とVol.2は1冊1000円(税込・送料込)で販売しております。100年カエル館HP http://kaeru-kan.com でお申し込みいただけます。

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Vol.2内容/◎「カエルアートミュージアム~進化するカエルアート」展(京王プラザホテルロビーギャラリーにて)報告 ◎カエル先生、岩澤久彰コレクション展」から見えたこと ◎第20回記念両生類自然史フォーラム報告 ◎カエルグッズでめぐる世界の“カエル旅” 他

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2020年5月12日 (火)

[カエル白書Vol.3」■かえるモノ語り歳時記2019年5月

 <桜の季節に考えた木とキジとカエルの三すくみ>

 高山ビッキ(100年カエル館副館長)

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 100年カエル館では、カエルの生体展示はしていませんが、ゴールデンウィーク期間中、庭では二ホンアマガエルの鳴き声が聞こえ、たぶん、ちょうど写真の陶製のカエルのように鳴のう(鳴き袋)を膨らませて発声していたと考えられます。

 このカエルの置物は御浜焼(みはまやき)と思われる全長20㎝ほどの陶器で、姿形はトノサマガエルに似ていますが、同種の場合、鳴のうはあごの両脇にあり、鳴くときは左右の(ほほ)が風船みたいに膨らんで見えるのでちょっと違います。大きさからすると、ウシガエル並み。自然を正しく反映しているわけではありません。

 今年(2019年)の「GW開館」は喜多方の枝垂れ桜に間に合い、平成から令和にかけて本館の庭でも、ソメイヨシノに八重桜、そして道路を隔てて少し遠くに枝垂れ桜が見え、「喜多方さくらまつり」を満喫することができました。花も蛙の声も楽しむことができる、この身近な自然を眺めているだけでも、生態系の成り立ちに気づかされました。

 私たちの目の前で血相を変えて(⁈)横切って行ったのは、ツガイのキジ。鳥としては飛ぶのが苦手な分、捕獲されないようにスピーディに走る様子は、ホレボレするほど。アマガエルたちがこのキジファミリーに食べられている可能性を思うと複雑ですが、それも生態系を維持する自然の掟であるなら、キジに由来する諺(ことわざ)を借りて、キジの前を通るカエルに「鳴かずば食われまい」とアドバイスしてあげるのが精一杯。

 アマガエルは、英語でtree frog(ツリーフロッグ)。吸盤のある指を使って木に登るのが得意です。

大昔、地球に小惑星がぶつかって、ほとんどの生命が絶滅したかに見えたとき、最初に息を吹き返したかのように鳴き始めた動物がアマガエル。木に登ったことで繁栄したカエルだといわれています。今も主な棲息場所は樹上です。

 ところが、そんなアマガエルも棲む100年カエル館の庭の樹々に、鳥たちに運ばれた種が育ったのか、野生の藤(ふじ)蔓(づる)が絡みついていました。その生命力には圧倒されるのですが、他の樹々を枯らす原因でもあり、今回はその藤蔓を樹々からはずしてやる作業を行いました。

 カエルは、ヘビとナメクジ(もしくはムカデ)と、三すくみの関係をつくりますが。アマガエルとキジと木にも、豊かな生態系を維持するための「三すくみ」があることを感じました。

※「カエル白書」(A5版 モノクロ 68ページ)Vol.1とVol.2は1冊1000円(税込・送料込)で販売しております。100年カエル館HP http://kaeru-kan.com でお申し込みいただけます。

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2020年5月11日 (月)

[カエル白書Vol.3」■かえるモノ語り歳時記2019年4月

<新元号「令和」と縁起のいいカエル>

 高山ビッキ100年カエル館副館長)

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 新元号が「令和」と決まってから、その典拠となった万葉集への関心が高まりました。昨年(2018年)のこの連載では、万葉集でヒキガエルはタニグクと呼ばれ、「谷蟆(たにぐく)のさ渡る極み」と国土を知り尽くした存在として登場することを紹介しました。

 また、やはり昨年、磐梯山噴火記念館に常設されている、世界最初の地震計の模型に8匹のカエルの造形が施されていることも書きました。同館によりますと、今、この地震計に熱い視線が集まっているそうです。

 考案した中国後漢時代の張衡(ちょうこう)は、万葉集以前に『後漢書』の中で、「令」と「和」の文字も確認できる詩文『帰田賦(きでんのふ)』を遺しているからです。張衡は役人であり科学者、詩人とさまざまな才能を発揮し、後の世に菅原道真にも影響を与えたと考えられます。「田に帰る」という題の『帰田賦』もカエルの帰巣本能と結びつけたくなり、この詩文をつくった張衡のカエルの地震計は、「かんがえる」ことの大切さを伝える学業成就のシンボルにもなりそうです。

 カエルはよく「縁起がいい」と言われます。「無事かえる」「福かえる」など語呂合わせがしやすいからだと思いますが、その理由をもっと深めてみたいと思い、カエ~ル大学では「カエルの縁起」座標軸をつくったことがあります。「カエルの縁起」という言葉をx軸とy軸で斬ってその意味を構成する要素を分解してみると、中国神話で「すべからく蛙から生じた」とされる「この世をつくる源である木火土鉄水」のうちのいくつかとの関係が見えてきました。

 そこに日本における、カエルと縁があると思われる神社仏閣、神様や伝説の人物を配置してみると、「カエルは縁起がいい」ことの背景につながった気がしました。

 さらに、昨年は同講座で喜多方、そして会津にあるカエル縁(ゆかり)のスポットを紹介する回があったのですが、その「カエルの縁起」座標軸に照らし合わせても、会津、喜多方には“カエルの神様”がいろいろ集まっている、縁起がいい土地なのではないかと確信さえ思えました。

 100年カエル館では、そのような視点に基づき、会津、喜多方のカエルと関わるスポットを紹介しながら、本館について案内するリーフレット(写真)を作成しました。

※「かえるモノ語り歳時記」は、福島県喜多方市のおもはん社発行のフリーペーパー「ほっと・ねっと」に100年カエル館の高山ビッキが連載しているエッセイ「かえるモノ語り―自然と文化をつなぐカエル」を歳時記として加筆修正して再掲載しています。

※「カエル白書」(A5版 モノクロ 68ページ)Vol.1とVol.2は1冊1000円(税込・送料込)で販売しております。100年カエル館HP http://kaeru-kan.com でお申し込みいただけます。

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2020年5月10日 (日)

[カエル白書Vol.3」■かえるモノ語り歳時記2019年3月

<目借時俳句についてかんがえる>

高山ビッキ(100年カエル館副館長)

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 俳句で「蛙」は春の季語。

 詩人の岸田衿子が書いた絵本『どうぶつはいくあそび』によれば、「むかし、にんげんに、はいくをおしえたのは、かえるであった。」

 そう絵本の中で語るのは、そのかえるに“はいく”を教えた先祖をもつという“ふるかわうそはち”先生なので、マユツバに違いないのですが、俳句のルーツでもある和歌、その達人である平安時代の歌人紀貫之なら「あながち間違ってないよ」と言ってくれるかもしれません。その選による『古今和歌集』に書かれた「仮名序」に「花に鳴く鶯(うぐいす)、水に住むかはづの声を聞けば、生きとし生けるもの。いづれか歌をよまざりける」とあるからです。

 人類は言語を獲得する前から地球上のさまざまなところでカエルの鳴き声を耳にしていたと思います。俳句につながる情感の表現をカエルから教えられたと想像することはできそうです。

 その『古今和歌集』に収められた滑稽味(こっけいみ)のある和歌は「俳諧(はいかい)歌」と呼ばれ、室町時代にはそれをもっと気軽に楽しめるようにした「俳諧連歌」が生まれたといわれます。

 その祖として名前を残すのが、山崎(やまざき)宗鑑(そうかん)。その俳諧に

 手をついて歌申しあぐる蛙かな

があります。カエルが前あしを折り曲げてうずくまる様子を真正面から見て擬人化した、思わずくすりと笑える俳諧で、その姿は裃(かみしも)をつけて口上を述べるようなカエルの置物にも見られます。

 そして、あの不朽の名作となった俳句

 古池や蛙飛びこむ水の音

を詠んだのは江戸時代に現れた俳聖松尾芭蕉です。

 日本ならではの詩歌の形式の進化の歴史において、カエルは、鳴き、何事かを言おうと身構え、ジャンプしたのです。

 春眠暁を覚えずの候、春に眠くなるのは「蛙が人間の目を借りに来るからだ」と古くから歌に詠まれた言葉に「蛙(かわず)の目(め)借(かり)時(どき)」があります。この「めかり」は繁殖期にオスがメスを求めて鳴く様子や、アカガエルなどが産卵後に二度寝する様子などから生まれ、それが民話的に伝えられているともいわれます。

 古(いにしえ)より、日本人は身近な自然の中にいるカエルを観察することで、文学的感性を育んできた、カエルは俳句の先生だったと言っても過言ではないかもしれません。

※「かえるモノ語り歳時記」は、福島県喜多方市のおもはん社発行のフリーペーパー「ほっと・ねっと」に100年カエル館の高山ビッキが連載しているエッセイ「かえるモノ語り―自然と文化をつなぐカエル」を歳時記として加筆修正して再掲載しています。

※「カエル白書」(A5版 モノクロ 68ページ)Vol.1とVol.2は1冊1000円(税込・送料込)で販売しております。100年カエル館HP http://kaeru-kan.com でお申し込みいただけます。

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2020年5月 9日 (土)

[カエル白書Vol.3」■かえるモノ語り歳時記2019年2月

<春に考える両生類のなかま蛙と山椒魚のこと>

 高山ビッキ100年カエル館副館長)

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 啓蟄(2019年は3月6日でした)を過ぎれば春は本格始動、近くの田んぼなどでもカエルの産卵が見られ、オタマジャクシに出会えるのではないでしょうか。

「(カエルグッズコレクションとして)オタマジャクシはどうですか」と訊かれて、「はい、集めています」と答え、実際、カエルグッズ収集の分類項目の一つに入れています。アーティストの造形によるオタマジャクシ、金属製や木製、陶製のオタマジャクシ、また、ぬいぐるみのカエルでオタマジャクシが付いているものもあります。

では、サンショウウオはどうかと問われると答えは「いいえ」で、2018年から日本両生類研究会の編集幹事の役目もいただいていますが、同じ両生類でもサンショウウオについては長く考えないようにして来ました。

 オタマジャクシはご存じのようにカエルの子です。親と子でかなり形が違い、形態だけ見ればサンショウウオに似ているとも言えますが、正真正銘カエルの子。そのことは古代エジプトの神聖文字ヒエログリフで「10万」を示す文字が後ろ足の生えたオタマジャクシで表現されていることに、古くから知られていたことがわかります。

 同じ種の幼体のオタマジャクシ(水中生活)から成体のカエル(陸上生活)へ、まさに両生類の特性を示していて、オタマジャクシグッズはカエルグッズと切り離せないと思うわけです。

ところが、同じ両生類にサンショウウオとイモリがいると言われても、カエル好きの視点からその仲間たちとどう接すればいいのか悩むことがありました。

 そんななか2018年に主催した両生類自然史フォーラムで、サンショウウオとカエルでは産卵期に見られるような群れの行動における「社会」の捉え方に大きな違いがあることを感じ、より一層の両生類的ジレンマを抱きました。

そこで解決を求めて手に取ったのが、井伏鱒二の短編小説『山椒魚』。同じ両生類ながら生きざま(生活行動)の違う存在として拘束し合う山椒魚と蛙。岩屋の穴に頭がつかえて外に出られなくなってしまった山椒魚の苦悩を描いた作家のこの処女小説は、最初『幽閉』というタイトルで書かれています。しかし、その十年後に改作・改題して発表した作品が『山椒魚』で、ここで初めて蛙が登場しました。最後、漏れ聞こえた二匹の両生類の言葉に違いは乗り越えられると、距離が縮まったような気がしました。

※「かえるモノ語り歳時記」は、福島県喜多方市のおもはん社発行のフリーペーパー「ほっと・ねっと」に100年カエル館の高山ビッキが連載しているエッセイ「かえるモノ語り―自然と文化をつなぐカエル」を歳時記として加筆修正して再掲載しています。

※「カエル白書」(A5版 モノクロ 68ページ)Vol.1とVol.2は1冊1000円(税込・送料込)で販売しております。100年カエル館HP http://kaeru-kan.com でお申し込みいただけます。

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2020年5月 8日 (金)

「カエル白書Vol.3」■かえるモノ語り歳時記2019年1月

<カエルの絵馬に新しい年の願いを込めて>

高山ビッキ(100年カエル館副館長)

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明治生まれのカエル・コレクター小澤一蛙制作のカエルの絵馬(100年カエル館所蔵)

 新しい年を迎える(ムカエル)と心機一転、気持ちをすっかり切り換える(キリカエル)ことができ、希望が溢れかえる(アフレカエル)ことがあります。蛙が、縁起がいいと言われる理由のひとつが、このような語呂合わせを楽しめるところ。

 特に「無事かえる」「お金がかえる」「福かえる」は、三大「かえる願い事」と言えそうです。寺社で授与されるお守りや土鈴に、蛙の絵柄が施されているものや、蛙の形をしているものがあれば、そのような願いが込められています。

 絵馬も古くから何かを祈願するときの縁起物で、元々はその名に残るように、生きた馬を神様に献上したことに始まります。板に描いた馬を奉納するようになったのは平安時代で、室町時代には現世利益を求め個人が小型の絵馬を奉納するようになったと言われています。

 絵馬に馬だけでなく、いろいろな絵が描かれるようになったのは江戸期以降、家内安全や商売繁盛を祈願して奉納する風習が庶民に広がってからでしょう。

 カエル好きにとっては、もちろん、馬ではなく神社などでカエルが描かれた絵馬と出合うと、奉納した絵馬とは別にもう一つは持ち帰りコレクションする人も多いと思います。

 100年カエル館にも「富士信仰」と「無事かえる」で交通安全祈願ができる品川神社(東京)、「身代わり片目蛙」に健康な暮らしを守ってもらえる木之本地蔵院(滋賀県)、春日局が嫦娥(じょうが)(中国の伝説の女性)と兎と蛙が描かれた鏡を奉納した一之宮(いちのみや)貫前(ぬきさき)神社(群馬県)などのカエルの絵馬が集まっています。

 全国に毎年“かえるまつり”を行うところが何か所かありますが、愛知県春日井市は、あの「柳に跳びつく蛙」の言い伝えで知られる平安時代の書家、小野道風の生誕地ということで、毎年「春日井カエルまつり」を開催しています。その道風が書道上達を祈願して山号「医王山」の扁額を奉納した高田寺(こうでんじ)では、柳に跳びつく絵馬を買い求め奉納することができます。

 そして、100年カエル館のある喜多方。『小史わがまち松山』(松山町「ふるさと再発見!」事業推進協議会編)によれば、御稷(ごしょく)神社には明治七年に寺町に住んでいた画家の五十嵐豊岳氏が描いた「小野道風蛙を見る図」の絵馬(扁額のような大きな絵馬でしょうか)を奉納しています。大きな桜の木の下にある小さな神社。絵馬の絵は判別できないほど風化しているそうですが、今年は桜が満開の頃に行ってみようと思います。

※「かえるモノ語り歳時記」は、福島県喜多方市のおもはん社発行のフリーペーパー「ほっと・ねっと」に100年カエル館の高山ビッキが連載しているエッセイ「かえるモノ語り―自然と文化をつなぐカエル」を歳時記として加筆修正して再掲載しています。

※「カエル白書」(A5版 モノクロ 68ページ)Vol.1とVol.2は1冊1000円(税込・送料込)で販売しております。100年カエル館HP http://kaeru-kan.com でお申し込みいただけます。

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Vol.2内容/◎「カエルアートミュージアム~進化するカエルアート」展(京王プラザホテルロビーギャラリーにて)報告 ◎カエル先生、岩澤久彰コレクション展」から見えたこと ◎第20回記念両生類自然史フォーラム報告 ◎カエルグッズでめぐる世界の“カエル旅” 他

 

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2020年5月 7日 (木)

「カエル白書Vol.3」■私のカエルライフ

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「カエル白書」では毎号、カエ~ル大学の学生の皆さんにご寄稿を募りその年の「カエル」との出会いを中心に「私のカエルライフ」を紹介していただいています。「カエル白書Vol.3」では2019年をフリカエルご報告をいただきました。それぞれにご興味のあるフィールドでどんな「カエル」を発見し、「カエル」とどんな楽しい時間を過しているか伝わってきます。

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■カエルの時代「令和」

風間けろゆき(2019年カエ~ル大学学生)

 

 冬眠暁を覚えず--。2019年、ゆっくり目覚めると、すでに5月。元号が令和に変わっていた。

 政府は令和の英訳を「beautiful harmony」とした。美しいハーモニーと言えば、まず思い浮かぶのは、輪唱「蛙の合唱」だろう。すなわち、カエルの時代の到来が公式に告げられたとは言えまいか。

 7月には「ボサノバの神様」、ブラジルのジョアン・ジルベルトが死去した。「O Sapo(かえる)」は終始「ゲコゲコ」「ケロケロ」のみを繰り返すため、CDの歌詞カードは、この曲のみが空白だ。地球の裏側のカエルたちにも思いをはせ、謹んで聴きたい。

 学術分野ではノーベル賞。注目すべきは、化学賞の吉野彰氏よりも物理学賞のケロ―氏だ。太陽系外の惑星を初めて発見した、スイス・ジュネーブ大教授のケロー氏。そのラブリーな名前こそが、ノーベル賞にふさわしい。大航海時代の探検家、バスコ・ダ・ガマと同様、「自覚なきカエラー」と言えるのではないか。

 その元祖は、キリスト教・カトリック教会の大天使聖ミカエルだ。英語圏のマイケル、独語圏のミヒャエル、仏語圏のミシェル、ロシア語圏のミハイルなどの名前のもとになっている。ローマ・カトリック教会は、現代の世界に広がりを見せる「自覚なきカエラー」の総本山ともいえそうだ。令和元年、フランシスコ教皇の来日も記憶に新しい。カエラーであれば、ローマは、生涯に一度は巡礼すべき聖地だろう。

 イタリア語で「あれ」「それ」を意味する言葉は、「ケロ(quello)」である。いつの日にかローマを訪れる際には、巡礼とともに買い物を楽しみ、お店で商品を指さして、ケロケロ言ってみたいものである。

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■私のオリジナルカエルグッズ

伯川綾子(2019年カエ~ル大学学生)

 

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 2019年に引き続き、今年も「2020年カエルスケジュール帳」を作成しました。今回はハンドメイド通販サイトのminneでも販売し、前年よりも多くの方にお渡しすることができました。

 また、他にも何かオリジナルカエルグッズを作れないものかと考えていたところ、ユニクロのUTme!というサービスを知りました。

 こちらはオリジナルのデザインでTシャツやパーカーなどを作れるサービスで、インターネット上で作成・発注ができ、自分用に作ることも、ネット上で販売することも可能です。

 早速、このサービスを使ってTシャツ、パーカー、ミニトートバッグを作りました。

 もちろんデザインは私好みに、オリジナルのカエルのイラストがデカデカと入ったもの。さらに、大きな文字で「カエルが好き!」と入れました。誰が見ても「あ、あの人カエル好きなんだ」とわかる自己主張溢れるデザインです。

 ワクワクしながら届いた品を開けてみると、以前自宅で作ったアイロンプリントのTシャツとは比べ物にならないくらいちゃんとした作り!パーカーもしっかりした生地だし、ミニトートバッグは内ポケットや留ボタンがついた優れ物でした。

 こんなにお手軽にオリジナルカエルグッズが作れるなんて…、素晴らしい時代になったものです。

 ひとつ気になっているのが、2枚作ったTシャツのうち自分が買った以外にも1枚売れていたこと。この世にたった2枚しかないTシャツ、誰が着てくれているんだろう…、間違いなくカエル好きの人だと思うけれど…、気に入ってくれているといいなあ。

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■伊豆半島のミラクルなカエル旅

山縣夏美(2019年カエ~ル大学学生)

 

 昨年の夏休みを利用して、伊豆半島のカエルテーマパークを巡る旅をしました。「あわしまマリンパークカエル館」と「カワズー」、どちらも日本や世界のいろいろな蛙が展示されていることを知ってからずっと行きたい場所でした。2日間の旅でしたが、両施設では展示ケースや放し飼いスペースで、蛙たちがどこにいるか探したり、蛙グッズを吟味したり楽しい時間を過ごしました。

 それだけでなくミラクルな出来事がありました。初日に訪れたあわしまマリンパーク行き船乗り場そばに、蛙の写真でラッピングデザインされた飲料水の自販機がありました。普段買っているお茶やミネラルウォーターが、この自販機から出てくるということにウキウキします。早速1本お茶を購入しました。取り出し口にペットボトルが落ちてきたところまではいつものことですが、自販機がピーと鳴りました。故障?全ての飲料のボタンが点滅して、硬貨投入口のパネルに『2222』と表示されています。これはと思い、もう一度お茶のボタンを押してみたらもう1本落ちてきました。当り?当り付きしかも蛙ラッピング自販機で当たった!私の蛙への愛情が届いたのかしらと喜びに浸り初日を終えました。 

 そして2日目です。カワズーにも、蛙ロゴマークのついた自販機がありました。見つけた時は、どちらもさすがカエルテーマパーク、自販機もちゃんと蛙ラッピングが設置されているのだなと思った程度でした。ですが、前日と同じミラクルが起こったのです。ピー音と今度は『5555』でした。もしかしたら気前よく多くの当りを出しているのでは?と思い、お茶を飲みながら飲料を買いに来る人を観察しましたが、後から購入する方たちは普通に1本だけ出てきて終わりです。自分だけ蛙に特別扱いされたような大満足な思い込みとともに帰路につきました。

 2つのカエルテーマパークでは珍しい蛙を見ることができ、さらにこのようなハッピーな経験をすることができ充実した夏休みでした。

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■美術館の中と外

山縣英明(2019年カエ~ル大学学生)

 

 アートが好きで、週末には美術館やギャラリー巡りをしながら美術作品の展示の中に「蛙」を見つけて楽しんでいます。

 蛙を題材とした絵で知られる河鍋暁斎ような描き手の作品の鑑賞が目的の場合もありますが、特に蛙で有名ではないアーティストの展覧会でも思わぬ発見をすることがあります。すでに妻(同じくカエ~ル大学学生の山縣夏美さん)が「カエル白書Vol.1」で紹介していたゴッホの『花魁』やアルチンボルトの『四大元素・水』、最近は、国立近代美術館の常設展でシンプルな描線で鳥獣戯画を思わせるモティーフを描いた竹内栖鳳『草相撲』に出会うことができました。

 そして、時には思いもよらぬ場所での出会いもあります。写真①②は、北青山三丁目児童遊園で出会ったカエルの遊具です。外苑前の美術館に行った帰りに、何かに呼ばれたようにわき道に入っていったら巡り合いました。

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 最後に、家の近所で出会ったカエル石も紹介します。これからもいろいろな蛙との出会いがありますように(もちろん皆様にも)!

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■中国の蛙と人が結婚する話

藤沢 浩憲(2019年カエ~ル大学学生)

 

 蛙が登場する昔話を集めて、蛙に対するイメージを探っています。

 日本で一番多く記録されている(ということはおそらく多く語られている)話が「餅争い」と「蛇婿入り」だということを調べ上げ、これが日本の蛙二大話だと発表したのは、だいぶ以前の事です。

 いまだに世界中の昔話を集め続けていますが、6年ほど前から「日本民話の会」の「外国民話研究会」に参加するようになりました。担当は中国。テーマは時期によって変わりますが、今は人が異類と結婚する話を調べています。犬、白鳥、鯉のような動物の他に、牡丹、白菜のような植物、花瓶や灯火のような物品、その他の仙女や星等。人間が結婚する相手は様々ですが、中国で最も多い結婚相手は蛙です。反対に、中国の蛙が登場する昔話の中でも、一番多いのは、人間と結婚する話なのです。

 たとえば「蛙息子」や「蛙婿」として伝わるのは、こんな話です。

 子のない夫婦に蛙が生まれました。弁当を届けたり、野良仕事を手伝ったりと、役に立ちます。としごろになると嫁取りに行きます。断られると泣いて大雨、笑って地震を起こし、無理やりのように嫁を連れ帰ります。娘の両親は心配でならないのですが、意外に娘は楽しそうにしています。聞くと、昼間は蛙の姿ですが、夜は皮を脱いで人間の姿をしていると言います。親の入れ知恵で皮を焼くと、人間のままになり、幸福に暮らしました。

 皮を焼かれた夫が去ってしまい、冒険の末に、嫁が夫を取り戻す話もあります。

 異類は兔や鴨、冬瓜や卵等と入れ替わる場合がありますが、大部分は蛙です。田螺と入れ替わる話は今のところ見つけていませんが、日本でこれに似ている話は「たにし息子」です。ほとんどは田螺が主人公ですが、蛙と結婚する話も少数ながらあります。

 同じ国や地域の中で似ている話を比較したり、それをまた別の地域と比較したり。ここ数年は蛙と人が結婚する話で楽しんでいます。

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「カエル白書Vol.3」■絵本の中に“生息する”カエルたち/民話を基にしたカエルの絵本でも参考にさせていただいた藤沢さんのご著書

※「カエル白書」(A5版 モノクロ 68ページ)Vol.1とVol.2は1冊1000円(税込・送料込)で販売しております。100年カエル館HP http://kaeru-kan.com でお申し込みいただけます。

Vol.1内容/◎黙阿弥のひ孫、演劇研究家氏のコレクション展(福島県立博物館にて)報告 ◎明治生まれのカエルグッズコレクター、小澤一蛙のコレクションから見えてきたこと ◎自然とカエルの話題 ◎カエル文化的話題 ◎高山ビッキ連載カエルコラム 他

Vol.2内容/◎「カエルアートミュージアム~進化するカエルアート」展(京王プラザホテルロビーギャラリーにて)報告 ◎カエル先生、岩澤久彰コレクション展」から見えたこと ◎第20回記念両生類自然史フォーラム報告 ◎カエルグッズでめぐる世界の“カエル旅” 他

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2020年5月 4日 (月)

「カエル白書Vol.3」■自然とカエルに関する動向特別寄稿

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「カエル白書」では毎号、野外調査や生物学の研究でカエルと身近に接している研究者の方々からご寄稿をいただいています。Vol.3では2019年に開催された第21回両生類自然史フォーラムの大会委員長を務められた佐藤直樹さん、東日本大震災後の福島県のカエルも見つめている、アクアマリンいなわしろカワセミ水族館の平澤桂さん、カエルの海外調査の経験が豊富な、鳥羽水族館の三谷伸也さんにご執筆いただきました。

■第21回両生類自然史フォーラムを終えて

佐藤直樹(上越科学館・大会委員長)

 201976日、7(土・日)に第21回両生類自然史フォーラムを上越科学館で開催しました。

 開催期間は2日間でしたが遠路23名の会員の方々と一般聴講者の方々がお越しになりました。

 開催初日は当館の1階特別展示室を会場に行いました。特別講演として「上越・妙高地域における両生類の新たな知見と教育普及の現状と課題」と題し、発表をさせて頂きました。2010年から現在までに得られた知見や両生類の教育普及の観点からイベントなどを通して得られた内容や課題を発表しました。特別講演後、会員から様々な質疑がありました。

 一般講演では、「日本産止水産卵性Hynobius14種の孵化直後幼生の形態比較」、「新潟県金塚地区におけるトノサマガエルの個体数の変化」、「ヒダサンショウウオの産卵行動について」、「渓流におけるヒキガエル類の雑種形成の時代的背景」、「落とし穴法で確かめられたエゾサンショウウオの活動状況」、「多様な環境に生息する無尾両生類腎臓の比較形態行動学的観察」の6題が発表されました。いずれも興味深い内容であり、活発な質疑が行われました。

 一般公演に入る前、1階第2会議室に移動し、フォーラム参加者で記念撮影を行いました。総会終了後、割烹から松屋で懇親会を行い、参加した18名と美味しい料理と話で盛り上がりました。

 翌日、午前10時30分よりリージョンプラザ上越に集合後、春日山城跡公園に向かいました。以前、高橋会長が調査でお越しになった際に観察した井戸を7名のエクスカーション参加者で観察した。その際に、頼んでいたわけではないが、急に現れたボランティアガイドの方が説明をはじめ予期せぬ偶然であったが、一同城跡や井戸についての話が聞けて大変良かったです。

 最後になりましたが、不慣れで色々と参加者、事務局にご心配をおかけしたが、大会が無事に終了でき安堵し、高橋 久会長、熊倉雅彦氏、野村卓之氏のお力添え無くしてはあり得ませんでした。その他にも当日お手伝いを頂いた皆様に心から深謝いたします。

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 エクスカーションで訪れた春日山城址公園には、こんなコミカルな蛙の石像がありました。

上越科学館https://jscience.jp/

 

■失われていく水辺

平澤 桂(アクアマリンいなわしろカワセミ水族館)

 福島県は、北海道、岩手県に次ぐ国内3番目の広さを有しています。大きくは太平洋側から阿武隈高地、奥羽山脈、越後山脈といった山々に隔てられた3つの地域(浜通り、中通り、会津地方)に分けられています。これらは海岸線沿いの平野部、丘陵地の里山環境、亜高山帯といった多様な自然環境で成り立っています。そこには水田、河川、湖沼群、湿地、高層湿原などが点在し、19種もの両生類が生息しています。

 そのうち12種のカエル(アズマヒキガエル、ニホンアマガエル、タゴガエル、ニホンアカガエル、ヤマアカガエル、ウシガエル、ツチガエル、トウキョウダルマガエル、トノサマガエル、シュレーゲルアオガエル、モリアオガエル、カジカガエル)が確認されています。

 県内で生物調査をしていると、カエルたちの存在は必ずといっていいほど目にします。そのような調査では新たな発見や、変化を感じることがあります。顕著に感じたのは、東日本大震災から2年後の2013年春からの3年間のことでした。当時、福島第一原子力発電所から直線距離で約10Kmにある富岡町は、避難指示解除準備区域となり日中だけ立ち入り許可が出たため、すぐに里山の変化について調査をはじめました。調査した2Km範囲の中では、水田には水がなく、荒地化が進み、2か所だけ堰の壊れた水田に水が侵入しているところがありました。そこには水辺を失ったニホンアカガエル、ヤマアカガエルの多くの卵塊が限られた水面にひしめき合っていました。

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アカガエル類の卵塊

 翌春、同所を訪れると、水があった水田でも遷移が進み、陸地化が目立ち、僅かに残った水辺には、アカガエル類の卵塊が前年に比べ極端に減少している光景がありました。しかも周辺を見渡すと、除染による表土入れ替えの準備が進められていました。2015年春、重い足取りで、この地を訪れた時には農地復旧のために除染での表土入れ替えが終わり、崩れた堰も修復され、田んぼには赤い土が盛られ、カエルたちの気配はそこから消えていました。

 あれから5年が経とうとします。その変化に心がついていけるか自信がなかったので足を運べないままでいましたが、この執筆を気に一度訪れてみようと思います。

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震災直後に福島県の浜通りで撮影したシュレーゲルアオガエル

アクアマリンいなわしろカワセミ水族館 https://www.aquamarine.or.jp/kawasemi/

■パラオのカエル

三谷伸也(鳥羽水族館)

私の勤務している鳥羽水族館はパラオ水族館(パラオ共和国)と姉妹館協定を結んでいます。その関係で2017年、2019年とパラオオウムガイ(固有種)の調査、捕獲、輸送でパラオへ行く機会に恵まれました。パラオへ出張と言うと皆さん口をそろえて「いいなあ」とおっしゃいます。しかし、リゾートへ遊びに行くのとは違い、朝から海に出て昼過ぎまでトラップを設置、器材のセッテイング、輸送のための資材を探したり、許可申請に必要な書類を揃えるなど結構仕事があります。リゾート気分に浸るほどの暇はないのです。

 さて、この国には2種類のカエルしかいません。うち1種類は外来種のオオヒキガエルです。このカエルは海外調査に行くと必ずと言って良いほど見かけます。残りは固有種のパラオガエルで、一見、日本のタゴガエルを少し大きくしたような感じの地味なカエルです。ハナトガリガエル科に分類され、繁殖様式は卵からカエルが生まれてくる直接発生とされています。パラオは一般的に6月~10月くらいまでは雨期とされており、その時期には至る所で「ケケケケ」というせわしない鳴き声を聞くことができます。多分、メイティングコールでしょう。オスは体長3cmほど、メスは倍近くになり56cmくらいになります。

 「カエルあるある」なのですが、鳴き声は聞こえても姿を見つけることはなかなか難しいものです。そのためカエルを捕まえる力量は個人差が出てしまい、今回も数人がかりで5匹捕まえている間に私は一人で10匹捕まえてしまいました。やはり長年カエルと付き合っていると彼らの動きや居そうな場所が分かるようになってくるのだと実感します。現地の方は素手でカエルを触るのを非常に嫌がります。毒があると思っているからです。毒はありますが、強毒ではありません。また、パラオから生物を持ち出すにはすべて許可証が必要となります。もちろん今回も許可を取り、無事日本へ連れてきました。このカエルは絶滅危惧種ではないのですが、自身で捕獲した生物はどのようなものでも愛着があります。しっかりと飼育し、繁殖につなげていきたいと思います。

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パラオガエル

鳥羽水族館 https://www.aquarium.co.jp/

 

※「カエル白書」(A5版 モノクロ 68ページ)Vol.1とVol.2は1冊1000円(税込・送料込)で販売しております。100年カエル館HP http://kaeru-kan.com でお申し込みいただけます。

Vol.1内容/◎黙阿弥のひ孫、演劇研究家氏のコレクション展(福島県立博物館にて)報告 ◎明治生まれのカエルグッズコレクター、小澤一蛙のコレクションから見えてきたこと ◎自然とカエルの話題 ◎カエル文化的話題 ◎高山ビッキ連載カエルコラム 他

Vol.2内容/◎「カエルアートミュージアム~進化するカエルアート」展(京王プラザホテルロビーギャラリーにて)報告 ◎カエル先生、岩澤久彰コレクション展」から見えたこと ◎第20回記念両生類自然史フォーラム報告 ◎カエルグッズでめぐる世界の“カエル旅” 他                                      

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2020年5月 3日 (日)

[カエル白書Vol.3」■日本両生類研究会の20周年記念誌『両生類に魅せられて』の紹介

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<日本両生類研究会の20周年記念誌『両生類に魅せられて』の紹介>

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日本両生類研究会(会長高橋久)は、昨年12月に『日本両生類研究会20周年記念 両生類に魅せられて』を刊行しました。

同誌には長年に亘って両生類の調査研究を続けて来た研究者や新しい視点で両生類の調査研究にとり組んでいる研究者の方々が寄稿されています。いずれもタイトルが物語るとおりカエルやサンショウウオに魅せられて研究活動を続けて来られた方々ばかり。

今回の「カエル白書」では、同誌『両生類に魅せられて』に報告された、カエルについての調査研究を取り上げ高山ビッキの視点からご紹介いたします。研究者の調査研究を通して撮影された、どこでどのように生息しているかが伝わるカエルの写真の数々も見どころのひとつ。表紙は前田憲男さんのアズマヒキガエルの写真です。

<「第1章 長年の調査研究の成果」よりカエルについての報告を紹介>

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トノサマガエル(新井克彦・画)

■土井敏男さん(元神戸市立須磨海浜水族園)の調査研究から見えたナゴヤダルマガエルについて

 日本のカエルには似て非なる種にトノサマガエルとダルマガエルがいることを知って、驚いたことがあります。さらにそのダルマガエルにはトウキョウダルマガエルとナゴヤダルマガエルもいて、またさらに「ナゴヤダルマガエルには岡山種族と名古屋種族があり、両者は形態や鳴き声が異なり、遺伝的に分化している(松井・前田,2018)」ことにカエルの世界の複雑さを知る思いがしました。

 土井さんは神戸市で見かけることが少なくなったナゴヤダルマガエルについて1997年からその生息状況を調査し始めました。その20年以上の調査研究の歩みを「神戸市におけるナゴヤダルマガエルの研究史」として報告しています。

 神戸のダルマガエルは岡山種族と名古屋種族のどちらの系統か。両者の分布域に挟まれた神戸市のダルマガエルについて、土井さんは外部形態と遺伝的解析いずれからも両種族の中間、もしくはトノサマガエルとの交雑の可能性も考えられると報告しています。

 

■桑原一司さん(日本オオサンショウウオの会)のグループの調査研究から見えた二ホンヒキガエルについて

 似て非なる種といえば、亜種の関係にある二ホンヒキガエルとアズマヒキガエルが西と東に分かれて生息していることも、日本のカエルの興味深いところではないでしょうか。

 二ホンヒキガエルの生息地は、本州の近畿より西南部、四国、九州と屋久島までの島で、アズマヒキガエルは近畿より東方に生息しています。近年どちらもその生息数の減少が懸念されるなか、桑原さんのグループは1997年から調査を始めた島根県邑南町(おおなんちょう)に生息する二ホンヒキガエルについて、その産卵地が消滅している現状を報告しています。

 ヒキガエルの産卵地は、新鮮な水が保たれる「止水」と呼ばれる場所で、そこに農業や道路工事等を通じて人がどうかかわったかで良くも悪くも環境の変化が見られることに、人とヒキガエルのこれからの関係について考えさせられました。

 

■小賀野大一さんと吉野英雄さん(千葉県野生生物研究会)、長谷川雅美さん(東邦大学理学部)の調査研究から見えたヌマガエルについて

 ヌマガエルの本来の生息地は、本州中部以西、四国、九州、そして先島諸島を除く南西諸島ということで、関東以北を生活圏としている人々にとってはあまり馴染みのないカエルだったのではないでしょうか。

 ところが20年ほど前からなぜか関東地方でもヌマガエルが発見されるようになったそうです。小賀野さんのグループでは、「房総半島における国内移入種ヌマガエルの分布:発見後20年間の変化」と題してその分布拡大について報告しています。

 移入の理由は植物などの搬送に伴う人為的なものから水鳥によるものまでいろいろと考えられるようですが、今後も拡大すると予測されるヌマガエルの分布は、自然環境に及ぼす影響も含めて両生類の研究者の間で大きく注目されているカエルの動向のひとつです。どんなところに生息しているのか細かく報告されているので私たちも気にかけてみたいものです。

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カジカガエルを思わせる石製のカエル(100年カエル館蔵)※記念誌には掲載されておりません。

■細井光輝さん、長谷川嘉則さん(公益財団法人かずさDNA研究所)の調査研究から見えたカジカガエルについて

 カジカガエルは、アマガエル、ヒキガエル、トノサマガエルなどと並んで、日本のカエルの中でも一般的によく知られた種と言えるのではないでしょうか。ただし、その姿を目にすることより、夏に渓流から聞こえてくるその鳴き声の美しさで、平安の昔から歌に詠まれるほど人を魅了してきた蛙(かわず)です。

 師弟のご関係でもある細井さんと長谷川さんは、記念誌に「兵庫県とその周辺におけるカジカガエル幼生2型の分布状況」を報告しています。お二人は幼生おたまじゃくしの歯列の地方的変異を発見したことから、各地の幼生の観察と記録を『カジカの記録帳』としてまとめました。

 日本のカジカガエルを東北(NE)型と西南(SW)型の2つのタイプに命名。その両方が混在する特異な地域が兵庫県で、特に鳥取県東部から兵庫県南部に流れる蒲生川の支流の小田川は両者が激突するホットスポットになっているそうです。カジカガエルのことを「小田の蛙」呼ぶことに通じているのでしょうか。

 

■南部久男さん(日本両生類研究会)の調査研究から見えたナガレヒキガエルについて

 本州には東にアズマヒキガエルがいて、西に二ホンヒキガエルがいますが、本州中部(中部地方、近畿地方)には渓流内で繁殖するナガレヒキガエルがいます。(さらに沖縄県など南にはオオヒキガエル、アジアヒキガエル、ミヤコヒキガエルが分布していることを考えると、日本を北から南までヒキガエルで語ることもできるかもしれません。)

 南部さんは東西のヒキガエルと分布域が重なるナガレヒキガエルに着目し、記念誌に「渓流におけるヒキガエル類の繁殖」として報告しています。

 20年以上に亘って調査した野積川が流れる富山県は、アズマヒキガエルとナガレヒキガエルがどちらも生息しています。調査では渓流内でアズマヒキガエルとナガレヒキガエルの雑種が形成された過程を追い、その背景にあると考えられる渓流環境の変化について論じています。

 

■尾形光昭さん(横浜市繁殖センター)、三浦郁夫さん(広島大学両生類研究センター)の調査研究から見えたツチガエルについて 

 著者のお一人三浦さんに高山ビッキは『ときめくカエル図鑑』のために取材させていただいたことがあり、研究対象としてのツチガエルの興味深さについてお話を伺いました。

 記念誌には「ツチガエルで起きている地域集団および種間のせめぎ合い」について報告しています。

 ツチガエルは、本州、四国、九州に広く生息する日本の固有種ですが、性別の決定にかかわる性染色体や性決定様式の違いから日本国内で、大きく5つの集団に分けられるそうです。尾形さんと三浦さんは、その地域集団各間でせめぎ合うように2つの集団が存在し、交雑を見せている場所を調査、特に琵琶湖南部や紀伊半島南部にせめぎ合いが見られることを報告しています。

 また執筆者のお二人は、今世紀に入りサドガエルを発見し新種記載したことで注目されました。報告では、佐渡島におけるツチガエルとその近縁種であるサドガエルのせめぎ合いについても報告しています。

 

<「第2章 最新の研究成果とあらたな視点」について>

 カエルを含む両生類に関しては、今世紀に入って若い研究者の方々が少しずつ増えているのではないえしょうか。本記念誌第2章ではそんな若手の研究者の方々を中心とした両生類に対する新たな視点の研究成果が報告されています。

 佐々木彰央さんによる「両生類とヒル類の関係」などこれまであまり着目されなかった切り口や、これからの両生類研究に求められる教育の大切さなどについての現場からの報告をとても興味深く読むことができました。

<「第3章 両生類研究をめぐるこの20年」について>

 日本両生類研究会が創設されてからの20年の歩み(熊倉雅彦さん)とともに、この20年で記載された新種や分布を拡大している外来種について(藤田宏之さん、佐藤直樹さん)取り上げられています。また、創設以来毎年発行されてきた機関誌「両生類誌」は、毎号その表紙に描かれた愛らしくも精細に表現されたカエルやサンショウウオの生物スケッチが魅力のひとつでした。創刊号から30号までの表紙絵を描いたのは同両生類研究会の野村卓之さんで、第3章では「両生類誌の表紙を飾った両生類」として各号の表紙画像を描いたときのエピソードとともにご覧いただけます。31号からの表紙絵は佐野美優さんにバトンタッチされています。

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 また、カエルについてコラムでは「君は何ガエル?―DNA解析からみたトノサマガエルとナゴヤダルマガエルの種間交雑―」(岩澤淳さん、光田佳代さん、冨樫麗衣さん)や、独自の視点でカエルを写真アートとして撮影する写真家吉村雅子さんの作品と撮影秘話が紹介されています。

 

<日本両生類研究会20周年記念誌『両生類に魅せられて』の編集に参加して>

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 高山ビッキは本記念誌に、日本両生類研究会の創設者であるまさに両生類に魅せられて研究生活を送った故岩澤久彰先生とカエルとのかかわりについて書かせていただき、カエルについて自然史のみならずカエルグッズを含め文化的に興味をもつ人々が増えたこの20年を振り返りました。

 そして、編集にかかわらせていただいたことで、日本の両生類であるカエルの調査・研究から見えたことに対して理解を深めることができました。

 特にここでも紹介したようにヒキガエルやダルマガエル、カジカガエル、ツチガエルなど聞き覚えのある名前の日本のカエルたちについて研究者が時間をかけて調査することで、そこに生息していたはずの種が減少もしくは消滅していたり、種と種の間で分布域のせめぎ合いが見られ交雑種が確認されたり、種によっては何らかの理由で本来の生息地ではないところに移入し分布域を拡大していたりと、非常に激しい変化が起こっていることを知りました。そうしたカエルの動向に対して人間がとるべき行動も含め、私たちとカエルのこれからの関係を考える上でベースになる知見をいろいろと示してくれる一冊です。

(高山ビッキ)

※日本両生類研究会20周年記念誌『両生類に魅せられて』は、市民科学出版 https://kahokugata.stores.jp/ やアマゾンからご購入いただけます。日本両生類研究会についてはhttp://www.nbs.jpn.org/ をご覧ください。

※「カエル白書」(A5版 モノクロ 68ページ) Vol.1とVol.2は1冊1000円(税込・送料込)で販売しております。100年カエル館HP http://kaeru-kan.com でお申し込みいただけます。

Vol.1内容/◎黙阿弥のひ孫、演劇研究家氏のコレクション展(福島県立博物館にて)報告 ◎明治生まれのカエルグッズコレクター、小澤一蛙のコレクションから見えてきたこと ◎自然とカエルの話題 ◎カエル文化的話題 ◎高山ビッキ連載カエルコラム 他

Vol.2内容/◎「カエルアートミュージアム~進化するカエルアート」展(京王プラザホテルロビーギャラリーにて)報告 ◎カエル先生、岩澤久彰コレクション展」から見えたこと ◎第20回記念両生類自然史フォーラム報告 ◎カエルグッズでめぐる世界の“カエル旅” 他

 

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2020年5月 2日 (土)

[カエル白書Vol.3」■2019年開催「100年カエル館のときめくカエルアート図鑑」展報告

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 100年カエル館は2019年9月18日(水)から10月27日(日)まで福島県立博物館(福島県会津若松市)で「100年カエル館のときめくカエルアート図鑑」展を開催しました。ここではそのときの展示風景の画像と展示の説明パネルを併せて紹介いたします。Web上での展覧会としてお楽しみいただけましたら幸いです。

<「100年カエル館のときめくカエルアート図鑑」展>

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福島県立博物館テーマ展「100年カエル館のときめくカエルアート図鑑」展開催にあたって

 本日はご来館いただきましてありがとうございます。

本展は、2011年、2016年に続き福島県立博物館との共催によるテーマ展です。

 今回は昨年100年カエル館に寄贈され、愛知県碧南市から喜多方市に引っ越して来た、カエルが好きでカエルの絵をたくさん描いた画家、故柴田まさる氏(1944-2015)の作品を紹介いたします。

 亡くなるまで43年間にわたって描いたその作品のほとんどがカエルを表現したもので、約80点の作品がカエルグッズやカエル関連の書籍等の収集品とともに会津にやってきました。

 職業画家ではありませんでしたが、一人の画家でカエルをテーマにこれほど多くの絵を遺した人は珍しいのではないでしょうか。

 100年カエル館では「カエルアート座標軸」を使用したオリジナルの分類方法により、たくさんの作品から柴田氏がカエルをどのように見つめ、捉え、創作上で進化させてきたかを、美術のジャンルに照らし合わせながら類推いたしました。

 本展におきましても100年カエル館企画制作による「カエルアート座標軸」で柴田まさる作品の全貌をご覧いただき、カエルアートの分類ごとに特徴が表れた作品をご鑑賞いただきたいと思います。

 柴田まさるのカエル愛から生まれた作品とともにカエルアートの世界の広がりを感じていただければ幸いに存じます。

2019年秋                                                            主催 100年カエル館

■「カエルアート座標軸」について

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 100年カエル館&カエ~ル大学では、2018年に故柴田まさる氏ご遺族からご寄贈いただいたカエルの絵を、「カエルアート座標軸」を作成して分類しました。

 マーケティング調査のポジショニングなどのために用いられる方法ですが、ひとりのカエル好きの画家がどのような感覚やスタイル、時代背景をもってカエルアートを描き続けたかを類推し、分類しながらその全貌を明らかにしていく作業はとても楽しいものでした。

 「カエルアート座標軸」では、X軸に「リアルライフ(=実在性、生命感)」と、逆の方向に「パーソナライズ(個人的、擬人化)」を置き、カエルの表現に込めた意味の方向性を示しました。Y軸では、その表現が一見してカエル的か人間的かの振れ幅で分けています。その2軸の交差から生まれる4つの象限に浮かび上がるジャンルを「花鳥画」「文人画」「ポップアート」「戯画」と分析し、柴田作品を位置づけてみました。

 本展ではその分類ごとに柴田作品を展示いたしました。ひとりの作家の作品に込められたカエルアートの多様性をお楽しみください。

■20世紀を象徴するカエルのポップアート

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20世紀を象徴するカエルのポップアート

 20世紀前半にフランス・パリを中心に活躍した画家で、日本人に今も人気の高いたとえばモネ、ピカソ、フジタ(藤田嗣治)。彼らの作品にはカエルに因んだ作品もあります。そして、20世紀後半に入り、アートシーンの中心がアメリカ・ニューヨークに移ると、ポップアートが流行します。その旗手と目されたアーティストがアンディ・ウォーホル。その作品にはアカメアマガエルを描いた作品があり、リアルなカエルの顔のつくりを線画で浮き立たせています。ウォーホルにとって、カエルはそのままポップアートだったのでしょうか。

 ポップアートは20世紀後半の消費社会を先取りした表現であり、その影響は当時単身NYに乗り込んだ篠原有司男をはじめ日本人アーティストにも及ぶなか、若き日の柴田まさるも何らかの刺激を受けていたといえるかもしれません。ミニマルに抽象化した(=必要以上の装飾や説明を削ぎ落とした)カエルの表現やメッセージを伝えるメディア性が感じられるカエル作品をここでは柴田のカエルのポップアートと捉えてみました。

[柴田さんのマルメタピオカガエル] 

 南米に分布するマルメタピオカガエルは柴田作品にも何点か描かれているように、両目がくっつき、口が異様に大きいカエルです。日本では見られないいわば“おもかわいい”顔のカエルですが、柴田はこのカエルにかなり創作意欲をかき立てられていたのではないかと想像します。背中を描いても顔を含めたユニークな体の構図全体を表現することができ、リアルに描くこともあれば、ポップに昇華させて表現することもありました。

■江戸絵画がルーツかカエルの文人画

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江戸絵画がルーツかカエルの文人画

 柴田まさるの文人画のカエルの大きな特徴は、カエルを正面から見て描いた画面いっぱいの顔にあります。柴田はカエルの顔をたくさん描いていますが、その中で“カエルっぽいのに人間っぽい個性が感じられるカエルの顔”をここでは「文人画」に括ってみました。

花鳥画同様、中国から移入し江戸中期以降盛んになった文人画。江戸時代には南画(南宋画に由来)とも呼ばれ、職業絵師のみならず武士や町人たちがその担い手になることも。また、動物に見立てた自画像も文人画として描かれました。江戸中期以降、蛙や蝦蟇(がま)を描いた作品がしばしば見られるのは文人画の流行と関連しているのかもしれません。

 たとえば、江戸中期の京都の絵師伊藤若(いとうじゃくちゅう)冲が描いた画巻「菜虫譜」には、終盤部に老いた風情のガマが登場します。そのそばには「七十七歳画」とあり、晩年の若冲本人と考えられています。同時代の大坂には、カエル好きだったことが文献に残る表具師で絵師の松本奉時(まつもとほうじ)がキャラクター性豊かなカエルを描き、その掛図は縁起物としても人気がありました。

■背中がいのちの花鳥画のカエル

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背中がいのちの花鳥画のカエル

 花鳥画は、広い意味では文字通り花(植物)や鳥(動物)を表現した絵画です。江戸時代以前に、唐絵(中国絵画)と大和絵が融合していくなかで描かれるようになったといわれています。盛んに描かれるようになったのは江戸中期以降。享保16年(1731)頃、日本に滞在して南蘋画(なんぴんが)と呼ばれる花鳥画を広めた中国の画人、沈南蘋(しんなんぴん)の影響が大きかったといわれます。この画人の花鳥画に、カエルも吉祥のシンボルとして描かれています。

 柴田は自然観察をしたり、図鑑を参照にしたりすることで、カエルをリアルに表現する作品にも取り組みました。背景の自然描写はありませんが、カエルの種名も記して生きもの本来の姿に忠実に描こうとした作品をここでは柴田まさるの「花鳥画」と考えました。特に後ろ姿にこそカエルらしさを感じたのか、晩年にも描いています。江戸後期の花鳥画、葛飾北斎の「蛙とゆきのした」や歌川広重の「山吹に蛙」のカエルが、背中に焦点が当たっていることに一脈通じている気がします。

■自然のリアリティから生まれた戯画のカエル

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自然のリアリティから生まれた戯画のカエル

 若い頃に漫画家をめざしたこともある柴田は、冊子の挿絵として描いたコミカルなカエルの絵や戯画のジャンルで捉えられる作品も描いています。世代的には漫画家志望の若者の多くに絶大的な存在だった手塚治虫に憧れ、リスペクトするカエル作品も遺しています。

 カエルアート座標軸では「リアルライフ(=実在性)」と「ヒト型」から生じる象限で、「戯画」のカエルを捉えてみました。日本の漫画のルーツともいわれる「鳥獣戯画」の昔からカエルは擬人化して描かれることがありました。鳥獣戯画のカエルもトノサマガエルと種が特定できるように、人間っぽさとリアルさが同居して描かれています。柴田作品の戯画もそのベースには、天敵のヘビとの緊張関係や、天敵に見つからないように進化させた、たとえば木の葉やコケと化して姿を隠す忍者のような生態、生きている昆虫に目がないカエルの旺盛な“捕食欲”など、自然界におけるカエルの生命力に満ちた生活行動、必死に生きているからこそ生まれる愛らしさがあります。

■遊び心と自然信仰から生まれたカエルの仏画

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遊び心と自然信仰から生まれたカエルの仏画

 柴田作品には仏画を描いたと考えられる絵がいくつかあります。カエルの顔をした菩薩像や如来像が描かれているのでカエルアート座標軸上では「ヒト型」で、オタマジャクシ(幼体)やカエル(成体)、またその変態のプロセスとともに表現していることで、「リアルライフ(=生命の大切さ)」を伝える「戯画」の領域に位置付けています。

 平安末期に生まれた「鳥獣戯画」にカエルが御本尊の姿で登場することを考えると、仏画と戯画の相性の良さが受け継がれているように感じられます。「鳥獣戯画」は京都栂尾山高山寺に由来する絵巻ですが、同寺にはまた開祖明恵上人(みょうえしょうにん)の肖像画「明恵上人樹上坐禅像」が伝わります。上人が松林の中で小鳥や栗鼠(リス)など小動物とともに描かれています。柴田作品でもいろいろな動物たちが見え隠れする森の中にカエルの如来像が現れた作品があり、明恵上人の姿を借りているようにも感じられます。

[カエルのおもちゃ絵]

 日本にはおもちゃ絵という表現の分野があり、江戸時代から子ども向けに描かれていたと考えられますが、大正から昭和にかけては失われゆく江戸期の郷土玩具へのノスタルジーから趣味人の間で流行しました。100年カエル館ではカエルグッズを描く“カエルのおもちゃ絵”を推奨しています。集めたカエルグッズを描きたくなるカエル好きは少なからずいるようで、柴田まさるもカエルの仏様のまわりにいろいろなカエルグッズを配したおもちゃ絵をはじめ数点描いています。

(高山ビッキ)

※「カエル白書」(A5版 モノクロ 68ページ)Vol.1とVol.2は1冊1000円(税込・送料込)で販売しております。100年カエル館HP http://kaeru-kan.com でお申し込みいただけます。

Vol.1内容/◎黙阿弥のひ孫、演劇研究家氏のコレクション展(福島県立博物館にて)報告 ◎明治生まれのカエルグッズコレクター、小澤一蛙のコレクションから見えてきたこと ◎自然とカエルの話題 ◎カエル文化的話題 ◎高山ビッキ連載カエルコラム 他

Vol.2内容/◎「カエルアートミュージアム~進化するカエルアート」展(京王プラザホテルロビーギャラリーにて)報告 ◎カエル先生、岩澤久彰コレクション展」から見えたこと ◎第20回記念両生類自然史フォーラム報告 ◎カエルグッズでめぐる世界の“カエル旅” 他

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2020年5月 1日 (金)

カエル白書Vol.3■絵本の中に“生息する”カエルたち/民話を基にしたカエルの絵本

絵本の中に“生息する”カエルたち

<民話を基にしたカエルの絵本>

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 カエルを通して自然のことを知るきっかけになる絵本もあれば、人間の長い営みの中でカエルを通して教訓などを伝える民話を基にした絵本もあり、カエル大学2019の第2回講座でも何冊か紹介しました。

 民話をモチーフにした絵本を紹介するためには現代に伝わっている民話の種類を知る必要があります。同講座では、カエルが登場する民話について長く研究されてきた藤沢浩憲さんがかえる友の会から発行された『日本蛙昔話30選』を参考にさせていただきました。

<カエルの昔話について>

 『日本蛙昔話30選』(以下『30選』)で著者の藤沢氏は、明治大正時代から昭和5060年代までに採集された日本の昔話約6万話が収録されている『日本昔話通観』(稲田浩二・小澤俊夫責任編集/以下、『通観』)からカエルが登場する話をひとつひとつピックアップしています。

 その結果、カエルの昔話は約1800話見つかり、昔話研究で使われる「話型」により分類できるものが、170種類ほど確認できたそうです。カエル大学2019の第2回講座ではその分類を参考に100年カエル館所蔵の絵本を何点か紹介しました。

 原典となる民話を充分に理解していない点が多々あるかもしれませんがなじみやすい絵本から始めて、カエルが民話の世界への扉を開いてくれるような試みになれば幸いです。 

■「人とカエルの結婚」

 「人と蛙の結婚」(=異類婚姻譚)を扱った日本の民話は『通観』に約120話あります(『30選』)。

 人とカエルが結婚するという設定は不思議な気がするのですが、グリム兄弟が集めたフランスの民話にも、私たち日本人にも親しまれている『カエルの王様』の基になる話があり、カエル(実際は人間の王子)がお姫様に求婚することを考えると、「人と蛙の結婚」が洋の東西を問わず民俗学的に何かを象徴するものであると想像できます。

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中国民話『青がえるの騎手』 斎藤公子(編集)T.チエルシノヴァ(絵)創風社

 中国民話においても「人と蛙の結婚」は重要な意味をもつようです。以前テレビのドキュメンタリー番組で、中国の少数民族のイ族は人間と結婚する前に蛙や木と結婚する風習があることを紹介していました。講座で紹介した『青がえるの騎手』(編集・斎藤公子 絵・T.チェルシノヴァ 創風社刊)では、子どものなかった老夫婦に待望の子どもが生まれたのですが、その子はカエルでした。

 人間の言葉を話すそのカエルが、ある時、お嫁さんをもらってくると言って長者の家を訪ねます。そして、長者の娘を自分の嫁にほしいと申し出る。当然長者は拒否しますが、カエルは超自然的な現象を起こすことで、長女と次女には断られたものの最終的に三女をお嫁さんとして連れて帰ることができました。

 講座では日本の民話を基にした絵本『かえるむすめ』(古田足日・文 久米宏一・絵)も紹介しました。この絵本では、おじいさんがヘビに呑み込まれそうになっていたカエルを助けるために、自分の娘を嫁にやるとヘビに約束してしまいます。約束通りおじいさんの家に娘を嫁にもらいにやってきたヘビ。3人いる娘のうち長女と次女はイヤだと言ったのですが三女が同意し若者の姿をしたヘビについて行きます(そして三女はそのヘビを退治することに成功します。)

■「うばっ皮」もしくは「かえるの恩返し」 

 中国の『青がえるの騎手』も日本の『かえるむすめ』にも続きがあり、これがいわば中国、日本の各地に伝えられる民話「うばっ皮」もしくは「かえるの恩返し」基にした物語の展開になっています。

 『青がえるの騎手』の場合、結婚したカエルと娘は老夫婦と幸せに暮らしていたのですが、カエルは本当は「西の果てにある宮殿」の王子で、人間の姿で生きられる力をつけるまで「かえるの皮」をかぶっていなければなりませんでした。ところが、自分の力を試すために「青がえるの騎手」として姿を見せてしまったことで、妻が汚いかえるの皮を焼いてしまい……。

 『かえるむすめ』のカエルの皮は、カエルがヘビに襲われそうになったときに救い退治してくれたおじいさんとその娘への恩返しのために、娘がヘビを退治した後道中安全に帰れるようにと与えてくれた、かぶるとカエルのように見える「うばっ皮」でした。おかげで無事に町にたどり着き長者の家に雇われた娘ですが……、この後はシンデレラストーリーのような展開がありカエルのように見えた娘が長者の跡取り息子にみそめられて結婚する話になっています。

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『かじかびょうぶ』川崎大治(文)太田大八(絵)童心社

 「かえるの恩返し」としては、伊豆に伝わる話を児童文学作家の川崎大治が再話した『かじかびょうぶ』(文・川崎大治 絵・太田大八 童心社刊)があり、なまけものだった菊三郎のもとにやってきたカジカガエルが屏風の絵になり願いを叶えてくれた菊三郎に恩返しし、最後は菊三郎の魂とともに山に帰って行くという美しい話です。

■「餅争い(もちあらそい)」 

 藤沢さんはカエルが登場する民話に関する長年の調査から、「蛇婿入り」と「餅争い」という話型を日本の「蛙二大話」に位置付けています。

 「蛇婿入り」は先に紹介した絵本『かえるむすめ』の前半にも見られますが、これは世界的によく見られる話で、「餅争い」の方は日本固有の話だそうです(『自然と民話―蛙・柿・時鳥―』P.14

 講座では「餅争い」をベースにした絵本は、新潟県に伝わる話をもとにした『蟇と猿』(山田貢・文 太田大八・絵 文化出版局刊)と、山形県の昔話を再話した『さるとびっき』(武田正・再話 梶山俊夫 画)を紹介しました。

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『蟇と猿』山田貢(文)太田大八(絵)文化出版局

 どちらも1980年代初めに出版された絵本で、「餅争い」という話型は「通観」に332話あり(「30選」)、話の発端の部分の餅の調達のしかたで「1 餅を盗んで来る」「2 餅米を調達して餅つきをする」「3 米作りから始める」の3種類に分かれるようですが、この2冊はヒキガエルとサルで米作りから始めて餅を用意します。

 ただし毎日毎日農作業に出かけるのはヒキガエルで、サルは仮病を使ってはさぼってばかり。ところがそのサル、もち米ができてからは俄然やる気を出し、自分がリードして餅つきをすると、でき上がった餅を山の上からうすごと転がして早くうすにたどり着いた方が餅を全部食べられる「餅争い」をしようと言い出します。

 その結果、うすに到着したのはサルが早かったものの、転がっている途中、餅は全部うすからとび出して草木にひっかかり、食べることができたのは後から来たヒキガエルの方でした。最後はさすがの人のいいヒキガエルもサルに分けてあげる気にはならず……。

 この後、山形の昔話の再話では、あんまりしつこく餅がほしいというサルの顔とお尻に、ヒキガエルがあつい餅をぶつけたので、サルの顔やお尻は赤いのだという理由のオチになっています。

 両絵本が新潟と山形、米どころに伝わっている昔話をもとにしていることも納得できます。山形ではあてにしない物を手に入れることを「蛙、餅拾った」と言うそうです(「30選」)。

■蛙の失敗

 『日本蛙昔話30選』では、その他にもカエルが登場する昔話はいくつかの切り口に分けられています。

 その切り口のひとつに「蛙の失敗」があります。カエルはその体の特徴から人間をまねて同じようなことをするととんでもない失敗をしそうなイメージがあるのでしょう。特に目の位置のせいでもし人間のように2本足で立ち上がったとすると前方を向いたつもりが後方を見ることになる想像から、愚かさを風刺するような「京の蛙、大阪の蛙」といった昔話が生れています。

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『かえるのあまがさ』与田順一(文)那須良輔(画)童心社

 また、カエルは後ろ足で立つと後ろ向きになって前が見えないところから、むこうみずな人々の集まりは「蛙の行列」ということわざになっています。講座では、「蛙の行列」も見られる昭和52年初版の絵本『かえるのあまがさ』(文・与田順一 画・那須良輔 童心社刊)を紹介しました。与田準一(1905-1997)は福岡出身の詩人で、この絵本では「あまがさをさしたかえるのぎょうれつ」が童謡のように綴られています。

(高山ビッキ)

※「カエル白書」(A5版 モノクロ 68ページ)Vol.1とVol.2は1冊1000円(税込・送料込)で販売しております。100年カエル館HP http://kaeru-kan.com でお申し込みいただけます。

Vol.1内容/◎黙阿弥のひ孫、演劇研究家氏のコレクション展(福島県立博物館にて)報告 ◎明治生まれのカエルグッズコレクター、小澤一蛙のコレクションから見えてきたこと ◎自然とカエルの話題 ◎カエル文化的話題 ◎高山ビッキ連載カエルコラム 他

Vol.2内容/◎「カエルアートミュージアム~進化するカエルアート」展(京王プラザホテルロビーギャラリーにて)報告 ◎カエル先生、岩澤久彰コレクション展」から見えたこと ◎第20回記念両生類自然史フォーラム報告 ◎カエルグッズでめぐる世界の“カエル旅” 他

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