1996年 ファッション雑誌の足もと
「ファッション雑誌の足もと」
片岡義男 文・写真
外国のファッション雑誌を見ていると楽しい。見るたびになにかをそこに発見する。ずっと以前に僕が発見したことのひとつは、ページの下のほうには、椅子やソファにすわったモデルたち、あるいはさまざまな立ち姿でポーズしている彼女たちの、足もとがあるという事実だ。
あたりまえと言うならごくあたりまえのことだが、これが造形的にあるいはデザイン的に、なんとも奇妙な光景で面白い。ページをくりながら、その下のほうだけを見ていく。モデルたちの足もとだけがそこにある。どれもまったく見分けがつかないほどによく似ている。おたがいにすべてが相似形だ。それでいて、どの足もとも、ヴァリエーション豊かに、デザイン的に異なっている。
接写レンズをつけた一眼レフのカメラで、僕はファッション雑誌の足もとを見ていく。ファインダーの小さな長方形のスペースを使って、ヴァリエーション豊かな、そしてあからさまに女性的な足もとを、僕は切り取っては撮影してみる。カメラによる切り抜きだ。
いつのまにかたくさんたまったカラー・リヴァーサルを、五十枚ほどライト・テーブルに広げて観察すると、その光景は壮観だ。男性と女性に厳しく明確に二分された装いのうち、女性のほうの装いを完結させる足もとが、乱舞している。
十年くらい前まではどこかに丸い優しさを残していた彼女たちの足もとは、いまでは鋭い攻撃的な雰囲気を高めきったようだと僕は思う。
(1996年4月住宅メーカーPR誌掲載)
※この文章と写真は片岡義男さんの許可をいただいて掲載しております。無断転載を固く禁じいたします。※本サイトへのお問い合わせはケーアンドケーまで03(3981)6985
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