1995年 切手という不思議
「切手という不思議」
片岡義男 文・写真
外国から手紙が届くたびに、不思議だなあ、あんな遠いところからよくも届いたなあ、と僕は思う。郵便システムがあるから届くのだ、ということはよくわかっている。世界の郵便システムは、ほとんどかたときも休むことなく、機能し続けている。
そのスケールの全地球的な巨大さと複雑さに思いをはせるとき、世界の郵便システムは轟々と音を立てて機能している、などという表現を僕はしたくなる。
そしてそのシステムは、不思議さの余地など、まったくないと言っていいほどに、発達している。僕の日常のなかへいきなり外国から葉書や封書が届くとき、轟々と音を立てて機能しているはずの世界の郵便システムを感じさせるものは、投函した人が貼り、投函地の郵便システムが消印した、その現地の切手だけだ。
片隅に貼ってある小さな四角い紙が、基本的には世界のどこからでも、僕の手もとに葉書や手紙などを運ぶ。受け取ってつくづくと切手を見ていると、僕の日常の場所からその手紙や封書の投函された外国までの距離を、僕は感じないわけにはいかない。
あんなところからこれがなぜ届くのか、ほんとに不思議だ、と僕は思う。貼ってある切手とその周辺の様子が、僕の写真心をとらえる。だから僕はその光景をよく写真に撮る。
切手が一枚だけなのは、パリからだ。消印はモンパルナスとなっている。切手が二枚あるのは、温泉を楽しみながらアラスカでオーロラの出現を待っている、写真家からのものだ。そして切手がたくさん貼ってあるのは、何年も前、アメリカの友人が資料を送って来てくれたときのものだ。
(1995年11月住宅メーカーPR誌掲載)
※この文章と写真は片岡義男さんの許可をいただいて掲載しております。無断転載を固く禁じいたします。※本サイトへのお問い合わせはケーアンドケーまで03(3981)6985
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