2007年 ヒメコさんが「イケメン」を消費する理由
<生活トレンド分析>
「ヒメコさんが「イケメン」を消費する理由」
高山ビッキ・文
今、女性がなぜこれほどまでにイケメンを追い求めるのか。そこには男性がビジンを欲するのとは明らかにちがう心理が読み取れる。「イケメン」を消費する中心層をヒメコとヒメハハと名づけて分析してみた。
マリー・アントワネットと団塊ジュニア女性
ソフィア・コッポラ監督の映画「マリー・アントワネット」が日本でも公開され話題になった。
作品は、14歳でオーストリアからフランスのルイ16世のもとに嫁いで栄華を誇ったが、最期はフランス革命によりギロチンで処刑されたマリー・アントワネット(1755~1798)が主人公。ヴェルサイユ宮殿で規律ばかりの生活のなか、彼女はファッションやスイーツ、パーティなどの浪費に走る。その描写が現代のごく普通に生きる女性の共感のためいきを誘う。
小倉千加子(医学博士、心理学者)は、その著書『結婚の条件』(朝日新聞社)で、いわば「勝ち組」の主婦は、結婚によって階層上昇できなかった女性に対し、マリー・アントワネットのように次のように言うだろうと書いている。「子育て中は子育てに専念し、おまけに社交も怠らないでいられるような結婚をなぜしなかったの。それ以外にどんな結婚があるの…」
現在、結婚適齢期とされる20代半ば~30代後半(主に団塊ジュニア)の女性たちの未婚率は37%。約4割が未婚という統計(2005年国勢調査)が出ている。彼女たちが「結婚」の二文字を前に焦りを覚えつつ、二の足を踏むのは、前記のような勝ち組主婦のひと言を無視できないからかもしれない。
高度経済成長期以後、日本は核家族化が進んで、子どもの数は「姫一人、太郎一人」がメインとなり、その典型が「団塊ジュニア」と呼ばれる世代の人たちだ。団塊世代の親たちによってバブル景気の最中、欲しいものを我慢しないでのびのびと育てられた女性も多い。ここでは、そんな彼女たちを「ヒメコさん」と呼ぶことにする。
ヒメコさんは、お姫様のようにワガママに育ったものの、成人して社会に出ると〝下界〟はバブル崩壊後の雇用環境厳しい世の中。さらに、団塊世代の親は大量定年を迎える2007年問題へと突入。マリー・アントワネットの結婚が国家の一大事であるように、ヒメコさんの結婚も一家の一大事となってきたのだ。
ヒメハハとともに「イケメン」遊び
団塊母娘は消費行動をともにすることが多い(『新女性マーケットhanako世代をねら!』牛窪恵・著/ダイヤモンド社)ようだ。
一緒に行動するといっても、母娘ならではの金銭面や情報面における役割分担や微妙な協力関係があるようで、ヒメコさんが時代的に決して恵まれているとはいえない雇用状況の中でも、エステやグルメ、ショッピングを謳歌できるのは、このヒメハハの力がおおきい。
ヒメハハも決して娘のためだけを思って行動をともにするわけではない。娘を通してなつかしい若き日を思い出したり、若い頃にはできなかったことを実現するのが、子育てを終えた現在の生きがいのひとつにもなっている。そんな母娘の消費行動の原動力になっているのが、〝イケメンに対する擬似恋愛消費〟とでも呼べる消費行動である。
このイケメンを消費する女性たちの存在を強く印象づけたのは、まだ記憶に新しい「ヨン様ブーム」だろう。俳優やタレント、ミュージシャンなどに対する「追っかけ」行為は昔からあるが、それを40~60代とおぼしき熟年の女性たちも実行している姿が世間を驚かせた。
なかでも団塊世代のヒメハハは、ヒメコを伴って韓国に旅し、ヨン様主演で大ヒットした「冬のソナタ」のロケ地まで行き、相手役のヒロインになりきってお互いに写真を撮り合った。
こうした団塊母娘の消費行動は、母娘にとって結婚前の娘の恋愛について知る機会になり、娘にとっては結果的に親孝行になっていることもある。
その後、ヨン様ブームは落ち着いたが、貪欲な女性たちは新たなイケメン開拓を怠ってはいない。いまや、イケメンをめぐる消費行動は、旅行や関連グッズへの散財のみならず、そのお目当てのイケメンのためにキレイになることをめざす女性たちによって、モノが売れないといわれるなかで化粧品、美容、ダイエット関係市場は大いに盛り上がっているのだ。
さて、ヒメハハにとっての夫は「王子」であるはずがなく、「侍従」であれば及第点といったところ。またヒメコにしてみれば「イケメン」遊びもいいけれど、結婚はもっと現実的な問題。同じく適齢期であるはずの同世代、団塊ジュニア男子は、ともすると職にありつけず、家に引きこもっているタイプも少なからずいる。彼らを、ここでは「ヒキオくん」と呼んでみる。
でも、グリム童話のお姫さまのように、ヒキガエルならぬヒキオくんを壁にぶつけたところで王子になる可能性はまずない。ゆえに今日もヒメコさんはマリー・アントワネットのように「イケメン」を消費して楽しむのである。
(2007年夏)
※この文章は高山ビッキが2007年に企業のPR誌に執筆したものをほぼそのまま掲載しております。無断転載を固く禁じいたします。※本サイトへのお問い合わせはケーアンドケーまで03(3981)6985
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