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2012年11月26日 (月)

2000年 旧吉屋信子邸(先人の暮し方に学ぶ)

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旧吉屋信子邸(鎌倉市)

吉屋信子が遺した家が物語る

作家の真実と建築家の思想

高山ビッキ・文

作家吉屋信子(18961973)のイメージは、その作品世界によって二つに分かれるかもしれない。女学生の頃から自分の作品を少女雑誌に投稿していた吉屋信子は、大正5年、信子20歳の時から始まった『花物語』の連載で当時多くの女性ファンを魅了した。

中原淳一の挿絵と相まってその世界は少女の憧れを誘う西洋的なロマンチシズムに溢れていた。人気作家となってからは髪型をショートボブにし、いわゆるモガの草分け的存在であった。つまり、初期の作品からは「少女小説」作家の印象が強く、また、題材に女性同士の友情などを描くことから、男性中心の社会に批判的なフェミニストと見られることも多い。

しかし、天性の文章家である吉屋信子は、身の回りに起こることことから社会の動き、世界の動きにまで絶えず敏感に反応し、素直に表現してきただけで、決して「少女世界」や「女の世界」を専売特許にしたわけではない。その証拠に、年を重ね見聞を広めていくなか、独自の歴史小説をものするようになる。晩年の吉屋信子は、『徳川の夫人たち』『女人平家』といった歴史小説を書く、堂々たる女流作家として和服姿のイメージを記憶している人も多いだろう。

吉屋信子は生涯を独身で通した。そして自分の力で邸宅や別荘を何度か建てている。この家は、昭和37年に建てたいわば終の住みかである。これを設計したのが吉田五十八。信子が吉田に設計を依頼したのはこれが三度目になる。過去に牛込砂土原町(昭和10年)と二番町(昭和25年)に吉田五十八の数奇屋の家を建てている。

吉屋信子に初期の「洋」のイメージを重ね合わせる人にも、晩年の「和」のイメージを抱く人にも、この家は意外な印象を与えるかもしれない。そしてその意外性こそ、当時新しい数奇屋といわれた吉田の建築の思想の一端と、吉屋の真実を物語っている。

■ビッキの住宅温故知新

吉屋信子がそだてた新しい数奇屋

吉屋信子は昭和元年、下落合にテラスの張り出したバンガロー風の洋館を建てている。これはまさに信子の初期の作品をイメージさせる家といっていい。

ところが昭和3年から4年にかけての一年間、モスクワからアメリカまで世界を西回りでぐるりと見てきた信子は、帰国後、日本人としての自分を強く意識するようになる。そうした経験の後、信子は吉田五十八と出会っている。まだそれほど知られる前の吉田に、信子は、「イスの生活ができる日本建築にしてほしい」とだけ希望を伝え、あとは自由に任せた。

自らの数奇屋建築を求めて途上にあったこの建築家にとってかなり大胆な実験の場を与えられることとなった。吉田自身何かの建築誌に「新しい数奇屋の、そもそも発祥の家が、当時の吉屋さんの家だとすると、吉屋さんはさしずめ新しい数奇屋の生みの親といえるかもしれない」と書いている。

施主が建築家を育てた好例であり、両者の心の高貴さが感じられる数奇屋建築である。

★写真(上から)

1、庭から見た外観。家の向こうには樹齢2300年のたぶの木がみえる。庭に植えられたオールドローズは信子の好きな花だった。

2、数奇屋風の腕木門。塀は腰板付き、瓦葺の壁塀。

3、銅版葺屋根の玄関。ポーチ・玄関内部の床は玄昌石の四半貼り。

4、和室続きのリビング。ソファは吉田五十八設計の造り付け。座った時の目線と和室に座したときの目線が同じ高さになるように設計している。

5、和室は6畳だが、縁側と床框にケヤキを使った広い床の間によって広く感じる。

6、執筆に集中できるようにと書斎はあえて北向きに。暗くなりがちなので天窓を付け、中に蛍光灯を入れている。

7、花を愛した信子の広い和風庭園。

20007月住宅メーカーPR誌掲載)

■吉屋信子記念館

神奈川県鎌倉市長谷1-3-6

お問い合わせ:鎌倉生涯学習センター

TEL.0467(25)2030

※この文章は高山ビッキが2000年に企業のPR誌に執筆したものをほぼそのまま掲載しております。写真の掲載につきましても再度許可をいただき使用しております。無断転載を固く禁じいたします。※本サイトへのお問い合わせはケーアンドケーまで03(3981)6985

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