2009年 ネイチャー・ネットワーク消費(生活トレンド分析)
便利さを優先せず、ゆっくり育む
ネイチャー・ネットワーク消費
高山ビッキ・文
21世紀に浮上する「自然」とのつながり
100年に1度の大不況といわれるなか、その背景のひとつに20世紀に人間がめざしてきたものの行き詰まりがあるだろう。その証拠に、不景気といわれながらも人々に求められ確かに動いている市場は、20世紀にむしろ退けられていたものだからである。その最たるものに、自然とのつながりがある。
エコロジーという言葉が企業活動のテーマになって久しいが、それが生産のしくみや流通システムとは真逆の価値観だっただけに、大きな方向転換を実現するには至らなかった。その結果の行き詰まりのようである。
そうこうしているうちに、消費者は自らの生活環境やネットワークを活かして、失いかけた自然とのつながりを回復させているようである。それを今回の分析では、ネイチャー・ネットワーク消費として、関連する消費動向や時代のキーワードを位置づけてみた。
身近な自然とのネットワーク
現在は、インターネットが社会基盤化するネットワーク時代である。ネットワーク社会というと、ともすると個人と個人をつなぐバーチャルな世界をイメージしてしまうが、21世紀に入り消費者が求めているのものは、自然につながるためのネットワークである。
これは大きくは、身近な自然につながる方向と地球規模に広がる遠くの自然につながろうとする方向があるようだ。身近な自然の取り組みでは、自宅の小さな庭で栽培した野菜を食卓にのせるキッチン・ガーデンや、生物が生息する場所、ビオトープを広げようという地域ぐるみの運動を、さらに自宅の庭づくりにも活かしていこうというビオトープ・ガーデンなどが挙げられる。こうした試みは、自冶体がヒートアイランド対策も見据えた住まいの屋上・壁面緑化という切り口で助成するなどして推進しているところも多い。
ものが売れないといわれるときに賑わっている売り場といえば、ファーマーズ・マーケットである。その形式は、農協や道の駅の大規模直売所から野菜の自販機までさまざまだが、地域の自然や顔の見える農家とのつながり感じられる「地産地消」「身土不二(しんどふじ)」にもとづく、いま最も熱く語られるアグリ・マーケティングの最前線といえるだろう。
地球全体の自然環境と関われる時代
最近は、レストランでも家庭でも、食材選びにはトレーサビリティ(生産者をたどれること)を意識することが、安全・安心な食を守るために不可欠になっている。
インターネットを通じて家庭と農家も直接につながるので、自分の故郷の食材や旅先で味わって気に入った食材などをお取り寄せする消費行動も定着した。インターネットと食べ物を介して国内の遠くの自然とつながる方法といえる。
また、日常的に世界の自然とつながる方法もある。発展途上国の食品や工芸品などを公正な価格で購入するフェアトレードや、商品を購入するだけで自然破壊が進んでいる地域の保護活動に協力できる、自然保護基金付き商品などがある。特定の地域の自然保護に役立っていることが付加価値となり、手軽に参加できる社会貢献として参加する人が増えているという。
生活のなかで身近な自然や地球規模の自然と交流していこうという消費者の意識は、旅先で地産地消し地元の食を楽しみ、ありのままの自然を見に行くエコ・ツーリズムの人気にもつながっている。観光と生活が結びついた21世紀ならではの豊かさが感じられるプランだ。
そして観光客を迎え入れる地元では、その地域が長い時間をかけて育んできた自然や風土、そこから生まれる生活文化、伝統工芸などをそのままひとつのミュージアムとして見せるエコ・ミュージアムに力を注いでいるところが増えた。人と自然のネットワーク消費とは、生活の便利さを追求する20世紀的価値観とはまるで正反対で、ときには不便さも承知でゆっくり時間をかけて育む生活スタイルといえるだろう。
(2009年冬)
※この文章は高山ビッキが2009年に企業のPR誌に執筆したものをほぼそのまま掲載しております。無断転載を固く禁じいたします。 ※本サイトへのお問い合わせはケーアンドケーまで03(3981)6985
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