1992年 一筋縄ではいかない、ジャズと恋(映画 特集テーマ)
<特集テーマ・ジャズの心意気で>
一筋縄ではいかない、ジャズと恋
高山ビッキ・文
その日、私は、本人曰く“売れないミュージシャン”に取材してきたところだった。“売れない……”とは、テレビなどに取り上げられる機会が少なく、一般に知られていない、という意味だ。でも、ジャズやブルースが好きで、こまめにライブスポットをチェックしている人なら、そのピアニストとしての才能を知っている人も多いはず。日本にもそんな埋もれたミュージシャンは多い。
そして、「恋のゆくえ」を観た。勢い私の関心は、日米であまり差のない〝売れない……〟事情に向いてしまった。おかげで邦題よりも原題の「ファビュラス・ベイカー・ボーイズ」に共感できた。(因みに、ピアニストのベイカー兄弟を本当の兄弟が演じている)
二人は、ホテルラウンジを中心に地道な音楽活動を続けてきたが、小悪魔的で猫のように魅惑的な女性、スージーをシンガーに迎えることで、デュオとしてのバランスを崩していく。映画ではデュオ解散後ただの兄弟として、会話のように演奏するシーンがいい。
スージーといえば、いまどきの女性のしたたかさを見せ、一人コマーシャリズムに乗ったのだが、そこで初めて、〝売れること〟と〝売れない〟ことの意味を、そしてベイカー・ボーイズの素晴らしさを知る。
「ニューヨーク ニューヨーク」では、ナンパな感じのサックスプレイヤー、ジミーが強引さでは落とせなかったフランシーンを、音楽を通して魅了していく。が、結婚後の生活はうまくいかず、アーティストとしてはフランシーンの方が成功してしまう。彼女の成功の秘訣は、発掘したプロデューサーによれば歌の上手さだけではない、「声同様に性格が甘くソフト」という指摘にある。
ミュージシャンとは往々にして我儘で、コドモの部分を多く残している。ジミーはその典型。そんな彼を包んであげることのできたフランシーンだからこそ、不特定多数のファンに歌手として愛情を捧げることもできたのだ。
生きている時代設定は違うが、スージーもフランシーンも自分で歌える女性だ。自力で成功を勝ち取ろうとする。他力本願的な女性じゃない。だから、魅力的だがあぶないミュージシャンとの、ライブセッションのような恋ができたのだろう。自分の人生の中でとびっきりの〝シンガー〟になれたら、ジャズ(恋)はもっとおもしろくなる。
■「恋のゆくえ/ファビラス・ベイカー・ボーイズ」(初公開1989年) 監督+脚本:スティーブ・クローブス 出演:ボー・ブリッジス ジェフ・ブリッジス ミシェル・ファイファー 製作国:アメリカ
※一人の女性シンガー(ミシェル・ファイファー)と兄弟ピアノ・デュオ(ジェフ&ボーブリッジス)織り成すジャジーな大人の関係を描いたドラマ。デイブ・グルーシンが音楽を担当。
■「ニューヨーク ニューヨーク」(1977年製作) 監督:マーティン・スコセッシ 脚本:アール・マックローチ マルディク・マーティン 出演:ライザ・ミネリ ロバート・デニーロ 製作国:アメリカ
※戦後のNYを舞台に、野心的なジャズマン(ロバート・デ二-ロ)と新進歌手(ライザ・ミネリ)が繰り広げる恋と現実のお話。40~50年代のジャズを堪能できる。
(1992年1月ファッション専門店PR誌掲載)
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※この文章は高山ビッキが1992年に企業のPR誌に執筆したものをほぼそのまま掲載しております。無断転載を固く禁じいたします。 ※本サイトへのお問い合わせはケーアンドケーまで03(3981)6985
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